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ブラブラと幕府の謎を解き明かす─文化財をめぐる保存と探究─

教育長の高橋洋平です。

『内外教育』で掲載されました「第4回 鎌倉教育長日記」を紹介します。(内外教育には許可をいただいています。)


先日、タレントのタモリさんが全国をブラブラ歩くNHKの番組「ブラタモリ」が鎌倉に来てくれました。タモリさんが日本各地を歩き、街並みの中に残る痕跡を手掛かりに、地学、歴史学などの観点から秘密を解き明かしていく、実に探究的なあの番組です。(レギュラー放送が終わってしまって悲しい!)

タモリさんは、番組内のフィールドワークや研究者・学芸員との対話の中で、見事な推理をすることもしばしばですが、基本的には「分からないことを分かるように」なりたいと、心から楽しんでいる様子です。恐らくですが、番組を面白くしてやろうとか、評価されたいとか外発的な動機ではなく、内発的な動機による知的探究を、ただ楽しんでいるのではないかとも思われます。

人生100年時代の中でリスキリングや学び直しが叫ばれていますが、タモリさんは実務のために学ぶというより、自らの探究心を燃やし、ワクワクしながら学び続けている「炭火」のような人だなと思いました。

炭火のように学び続ける

鎌倉市の次年度からの教育大綱の検討の中で、「炭火」はキーワードの一つになっています。学校で授業を終えても、子どもたちのワクワクや興奮が冷めやらず、友人同士の対話を続けている様子などに出会うことがあります。子どもたちの心に灯がともり、じんわりと燃え続ける姿は、まさに炭火だなあと思われます。

環境保護活動家として知られるレイチェル・カーソンの著書「センス・オブ・ワンダー」(新潮社)には、「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます」とあります。

ある意味で、タモリさんは「子どもたちの世界」を持ち続けていて、炭火のように生涯にわたって主体的に学び続ける人と言えるのかもしれません。

大倉幕府の西端か

タモリさんは、番組の中で鎌倉の地図から大倉幕府(源氏三代が政務を執り行った御所)の位置を見事に推定していました。

ちょうどその周辺、横浜国立大学教育学部附属鎌倉小中学校構内で、2023(令和5)年まで下水道改修工事に伴う発掘調査を実施したところ、鎌倉時代の大型の柱穴が並ぶ様子が発見されました。

この辺りは大倉幕府があった場所の西端と推定されています。大型の柱穴の一部には柱の沈下を防止する板や石が据えられており、相当の重量がかかる構造物の柱穴であったことが推定されます。現在の周辺の地名が「西御門」であることからも、この由来となった御所の西門の遺構であった可能性があります。

また、この門の西側では、丁寧に突き固められた地面が見つかっており、これは御所の西側を南北に延びる道路と推定されます。古文書には、大倉御所の西側に「西大路」が通っていたと記されており、発見された道路遺構がそれに当たるのかもしれません。

埋蔵文化財は発掘調査を実施し、その調査成果と記録を着実に積み重ねて検証していくことで、歩んできた歴史の解明につながっていきます。

そう考えると、文化財行政は教育行政の基盤となる仕事であると思われます。源頼朝の死の真相につながる発見も、いまだ地中にあるかもしれません。広くご理解を得られるよう、埋蔵文化財について保護、探究、成果発信をしていければと思います。

(2024年7月23日『内外教育』掲載文)

※内外教育に許可をいただきnoteに掲載しています