燃え上がる炎じゃなく小さくおだやかな熱狂を、演劇で続けたい。
今月5月の15日と16日に、友だちのバーを使って、演劇を上演します。
それは、バーにたったひとりお客さんを招いて、その人の目の前でふたりの役者が演じるという企画。
もちろん感染対策としての意味もあるのだけど、この企画の一番のねらいというか、聞いてほしいことがあります。
ちょっと長いんですけど、もしよければ、最後まで読んでみてください。
↓ちなみにその演劇の詳細はこちら
令和二年に札幌シェアターをつくった
去年の4月に、「札幌シェアター」というオンライン劇場をつくった。
「劇場」という空間は、どういう場所なんだろう。
ぼくが知っている劇場は、どんちゃん騒ぎだ。作品の内容に関わらず、その日、その場所に、つくり手も受け手も集まって生み出す、ほんの数日のお祭り。
つくり手として参加するそれはとても楽しくて、バカみたいに楽しくて、一度この快感を味わったら、なかなか手放せないと思う。
でもじゃあ、観客としてはどうかと言うと、子どもの学校の学園祭というか、テレビの向こうの甲子園というか、あと一歩入り込めない部分があると思う。
ぼくは、観客が我がコトにできる体験を、演劇としてつくりたいと思って、札幌シェアターを「シェアする劇場」と銘打つことにした。
これまでつくり手が独占していたどんちゃん騒ぎを、受け手といっしょに長く、深く共有する。時間と熱のシェアだ。
いま思えば、「オンライン」という環境もシェアにはうってつけだ。身の回りにない非日常の劇場よりも、スマホやPCといった生活圏に存在する劇場のほうが、ぼくが目指す関係性に近いのかもしれない。
できたことと気付いたこと
はじめは、テレビドラマでもよく見かけた、ビデオ通話の画面をライブ配信するような形ばかりだったんだけど、その頃によく考えていたのは「これはたのしいだろうか」ということ。
「演劇かどうか」ではなくて、「たのしいかどうか」をとにかく気にしていた。
周りにいるやさしい演劇仲間たちは、「意外と演劇だった」とか「演劇じゃないって言う人は気にしなくていい」とか、そういう言葉もかけてくれたけど、そもそもそこはあまり気にしていなかったのかも。でも、ありがとう。
ぼくは演劇をシェアしたいのではなくて、あくまでお祭りをシェアしたかったというか。だから、たのしいことは大事だけど、たのしい正体がなんのジャンルに当てはまるかは、さほど重要じゃない。
Zoomの画面をつなげて、役者たちが喋っているようすを演劇として配信する。これははじめはたのしかった。コロナウイルスによって失われた、祝祭性とか共有性みたいなものを、少し取り戻せたような気がした。
そして気のせいだけじゃなくて、実際、そういう要素を持っていたと思う。
事実、こけらおとしと銘打って行った配信演劇『コトゴト』ではリアルタイムで100人以上の人が集まったし、これまでに2000回以上の再生をいただいている。
YouTubeで2000回って、まったく大したことないけど、演劇で2000人集まったと考えれば、まあそこそこすごそうだ。
夏にはHTBのスタジオで、北海道の各地と電波をつなぎながらすすむ『北海道とつながる演劇 はじめのソラ』を配信したり、札幌市の公園に役者が出かけて市民にまぎれて演じる『札幌市街地演劇 おなじよるだいつも』をさっぽろオンライン夏祭りで配信した。
総勢50人近いエキストラを呼んで、オンライン結婚式を行う『The World Tour Bridal』や、観客投票で結末が変わる『人狼→演劇公演 cheAtIng each other』も上演した。
ほかの企画も、新しい人や場所とつながることを意識しながら、演劇のカベをすこし越えるような気持ちでやってきた。
そして、途中で気づいた。
あ、これ、これまでの劇場と同じことしてないかな?
