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未来文明史論2020 ❼ ムダな進化と生物多様性〜人文科学のアプローチ

 こんばんは。おもしろい新学説が提示されてました。
 ダーウィンとファーブルは、子供のころ、自伝や簡単なガイド絵本のようなものを読みました。その後、原著にあたり、疑問と好奇心がさらに膨らんだ思い出があります。

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 大学・研究所のプレスリリースがとても面白いですね。
 高度な研究機関とはいえ、難解な専門知識や専門用語を要するものばかりではなく、ちょっと古めの著作で「わからなかったこと」をさらに深く考察する糸口がわかるものです。興味を抱いたら、学術論文もそのあとで読みたくなる。中高生も最新の科学に触れて、若い研究者がさらに増えて欲しいです。研究の世界も、#広報力 が問われています。

【要約】
自然界の「ムダの進化」が生物多様性を支える 生物種の個体数増加に寄与しない利己的な性質の進化が導く多種共存
2020年7月10日 09:30 | プレスリリース・研究成果
https://tohoku.ac.jp/japanese/2020/07/press20200710-01-muda.html

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20200710_01web_muda.pdf

・自然界でこれほど多様な生物種が共存できるのはなぜか、「競争強者」が「弱者」を排除してしまわないのはなぜか、生態学の重大な未解決問題を解く理論の提案。
・多くの生物(特にオス)に見られる色鮮やかな模様、求愛ダンス、歌、巨大な角など、種内に生じた「ムダの進化」が鍵。
・「ムダの進化」によって、異種間の競争の影響が緩和され、その結果、多種の共存が促進されうることを理論的に提示。
種間競争を重視する従来の見方とは対照的な生態系観の提案。


【わたしの議論:進化論の歴史と、人文科学的な解釈】
#ダーウィンの進化論
読書メーターで調べると、関連本がたくさんあります。#進化論 だけ売れる本になるのでしょうね。
https://bookmeter.com/search?keyword=%E9%80%B2%E5%8C%96%E8%AB%96

「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」

 自己啓発セミナーで、よく聞かれる一文です。しかし、チャールズ・ダーウィン(1809~1882)が言ったと誤解されています。
 そもそも #進化論  には様々なものがあり(※後述します)、進化に「目的」はなく「結果」であることを主張したのが、ダーウィン本来の進化論なのだそうです。「キリンの首は、高所の葉を食べるために進化して長くなった」というのは間違い。辺境生物学者の長沼毅さんが主張するように、


「偶然そういう性質を持って生まれ、かつ、その性質が選ばれるような環境に生まれてきた彼らは「運がよかった」ということになるでしょう。生物の進化には、そういう側面があるのです。」(長沼毅『辺境生物はすごい!』より)

 進化論が学会に与えた衝撃とさまざまな批判、解釈論はたくさんあります。いまだに「進化論」を信じていない人は多くいます。進化論にあてはまらない事例やミッシングリンク(進化途中経過の化石がみつかっていない)など、問題点は沢山あるものの、大きな問題を提示した論ですね。

 更科功さんの著作が「目からうろこ」で、とても面白かったです。その主要な論を引用します。
 ダーウィンが生きていた19世紀を振り返りましょう。『種の起源』が出版されたのは1859年です。それより15年前の1844年に、イギリスのジャーナリストであるロバート・チェンバーズ(1802~1871)が『創造の自然史の痕跡』を出版。この本の中で進化論が論じられています。
 またイギリスの社会学者であるハーバート・スペンサー(1820~1903)も『種の起源』が出版される前から進化論を主張していました。
 現在「進化」のことを英語で「エボリューション(evolution)」は、スペンサーが広めた言葉。ダーウィンは、進化を意味する言葉として「世代を超えて伝わる変化」(descent with modification)をよく使っていた。この言葉には進歩という意味はありません。つまり19世紀のイギリスで広く普及したのは、ダーウィンの進化論ではなくて、スペンサーの進化論が広まっているのです。
 このように、ダーウィンの進化論には誤解があるようなのです。原著にもどる大切さを学びました。

 これ以上、「進化論」史にふかく突っ込みませんが、進化論から刺激を受けて、わたしのフィールドで考えてみましょう。

#生物多様性  これからの科学全般が再認識するキーワードだと思います。人文社会科学分野も。生物の世界が、一本道ではなく、多様に分化している世界であることは、「わたしたち人間も自然の一部であり、絶対的な存在でないこと」を示しているのであり、人間社会にも、生物多様性の視点を活かすべきであろうと思われます。

 たとえば、新型コロナウィルスによって露呈した、現在進行形の社会問題をあげましょう。現在の人種差別の思想や弱者を排除する社会は果たして「自然」なのだろうか。生物ごとに、格差があるのはわかります。平等な社会というのも理念でしょう。ただし、この世の中が #弱肉強食  という一面で、強いもの、ズルいものしか生き残らない、人間界のままであったら、ディストピアです。ところが、今回の新学説のように、ムダな進化によって現実の自然界は、弱いものも生き残れる社会です。だからこそ、美しい。

 都市社会の歴史をみてみると、さまざまな境遇の人が寄り添って生きるカオスな空間こそ、面白い。そのなかに、偶然 #突然変異  のごとく、異端者が生まれて文化が深まる。ムダな部分も、突然変異も、運よく生き残れる社会を提唱したいのです。
#東京オリンピック2020  が近づくと同時に、新宿や池袋など、都市再計画やクリーンアップ施策を観ていると、残念で仕方がないのである。「きれいな空間」「整った街並み」に、生物としての違和感を感じる。為政者によって、つくられた構造は浅くて脆い。たしかに、人間はどうしたって「自分が人間であることに基づく思い込み」「自分はすべて正しいという思い込み」「伝聞や言葉を鵜呑みにする思い込み」といった、思い込みにとらわれてしまう。それらはいわば、人の心に絡みつく鎖です。それら複雑に絡み合った鎖をほどく、キーが生物多様性なのではないだろうか。

▼参考文献:
『種の起原』〈上・下〉 (岩波文庫)
チャールズ ダーウィン 八杉 龍一 (翻訳)、1990年

『種の起源』〈上・下〉 (光文社古典新訳文庫)
チャールズ ダーウィン 渡辺 政隆 (翻訳)、2009年

『ダーウィン『種の起源』 2015年8月』 (100分 de 名著)
長谷川眞理子

『進化論はいかに進化したか』 (新潮選書)
更科 功、2019年

『チャールズ・ダーウィンの生涯 進化論を生んだジェントルマンの社会』 (朝日選書)
松永 俊男、2009年

『辺境生物はすごい! 人生で大切なことは、すべて彼らから教わった 』(幻冬舎新書) 
長沼毅、2015年

更科 功『若い読者に贈る美しい生物学講義』2019年

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おもしろいです。おすすめの一冊。

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