【マンガ感想】『宙に参る』(著・肋骨凹介)
また、素晴らしいSFマンガに出会えました。
肋骨凹介先生の『宙に参る』です。
Web連載作品であり無料で読むことが出来るので、SF的な物語に少しでも興味があるのであれば、まずは読んでいただきたい。
おそらくですが、士郎正宗先生の作品にハマるタイプの人であれば本作にもハマりそうな気がする、つまりはそういう系統の作品です。
舞台となるのは、公式紹介文を引用すると、「宇宙船が今で言うセスナ機ぐらい身近になった世界」。
主人公の主婦・鵯(ひよどり)ソラは、病死した夫の葬儀を終えた後、遺骨を義母に届けるため、息子(ロボット)とともに実家である地球を目指す・・・という所から物語が始まります。
(引用:『宙に参る』 1巻 / リイド社 / 肋骨凹介 / p.5)
ハードな宇宙戦争や銀河を舞台にした壮大なスペースオペラが描かれるわけではなく、宇宙時代の帰省の旅路を描く緩やかな宇宙的ロードムービー・・・かと思いきや、徐々に話は意外な方向へ。
明らかに”普通の主婦”という範疇に収まらない、高度な機械工学や謎のハッキング技術を有している鵯ソラ。
彼女の秘密が少しずつ明らかになってくると同時に、彼女の周りには様々な思惑の人達が集まってくる。
果たして、彼女は何者なのか?
無事、実家に夫の遺骨を届けることは出来るのか?
という、お話。
(引用:『宙に参る』 1巻 / リイド社 / 肋骨凹介 / p.46)
ちょっと上手く表現できませんが、本作は個人的に”ちょうど良い”SFなんですよね。
描写が難解なハードなSFという訳ではなく、良い意味でゆるめのコメディ成分の多いSFなのですが、世界観がしっかりしているので良い塩梅で作品世界に没入できる。
私のお気に入り作品である、あさりよしとお先生の『宇宙家族カールビンソン』に通じるものがあります。
作者の提示するSF観、未来世界や宇宙旅行の描写、その世界で人々がどのように生活しているのか。世界を構成する理(ことわり)がしっかりと示されている感じ。
この「世界観がきっちり構築されているか」という点は、私がマンガを観る上で注目しているポイントなのですが、本作はその点の描写が素晴らしい。
世界観だけで飯が食えます。
登場人物の台詞回しや、会話劇のセンスも良いですね。
ネットで主人公の鵯ソラについて、「主婦になった攻殻機動隊の草薙素子」(※映画版・アニメ版のクールビューティーな草薙素子ではなく、士郎正宗先生の原作マンガ版の自由奔放な草薙素子の方)と評しているのを観ましたが、これは実に的を射ていると思います。
時に難解な用語や概念が飛び交って理解が追い付かないけど、会話そのものの面白さでクセになる、というこの感じは、攻殻機動隊やエヴァンゲリオンに近いものがあるかもしれません。
そういう所に楽しみを見出せる人にとっては、たまらん作品です。
(引用:『宙に参る』 1巻 / リイド社 / 肋骨凹介 / p.35)
エピソードの1つ1つも、
・第1話にして未来の遠隔葬儀が描かれる『BONE IN SPACE』
・人工知能が”幸福”を語る『アン アブソリュート ロジック』
・自律小惑星型の将棋AIと”人工知能の人権”を巡る物語『永世中立棋星』
などなど、この手の話が好きな人にとっては、あらすじだけでワクワクが押し寄せてくるものばかり。
各エピソードが、上質なSF短編のような読後感です。
とりあえず、前述の通り無料で読めるので、興味のある方は特に評価が高いらしい『永世中立棋星』を読んでみることをおススメ。
2021年7月時点で既刊1巻のみですが、1巻で世界観の説明が完了、役者も揃って物語が動き出した感があるので、2巻以降にも期待大です。
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