真実は人の数だけあるんですよ、でも事実は一つです|『ミステリと言う勿れ』
水曜日ですね、今日のマンガは『ミステリと言う勿れ』です。
ミステリーのようで淡い、淡いようで濃い作品なんですよ。今回はいつも以上に、雑談の多いゆるゆるとしたテンションでお届けしております。
趣向の変化
最近「淡いマンガしか読んでないんじゃないか」くらいな感じなんですけど、これでも読んでるんですよ、ちゃんとエグいやつも。
今回の『ミステリと言う勿れ』は、前に鈴木おさむさんと話していたときも聞いた作品でした。自分でももともと読んでいて、作者の田村由美さんがこう...田村由美さんが好きというか...。そもそも、あまり作品から人を好きになることはないんですが流れとしては、「7SEEDS」からはいって「BASARA」は通らず、『ミステリと言う勿れ』にたどり着きました。
最近の趣向としては、ガンガンな「DRAGON BALL」系を読みたいかと言われるとそれも違います。「HUNTER×HUNTER」ですら、ちょっと大人向きのものに感じているんです。なのでマガジンも読むんですけど、ヤンマガ読む、みたいな感じでした。
昔だったら「好きなマンガはなんですか?」と聞かれたら、「DRAGON BALL」「幽遊白書」という答えになるはずなんですよ。
でも、今のぼくからすると「BANANA FISH」「YASHA -夜叉-」「イブの眠り」、「スプリガン」からの「ARMS」とか。ちょっと分かりやすくいうと「SPY×FAMILY」だよね、という返事になると思うんです。
なので『ミステリと言う勿れ』という作品も、この淡いテイストは女性が描いてるんだろうな、フラワーコミックスって感じだな、というところもありつつ、なんか最近こういうマンガをつい読んじゃうんだよね、という位置付けですね。
『ミステリと言う勿れ』の特徴
まず1つ言えることがこのマンガ、少女マンガに多い特徴ですが、めちゃくちゃ文字数が多いんですよ。
しかも、さりげなく書いてある「ちょっと待ってください!」みたいな文言を読んでおかないと、話が繋がらなかったりするんです。
例えば、次のページでも左下のところに。
とか、あるんです。これが少女漫画というか、女性向けのマンガの特徴だと思います。ぼくが普段マンガを読むペースで読もうとすると、3P読まないだけで展開が分かんなくなっちゃうんですよね。
それから、このマンガのいいところは「この大学生どんだけ知識あるんだよ説」に尽きます。主人公は犯人だと疑われて、最初は事情聴取をされるんですけど、すぐにプロファイリングが始まります。
整くんは、初対面の乙部さんが今気にしていることを探り当てていきます。
そのうえで、娘さんの反応は「ちゃんと大人になろうとしているからだ」と「育て方は間違っていない」と伝えるんです。
少し話はそれますが、男女の恋愛は「生物学的...」と言われることがありますよね。ぼくはそれも別に悪いことじゃない、人間の主たる役目は稼ぐことではなく種の保存、繁殖、繁栄だと思っているんです。
そういった人の感情についてこう整理されると、非常にロジカルでありながら温かい表現になるんだなと。「本当に言って欲しいんだろうな」ということを、整くんは言葉を選びながら相手に伝えているんですよね。
ここに優しさを感じるわけです。
整くんの優しさ
つぎに登場するのは、風呂光さんです。
こうやって風呂光さんと猫の悲しい別れを、整くんは塗り替えていくんです。でも、
この言われたら嫌なことを、グサグサ突きつけるのも、整くんのいいところです。
『ミステリと言う勿れ』は6巻まで出ているんですけど、ここもマンガらしいというか、最終的には金田一くんみたいになります。整くんがなんでもかんでも事件に巻き込まれていくんです(笑)。
もちろんそれがマンガですし、主人公が事件に遭わなければ仕方がないんだけども。整くんは「ワンチャンこういう人間がいたら、事件に遭遇するのかもしれないな」と思わされる人物像なんですよね。
一言多いし、すぐちょっかいを出す、そういうところがあります。
結局このマンガを紹介していこうとすると...すごく濃いじゃないですか。ぼくは、今話しているepisode1 あたりを紹介できればいいかなと思っているんですけど、結局犯人は〇〇さんなんですよね。
なんですけど、それを知らずに読んでいくとめちゃくちゃ面白くって。
態度が変わるとき
話を戻すと、さっきの井戸端会議はまだ続いているんですよ。ここで、すごい特徴的なのが右下のコマ。
こうあるじゃないですか。
ぼくはこういうのをめちゃくちゃ意識するんですよ。なんて怖い人間なんだろうと自分でも思うんですけど、普段は「鎌田さん」「鎌田くん」と敬ってくれている人の態度が、急に変わることってありませんか?
