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子ども時代のおやつ、いま食べたい上等な焼き菓子

子ども時代の代表的なおやつといえば、思い出すのはカトルカール。学校から帰ると、カウンターの向こうに母がいて、こちら側に祖父が座っていて、焼き立てのカトルカールがケーキクーラーにのっている。

焼きあがったケーキは型ごと逆さにして出すから、表面が平らになって、切り分けたときにカステラのような形になる。

焼きたてふわふわのケーキを前にしたら、温かいのをすぐに食べたいという気になるものだ。でも、こういうケーキはしっかり冷まして、できれば数日経ってからが断然おいしい。

時間が経つと生地が落ち着き、バターの風味が成熟する。粉糖をかけて、気前よくカットしていただく。ふわりとバターの香りがして、やさしい味が口に広がる。

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大人になって初めて自分で作ったカトルカールは、我ながら初めてとは思えない上々の出来だった。

レシピをいくつか検討した上で、まずは基本通りにしようと考えた。材料は、粉、バター、卵、砂糖を同量ずつ。混ぜる手順はいくつかあるようだが、母の作り方を思い出しながら試してみた。

大きなボールに卵を溶いて砂糖を入れ、湯せんにかけながら泡立てる。ふるいにかけておいた小麦粉を加えてさっくり混ぜる。最後に溶かしバターを加えてよく混ぜる。パウンド型に流し入れ、180℃に予熱したオーブンに入れて40分ほど焼く。

ケーキが膨らんでいくようすを私はじっといつまでも見ていられる。子どものころ、どれだけ見たか知れないのに、ほんとうに魔法のようだと感じてしまう。

そのカトルカールは、以前よく食べた懐かしい味で、私のケーキというより母のケーキだと思った。

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母と祖父がいて、焼き立てのケーキがある光景。ぼんやりと思い出す日常のひとコマにすぎないから、もしかしたらそこにあったのは、ほんとうはカトルカールではなく、チーズケーキだったかもしれない。焼き芋という可能性もある。

ただ、子ども時代に母がよく作ってくれたカトルカールの香りと味が、とりわけ記憶に残っている、ということなのだと思う。

年を経るごとに母のお菓子のレパートリーは増え、カトルカールはなかなか順番が回ってこなくなった。

どのお菓子もおいしいけれど、カトルカールはいまでも食べたい上等な焼き菓子である。

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