つくり手と受け手にはまだミゾがある
いままで演劇の受け手だった人を、直接的、あるいは間接的にでも、演劇のつくり手に回すことで、ぼくらが劇場で味わっていた興奮をシェアする。
それはある意味、成功していたような気がする。だからこれまでやってきたことが、失敗だったとは思わない。
去年、新聞のインタビューで「演劇は参加したほうがおもしろい」と答えたのも、そういう意識からだ。
でもじゃあ、つくり手と受け手のあいだにあった熱量の差は、なにか変えられただろうか。つくり手に回った客と、受け手のままでいる客のあいだには、まだ越えられないミゾがある。
それに、受け手のまま、演劇を体験したい人が、たぶんぼくの想像以上にたくさんいる。そしてその人たちも、自分になじみぶかい体験のほうが、きっとたのしめるはずだ。
特別な体験を届けること
お客さんに、受け手のままで、演劇のたのしさをシェアするために2つのことを考えた。
ひとつは、特別であること。
『みえないかみえるか』は、たったひとりのために演劇を上演する。
これは名言しておきたいんだけど、配信は“ついで”だ。言葉を選ばずに言うと、無料でちょっと見せてあげてるだけ。稽古でも、配信での見え方よりも、その場にいるお客さんにどう届けられるかをずっと考えている。
でもじゃあ、そこに座っているあなたがつくり手かというと、そんなことはない。物語に関わっているようなセリフはあるんだけど、明示はされていないし、俳優たちはあなたをいないものとして演劇を続ける。
でもそこに確かにいるのだ、あなたは。そしてあなた目線で言うと、あなたしかいない空間に、俳優はたしかに物語をつくっている。
我がコトとして、演劇が生活になじむひとつの道として、「あなたのことじゃなかったら、誰のものでもないですよ」というスタンスをとってみた。
この特別感がいやという人もいると思う。でも、たぶん、これなら見てみたい、という人も間違いなくいる。
ぼくの実感として、会場で見るこれは演劇じゃない。いや、演劇なんだけど、たまたまバーに行ったら起こってたできごとというか、ぼくの人生の圏内に存在している話のような感覚だった。
一応言っておくと、お客さんの動きを強制したりはしない。言葉を発する必要もない。ふつうの劇場と変わらない、「ただの客」としてそこにいてくれればい。
強いてあげれば首からカメラを下げてもらうんだけど、ちょっと重いかもっていうことだけ我慢してもらえれば、なにが映っているかとかは気にしなくていい。配信で見せてあげてるほかの視聴者のために、ご協力ください。
小さな火のほうが近づきやすい
もうひとつの工夫は、近づきやすいこと。
いつもの演劇のどんちゃん騒ぎ的な熱狂は、近づきがたい。学祭の出し物を決める日に休んでしまって、なんだか乗り切れないあの感じ。
企画の盛り上がりを火に例えるなら、いつもの演劇はキャンプファイヤーだ。燃やせ燃やせと火に材をくべて、大勢が周りで歌い踊っている。
一夜の熱狂は、なににも代えがたい思い出であり、生み出されるエネルギーも消費されるカロリーも、とんでもない大きさだろう。
そしてそれ故に、近づきがたいと思うことがあるのだ。
『みえないかみえるか』で目指しているのは、小さいキャンドルみたいな灯り。
この灯りが照らすのは、せいぜい数人の人たちだ。衝撃的なほどの熱が生まれるわけでもない。なにかアクシデントがあれば消えてしまうような炎だ。
でも、キャンドルは、持って帰れるような大きさで、自分の家でもう一度火を灯すことができる。
燃やし尽くして、はい終わり、じゃなくて、小さく長く続いていくような熱狂。生活のなかで思い出せる火だ。
もちろん近づきやすさは人それぞれだと思うけど、大きな熱狂に近づきがたい人は、部屋のすみで灯っているこの炎なら、安心して寄ってこれるのではと思っている。
自分から近づいてきてくれれば、この演劇は、あなただけの体験になる。
料金の高さについて
正直、5000円って高いでしょ、とはぼくも思っている。でも必要経費的には、これでも少ない。だって2ステージで1万円にしかならないんだもん。出演料どころか、場所代にすらならない。
ただぶっちゃけて言うと、今回は実験的な企画でもあるから、たとえば1000円でチケットを売ることもできたんだよね。
でもそれってなんか、誰でも入ってこれちゃうって言うか、つまり「つくり手に回れるマインドの人」とか「キャンプファイヤーを楽しめる人」もかんたんに入ってこれちゃう。
もちろんそういう人も大歓迎ではあるんだけど、そういう行動力ある人であふれると、結局この企画も最終的にはキャンプファイヤーになってしまうよね、という。
だから、この値段設定はある種の敷居だ。知る人ぞ知るカフェのなんの変哲もないコーヒーが、ちょっと高いのと同じ。
どうぞためらってもらって構わない。それでもやっぱり見てみたいかもと思ってくれた人には、たぶんすてきな体験をお届けできると思う。
ただ、いま学校に通っているような人たちには、5000円は出せる金額じゃないよね。だから2回め以降の企画では、学生向けのサービスをなにか考えたいと思っているので、すこし待っていてください。(手が回らなかったらごめん)
ひとりのための小さな演劇
たったひとりのお客さんに向けて演劇を上演するこの企画は、今後も脚本や演者を変えて続けたいと思っている。
小さな火は、なんどもなんども灯して、その熱を分け合っていくことが大切な気がしているから。今回は、その一回め。
もしこの記事を読んで気になってくれた方がいたら、どうぞもう少し迷ってみてください。
迷っている時間も、小さな熱だと思うので。
来るときは事前に体調チェックしてください。怪しかったら当日でも連絡して。マスクもして来てね。ぼくらも万全の対策をしたうえでお出迎えします。あと俳優はマスクしてるから、せっかく近くだけど、顔は見えません。
最後に、もし中止にしたら、そのときは日付変えてやるから、noteとかTwitterをチェックしておいて。
鎌塚のTwitter @kama_rly
札幌シェアターのTwitter @sap_shareter
来場予約をするときは、下のフォームから。料金の支払いは当日です。
最後まで読んでくれて、ありがとう!
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