例えば、同い年の人で「なんとかだろ?」というノリで、呼び捨てにする距離感の友達がいるとします。この友達はAさんです。そしてAさんは、年上のBさんとも仲が良いです。そして、BさんはAさんのことを呼び捨てにしています。でも、ぼくとBさんはそんなに仲が良くありません。Bさんからぼくは、さん付けで呼ばれていました。
それがあるときを境に、BさんがAさんと同じ態度でぼくに接しようとするんです。そういうときに「扱いが変わったな」と思って、ぼくは反応しません。「これはぼくの存在意義として違う」と。
他にも、めちゃくちゃその通りだと思ったシーンがここです。
事情聴取が進むなかで、整くんの指紋がついた凶器が出たと告げられるんですが、そこでのやりとりがすごいんです。
ーーーーーーここからはネタバレを含んだ感想です。
たしかにその通りで、べったり指紋が出たから犯人かというと難しい。事実とは違うなら、リアクションも変わってくると思うんですよね。もし本当に証拠を仕込んでいて、実は犯人だったとしても、リアクションは違っちゃうだろうなと。
犯人と思われないように周到に演じているだけで、それがナチュラルな振る舞いにはならないんでしょうね。しかも、ここで藪さんはグッと掴んでいますが、「俺だったら絶対忘れないな」と思いましたね。
それからこのマンガでちょっと面白いのが、ところどころクスッと笑わせるコマがあるんですよ。
真実と事実
そして、ここです。
ここも、そうだなと。ぼくも普段から「真実」と「事実」という言葉をめっちゃ使い分けるんですよ。もしかしたら、このマンガの受け売りだったのかもしれないんですけど。
少し話はそれますが、前に「お互いにとっての正義があるんだよ」というnoteを書きました。だから「戦争が行われるんだよね」と。昔は「正義」と「悪」があって、悪が悪かった。でも、悪には悪なりの「正義」がある、そこには揺るがないものがあって…みたいな話です。
ここにも書いてありますが、真実はその人の数分あるんですよね。でも、事実は1つ。この言葉の履き違えはすごいと思っています。
これだけは間違っちゃいけない。
例えば、部署内でAさんとBさんの意見が食い違っていたとします。でもその理由は、会社を大きくしたい、事業を大きくしたい、クリエイターを守りたいがためだと。こういうときは両方の真実をぷっと見て、「事実的には何が優先順位の1位なんだろうね」と視点を変える必要がある。
こういうシーンは、やっぱり多いと思うんですよね。
気になる髪型
突然ですが、このときの髪の毛ってすごくないですか?俺もワンチャンこうなりたいもん。いいじゃないですか、特徴的で。髪型を気にすることがないじゃないですか。
── まさかそう思われていたなんて、面白いですね。ここにも鎌田さんの合理性が発揮されているんでしょうか。(聞き手)
そうですか?ぼくあの卒アル写真の後で、ツイストかドレッドみたいな髪型になってるんですよ。
── 特にHIPHOPが好きということではなく。
なんか、やってみたかったからですね。今も「あのとき、やっぱり楽だったしな」と思っています(笑)。
ミステリーマンガの作り方
話をマンガに戻すと、ミステリー作品を描けるのはすごいことだと思うんです。伏線をどこで入れているのか、どう逆算して描いているんだろうと。
最近ぼくもマンガを作っているんですけど、マンガは編集者と作家との間で作りながら考えていくところがあります。
でも、『ミステリと言う勿れ』は第一話はこういう犯人、こういうトリック、というのを作り込んでからじゃないと描けないと思うんですよね。一般的なマンガと、ミステリーマンガは作り方が違うんじゃないかと。
ここも、すごいシーンでしたよね。
よくこんなストーリーがあるなと。
ここで、本当に人間としては、キツイ言葉を並べていくんですよね。
ここで、また突っかかるじゃないですか。
「俺は忘れないぞ」「俺だったら、逆にこれで訴えるな」と。ぼくは目には目を、歯に歯を。やられたことは一生忘れないので。
で、これですよ。
この後に言うんですよ。
また最後にすごいなと思うのが、花の名前、石の名前、星座の意味とか、いっぱい出てくるんですよ。そして、心外ですと言うときの髪型。もうブロッコリーです。
この髪型とか。
で、最後のこれですね。
ただやっぱり、淡いなと思うんですよね。
ストーリーに話を戻すと、さらにここからは金田一少年でいうところの地獄の傀儡師 / 高遠洋一役が登場します。こういうマンガのなかでは、1話完結で犯人はこういう人ですという終わり方もあると思うんですけど...
