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【読書感想】『利休にたずねよ』(著・山本兼一)

小説『利休にたずねよ』を読了。

実在する稀代の茶人・千利休を主人公にした時代小説で、彼の死(豊臣秀吉の命による切腹)から始まり、時を遡りながら「美の追求」に文字通り命を捧げるまでに至った理由、その業の原点に迫っていく物語です。
これはかなり良かった!

利休本人だけではなく、彼と関わった様々な人達による一人称視点で、代わる代わる千利休について語っていくという構成が面白い。
一つ一つの語りが短編小説のような形になり、その短編の集合体が一つの大きな物語を形成しています。

ある者からは高潔で比類なき美的感覚を持つ求道者と称賛され、ある者からは己の美的感覚を他者に押し付ける傲慢の権化と罵られる。
ある者からは細やかで完璧な心配りを絶賛されるものの、その完璧さを家族にまで求めるので、家族からは「正直しんどい・・・」と思われていたり。
支持者、敵対者、家族・・・、様々な立ち位置の登場人物達の視点で描くことによって、利休の複雑怪奇な内面や心に秘めた闇が間接的に照らし出されて朧げに浮かび上がってくるような構成がとても印象深かった。

人の心は多面的で複雑で矛盾に満ちている。
人の心が生み出す業は光にも闇にもなる。
千利休の生き様を通じて、そのようなことを改めて考えさせられる良い小説でした。

余談ですが、マンガ『へうげもの』を読んでいたおかげで、本作は5割増しぐらいで楽しめました。
古田織部をはじめとして共通する登場人物が多く、あちらの千利休も著者の作風も相まって強烈な業の怪人として描かれているので、本作を読んだら『へうげもの』もおススメです。


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