弁護士神原元

2000年から弁護士。武蔵小杉合同法律事務所を主宰。自由法曹団常任幹事。元植村隆東京弁…

弁護士神原元

2000年から弁護士。武蔵小杉合同法律事務所を主宰。自由法曹団常任幹事。元植村隆東京弁護団事務局長。著作「ヘイトスピーチに抗する人々」(新日本出版社2014年)。「9条の挑戦 ~非軍事中立戦略のリアリズム」(大月書店2018年)。布施辰治弁護士を敬愛。愛読書は「レ・ミゼラブル」。

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弁護士 布施辰治

「生くべくんば民衆とともに。死すべくんば民衆のために。」 この名言を残したのは、自由法曹団の創設者・布施辰治弁護士。 彼は、朝鮮独立運動の若者たち等を弁護して、戦後、韓国から大韓民国建国勲章を受けた初めての日本人だ。   彼こそ我々日本人の真のヒーローである。 韓国から建国勲章うけた弁護士の布施辰治とは? (jcp.or.jp)

    • 判決とラーメン

      弁護士の職責は基本的人権を擁護し社会的正義を実現することにあります。ですが、その職業のもう一つの側面として、職人として仕事をするという面があるわけです。 例えばラーメン屋さんはラーメンが自分の作品なのでしょう。基本的人権を擁護するためではなく、社会的正義を実現するためでもなく、美味しいラーメンを作ることはそれだけで価値があるわけです。 同じように、弁護士にとって良い判決は美味しいラーメンと同じようにそれだけで価値があるわけです。それはいわば自分にとっての作品なわけです。

      • 2023年の成果

        【以下は個人的なメモです】 今年は、個人的に弁護士としての私なりの「絶頂」の年だったと思います。 理由の一つは、以下の三つの裁判で東京高裁で一審をひっくり返し全面勝訴ということを成し遂げたからです(控訴の認容率は2割程度とされています)。 ・有田芳生vs.山口敬之(レイピスト) ・石橋学vs.佐久間吾一(川崎のレイシスト) ・高橋健太郎vs.上念司(全国区のレイシスト) また、以下の二つの裁判で勝訴し、川崎をレイシストから守りました。 ・三浦知人vs.レイシスト(一審

        • 戦争と平和の倫理学

          「国を守るためには強い軍隊が必要だ」という奴に聞きたい。 「で、お前は戦争に行くのか?」 行かないと答える奴は人様の死にフリーライドする卑怯者である。 行くと答える奴は戦争の悲惨さを知らない馬鹿者である。 誠実で知識と思考力のある者であれば、軍隊で国を守ろう等とは言わないのだ。 上の問いに「行く」と答えた諸君は、戦争で両手両足をもぎ取られても、精神を病んでも、国のためだと思って諦めるのか? 「行かない」と答えた諸君は、君の知人がそういう目に遭っても、無関心を装うつ

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          ウトロ放火事件~ヘイトクライムを規制せよ

          個人の所有物であり、プライバシーの問題もあるが、社会に警鐘を鳴らすためあえて掲載。 京都ウトロ放火事件の現場を視察。惨たらしい被害状況に怒りを新たにした。犯人は運動の象徴であった立て看板の倉庫を的確に狙って攻撃した。 ヘイトクライムだが、激情型ではなく、極めて計画性の高い犯行だ。 被害者弁護団によれば、犯人はインターネットでウトロを知り、ウトロ運動の象徴であった立て看板の格納場所を知り、そこを狙って放火したという。 植民地支配の被害者らが土地を守る必死の運動を展開した、その

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          天皇制は廃止すべきだ。

          人は生まれながらに法の下に平等でなければならない。この当たり前の大原則に反するのが天皇制だ。 原理原則の問題だけではない。先の大戦を振り返ってみよう。天皇陛下万歳と言いながら沢山の将兵が死んだのだ。裕仁天皇がまともな神経の持主なら、責任を取って最低限退位すべきだったし、当時の価値観に照らせば自決するのが筋だった。天皇制はこの時点で廃止されるべきだったのだ。 ところが、天皇は真っ先にマッカーサーに会って命乞いに成功した。マッカーサーも「コイツは使える」と思ったのだろう。

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          呉座勇一氏の和解後の対応を批判する弁護団声明

          呉座勇一氏は、自身の2023年10月1日付のブログで同年11月1日付で国際日本文化研究機構の助教に就任される予定である旨公表されました。私たちは呉座氏の復帰を歓迎します。 しかるに、呉座氏の行動から、9月27日にオープンレター訴訟の和解(以下「本件和解」といいます)で確認された事項を遵守していないとの疑念を持たざるを得ません。 すなわち、呉座氏は、現在、「呉座勇一先生の裁判を支える会」と称する会のブログ記事(以下「本件ブログ」といいます)を「オープンレター訴訟の和解成

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          映画評「福田村事件」〜マジョリティの自問自答