この『episode 2 【前編】会話する犯人』は、noteで書くにはもったいないぐらい面白いのでぜひ読んで欲しいです。
episode 2というのがミソなんですよ。これまで通り単発のエピソードが続いていくのかと思いきや、実は全部が繋がっていく、そういう軸になる事件だとぼくは思うんです。そういう登場人物が出てくるんですよ。もう、これはぜひ読んでもらいたい、としか今は言えないけど。
例えば、こういうミステリーマンガの作り方としてepisode1〜8まで進めたときに、あえて8の犯人は捕まえず、その犯人は横軸で動かしておきながら次のエピソードを展開する方法があると思います。
それをですよ、2から始めているんです。めちゃくちゃいいバランスだなと。これが10〜15巻くらいで完結してくれたらいいなと思っています。
episode 3 つかの間のトレイン
もう1つ、整くんの頭が良すぎるなと思ったシーンがありまして。ひょんなことからepisode3では広島に行くことになるんですね。その新幹線のなかでのことです。
そもそもぼくが思ったのは「広島は新幹線で行くんだ、まじ遠いな」ということでした。「俺でもきっと新幹線かな、空港の位置がな」と。しかも、整くんは貝の弁当なんですよ、貝づくし。
ここでも「俺だったら肉づくしだな」と(笑)。ぼくはいつも大阪に行くときは、【東海道肉づくし弁当】を食べるんですよ。豚肉・鶏肉・牛肉が入ってるんですよね。
で、整くんは移動中に寝ようとするんですけど、ふと目に入った文章を読んじゃうんです。
そして、すべての手紙を読むことに
どんどん解読を進めます。ここのメッセージ性がすごいのと、よくこれを見つけたなと。
そのうち、実の母が父親から守ってくれていたことが分かります。
そうして、今のお母さんに託されたと。
「僕は常々」とまた語り始めるんですけど、この洞察力もなかなかのもんですよね。で、後ろの座席に育ての母がいたんですよね。
ここで、父からの手紙だと思われていたものも、すべて生みの母が書いていたことが分かります。
そして、ここです。整くんはですね、バージンロードといった古き良き慣習に全く興味がないんですね。むしろ、しきたりなんて変えていけばいいだろうとずっと言っていて。
そして、またここですよ。このマンガは最後の最後に、もう1個ちゃんと補足を付けてくれるという。
だからといって、これで通報するわけでもなく。犯罪という行為はダメですけど、お互い守らないといけないものもあったんでしょう。
道中たまたま会ったからといって、それ以上踏み込まないよという。
なんともいえず、淡い。
これが古畑任三郎だったら、間違いなく捕まえているんですよ。そんなシーンでも、人を捕まえるっていうことが目的じゃない、探偵でも警察でもない、1つの物語を見させてもらっている。
だから、episodeなんだなと。
そういう終わり方なんだと思います。
やっぱり、マンガは風化しないんですよ。昔の作品であろうと、今の心境によって読み方が変わります。昔はガツガツしたものが好きだったけど、今はこういうものを読んだ方が、包まれるような気持ちになるというか。そういうことを、『ミステリと言う勿れ』が思い出させてくれたなと思いました。
(ヘッダー画像引用元:「ミステリと言う勿れ」田村由美- 月刊flowers - 小学館)
こんなかんじでしょうか。
漫画も濃いしnoteも濃かったですね。
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漫画オススメまとめ(コメント有料版)
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