見出し画像

巣づくり

我が家の軒先には、今年も可愛らしいお客がやってきた!
毎年恒例の燕の巣作りは、ぼくや家族にとって、楽しみのひとつとなっている。ちょっと壊れている去年の巣をせっせリフォームして、今年も同じ場所で子育てをしようとしている。

まち中では、燕と同じような姿をした若者たちが、あちらへこちらへと動き回っている。
白いシャツと紺のスーツに身を包んだ就職活動中の学生たちだ。会社説明会や面接などに忙しく参加しているのだろう。
彼らの表情はさまざまであるが、ぼくはこの姿を見るたびに少しさみしい気持ちになる。

ぼくは、比較的大学生たちと関わる機会が多く、就活についてもよく話をするが、みんなとにかく『良い会社』に就職したいという。
「じゃあどういう会社が良い会社なの?」と聞くと、
「その会社の理念が、、、」とか。「自分はこういう特技があってそれを活かすには、、、」とか。それぞれ面接用に答えは用意しているが、つまるところ多くの学生は認知度の高い「有名な会社」に入ることを目指している。

もう少し突っ込んで聞くと、彼らが求めているイメージが見えてくる。
実は彼らが求めているのは、もっともっと目先のことだ。
就活直後、親類や同級生に「どこに就職きまったの?」と聞かれて「株式会社〇〇に内定もらいました~」と返答したとき、
「へー!すごいやん!!」という反応が返ってくるシーン夢見ているのだ。
逆に、そのような反応が返ってこない名もなき会社には魅力を感じにくい。「どこそれ?」「聞いたことないな~」みたいな反応をされたら最後、いくらその会社での仕事内容を説明したところで、すでに相手は興味を失っており、徒労に終わってしまうのだ。
特に同級生の間での評価を気にする傾向が強く、「へー!すごいやん」を言ってもらえるかどうかで、卒業までの自分の立ち位置が決まる。同級生から尊敬されるか否か、ここが焦点らしい。
実は、同様のことをすでに高校生の時にも経験済みだ。受験する大学の名前を言って「へー!すごいやん」を聞けるかどうか。。。

私が代表を務めるNPO法人テダスというまちづくりの一旦を担う団体には、19歳の職員T君がいる。
彼は一年前、みんなが「とりあえず学力の許す限り知名度の高い大学を受験する」ということに疑問を感じ、「社会において本当に求められているものは何で、どんな仕事に価値がありのか」を知りたくなったそうだ。
そして、ぼくのところに何度も相談に来た。
ぼくは、T君に「それならば大学に行かずに働けば良い」とアドバイスした。そして3~4年働いた後に本当に学びたいこと、学ぶべきことを知った上で大学に行くというキャリアデザインをすればよい。
彼は、最終的に進学はせず、高校を卒業してすぐに当法人のスタッフとして働くことを選択した。

受験勉強を始めた高校生が、受験に対してある種の疑問を持つことはよくあることだと思う。特にやりたい分野が見つかっているわけではない。将来の仕事のイメージも特にない。何学部に行きたいか?と聞かれても困る。それでも多くの場合、友人や先生の意見などに影響を受け、とりあえず学力レベルの合った大学を目指すのだ。

同じように、今、燕の姿をした学生たちも、さまざまな疑問を感じながらも、あちらへこちらへと就活セミナーに動き回っていることだろう。

できれば、決まった価値基準や、パターン化されたキャリアデザインに流されず、新しい仕組みや未開拓のルートをどんどんと切り開いて欲しい。

将来、自分の子どもができた時「この仕組みの中でなら育てたい」と思える仕組みを作るのだ。我が家の燕たちのように「また同じ場所で子育てをしたい」と安心できる場所があることは、とても幸せなことだから。

(2016年5月31日  京都新聞掲載)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?