          映画「福田村事件」 被害者が日本人である事案を選んだとの点で少し疑問を抱きつつ、とにかく観てみようと思って劇場に足を運んだ。 結論から言えば「合格点」。 前半のグダグダはともかく、後半、朝鮮独立運動に対する日本軍の暴虐との関連、官憲によるデマ拡散、社会主義弾圧との関係等、朝鮮人虐殺事件との関係で押さえるべきポイントは全て押さえていたと思う。 事件発生が震災5日後の9月6日というのにも驚き。そして被害者が被差別部落出身者であるというのもこの映画で初めて知った。「水平

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          映画評「ある男」〜スティグマから逃れる方法とは

          1 疑問が解けた部分と残った部分 「ある男」(平野啓一郎、文春文庫) 映画がとても面白く、またいくつか疑問もあったので、原作を読んでみました。 2 スティグマを抱えた人々の物語 映画を一度見た最初の感想は、「この映画の本質は『スティグマを抱えた人々の物語』である」というものでした。 映画には「スティグマ」という言葉は出てきませんが、原作にはこれが出てきます(文春文庫153頁)。我々アイデンティティ・ポリティクスに絡む訴訟を手がける弁護士にとって「アイデンティティ」「ス

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          映画評「フラガール」~被災地の復興と原発廃絶への祈りを込めて

          1 今日という日は  今日、2012年5月6日は特別な日です(※)。なにしろ、日本に54基あった原発が42年ぶりに全て停止し、「原子力発電」でない電気によって1日を過ごせる日なのですから。原発についての映画はおいおいご紹介したいと思いますが、今日という日を記念して、原発事故の被災地、福島県に関連する、大好きな映画「フラガール」について書いてみようと思います。被災地の真の意味の復興と原発のない世界への祈りを込めて。  映画「フラガール」の舞台は、福島県いわき市。常磐ハワイア

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          映画評「ドリームガールズ」〜差別と向き合うことの複雑さを考える

          1 あらすじとテーマ  私の趣味はドライブ。車の中でよく聞くのが、この「ドリームガールズ」のサウンドトラックです。なかでもお気に入りは、ビヨンセ(ディーナ役)の歌う“Listen”と、ジェニファー・ハドソン(エフィ役)の歌う”I Am Changing” 。どちらも女性の自立を高らかに歌う、壮大なバラードです。 この映画の舞台は、1960年代のアメリカ・デトロイト。 幼なじみ黒人女性3人(ディーナ、エフィ、ローレル)で結成されたボーカルバンド「ドリー・メッツ」は、ビジネス

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          法曹の役割

          法曹の役割は法律を形ばかり守ることではない。その先にある人権と正義を守ることだろう。 「市民の基本的権利も法律で保護されない今矢面に立たねば。それが法曹人の義務です。」(映画「弁護人」より) 初出2018年7月28日Twitter

          沖縄と市民的不服従

          沖縄の人々が基地建設を「体で止めざるを得ない」のは、基地問題では民主主義が機能しておらず、差別と不公正が一方的に押し付けられているからだ。選挙で示された沖縄の民意が全く政治に反映されないなら、「体で止める」(市民的不服従)しかない。そう考えるのは自然だし、極めて正当なことである。 初出2016年10月26日Twitter

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          もう一つの日本

          伊藤詩織さんの件でゲラゲラ笑う国会議員とその所属政党を支持する多数派日本人を見ると、この民族への悲しみと嫌悪感で嘔吐すら催すとともに「もう一つの日本」を夢想したくなる。 ナチに最後まで抵抗したナチ抵抗ドイツ市民が「もう一つのドイツ」を夢想したように。俺は彼らのように生きようと思う。 俺の夢想する「もう一つの日本」とは、人種や性別によって人が差別されず、誰もが人格により尊敬され、苦しみを分かち合い、助け合う社会だ。伊藤詩織さんのような被害者は決して生まない。本当の日本社会は

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          スラップ訴訟について

          レイシストをレイシスト、セクシストをセクシスト、トランスヘイターをトランスヘイターと論評すると、名誉毀損訴状が飛んでくるケースが増えた。所謂スラップ訴訟だ。 意見論評は原則的に名誉毀損にならないとの法理を確立しないと、差別に反対できなくなってしまう。 もともと名誉毀損法は、貴族の名誉を守るという、差別的な思想に基づいた制度であることに注意したい。名誉毀損法と反差別は本来相性が悪いのだ。 アメリカでは、ヘイトスピーチの規制がない一方、公的存在に対する名誉毀損は「現実の悪意

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          ローゼン「尊厳」

          ローゼン「尊厳」読了。 単に「尊厳」概念の定義や歴史的変遷を追うだけではない。具体的ケースに適用して妥当性を検討する「反省的均衡」の思考をとる。とても論争的な書だ。 筆者はカントによる「尊厳」の世俗化を支持する立場に立ちつつ、ドイツ憲法に見られる「尊厳の法制化」には批判的なようだ。 「尊厳ある小人」「ダシュナー事件」の分析には唸らされる。 「尊厳」概念のカソリック的解釈によれば堕胎はいかなる場合にも禁止されるという不合理も生じかねず、現代の人権感覚に整合しなくなるだろ

          ローゼン「尊厳」