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極彩色の食卓~Recipe For Your Soul

おはようございますkalikaliです。

都内のコロナ新規感染者がじわじわ増えてきていますね。。
ワクチンの開発争いも各国で激化とのニュースも目に付きますが、本当に早くこのコロナ禍が収まれば良いと思います。

私は博物館が結構好きで、一人でもたまに行ってしまうタイプなのですが、先日土曜日がお休みだったので「そうだ!久々に上野に行こう!」という気分になったんですね。
だがしかし確か博物館系は予約制になったとか、、、?
公式HPを開くと案の定暫く先まで予約がいっぱい。。
狙い定めた展示ではなく、思いついた日に何をやっているかふわっと見に行くのもまた楽しかったりするので、少し残念でした。

でも、衛生管理しつつ安全に運営されている関係者の方々には感謝しかありません。どこも同じかもしれませんが、安全性と集客のバランスを図ることはとても大変だと思います。
もう少し落ち着いたころにまたゆっくり遊びに行きたいと思いました。


今回読んでみたのは、みおさん著書の「極彩色の食卓~Recipe For Your Suol」(ことのは文庫)です。
手に取ったきっかけは、通勤中の電車内の広告です。見かけたのは続編にあたる「極彩色の食卓~カルテット キッチン」なのですが、読んでみたい!と思ったらどうしても最初の巻から読みたくなる性質なので、まずは一巻目からポチッとダウンロードしてみました。

初版発行は昨年2019年6月とのことです。
題名にもある通り、各章料理名をつけたものになっていたりと、全体を通して読んでいるだけでお腹が空いてくるような内容でした。

有名画家と料理上手の主人公が主な登場人物なのですが、色彩感を感じさせる綺麗な作品でした。主人公の見ている情景や出てくる色のイメージが湧きやすい、読んでいてわくわくする本に私は感じました。


1.登場人物

大島 燕
本作の主人公。美術大学を休学中のイケメン。
両親ともに絵描きを目指していたが叶わなかった。その影響で幼いときから描くことを教えられ、またその道に進む事を求められている。
大学で自分の絵が他人の真似でしかないことに気付き、初めてスランプに陥る。
迷走しながらも何とか書き上げたコンクールの作品が酷評されたことで心を抉られ、描くことを拒否し始める。両親や友人とも音信不通になり、学校も休学。イケメンであるがゆえに絶え間なく女の人に声を掛けられる為、色んな女性の家を短期間で転々とし続けるヒモ男に。
公園で出会った律子に人物デッサンのモデルをせがまれ、その後空腹で動けなくなった彼女を家まで運ぶところから物語は始まる。
数々の女性から料理を仕込まれたせいで和洋中・お菓子と何でもござれのスーパー料理上手。

竹林 律子
女流画家。三十年近く前に日本の絵画界に突如現れた。繊細だが革新的で、写実的な絵と飛びぬけた色彩感覚は百年に一度の天才と呼ばれた。
世界でも評価は高く、有名な絵画の美術雑誌の表紙を飾るほど。本人煩わしいことが嫌いでマスメディアには滅多に顔を出さないタイプ。
彼女を魔女と呼ぶ人もいた。
しかし突如彼女の絵は姿を消し、ここ数十年彼女は謎の人のままになっている。"律子の黄色"と呼ばれるほど、彼女の生み出す黄色は絶賛されたが、ある時から彼女の絵から黄色が無くなった。
公園で見かけた燕のことを気に入り、その場で人物デッサンを頼んだのが最初の出会い。行くところのない燕に自宅に住むことを提案する。
絵を描くことに関しては天才だが、その他のことは全くダメ。一瞬で部屋を散らかす天才。昔の弟子達から贈られる山のような物資で生活を賄っている。
六十歳越え白髪交じりのおばあちゃんだが感性や感覚、表現の仕方はとても若々しく無邪気で、幼い印象も。


2.あらすじ

スランプに陥って絵が描けなくなったイケメン美大生が、拾われて飼われていた女性の家から追い出され佇んでいた公園で、天才画家の竹林律子に「ねえ、あなた。ちょっとそこに立ってくださらない?」とデッサン依頼されたのが始まり。女性に声を掛けられることには慣れている燕だが、その相手が六十歳は越えているであろうおばあちゃんな上に、かの有名な竹林律子と知ってびっくりする。
一日中外でデッサンに明け暮れていた律子は突然エネルギー切れで動けなくなり、燕は彼女を支えて彼女の家まで送る。

彼女の住む家は何十年も経っているであろう古臭い3階建てのビルで、コンクリートむき出しの階段や茶錆の浮く扉など、ぱっと見だと人が住んでいるとは思えない外観。

中はアンティークな家具で揃えられているが、そんな家具を圧倒するように置かれるキャンバス、絵を立てるためのイーゼル、木のパネル、画用紙に絵具などなどが散乱。

およそ生活感の感じられない空間で、スーパーイケメン美大生の燕はキッチンに転がっていたカッサカサに乾いたバゲットと乾いたチーズ、冷蔵庫にかろうじてあった牛乳と卵で甘くないフレンチトーストを律子に作る。

律子は絶賛。行くと所がないなら、食事を作ること燕の人物デッサンを描かせることと引き換えにうちに好きなだけ泊っていけば良いと提案。燕は逡巡するも、疲れからリビングでうたた寝してしまい、そこからは今までのヒモ生活同様律子の部屋に住むことになる。


そこから約一年間、律子との生活を通して燕がスランプから立ち直り美大へ復学するまでの道のり。燕の両親との関係性や、自分自身との葛藤。
天才画家と一緒に暮らすとどうしても見えてしまう"絵を描く"ことと"本物の絵描きとしての才能"。
また彼女のいち女性としての人間性や感性に触れることで、燕の中で親愛の感情を越えた気持ちが育ち始める。

竹林律子が突如世間から消えた理由と何故彼女が代名詞ともいえる"黄色"を使わなくなったのか?
旦那さんの存在や、元弟子で律子に度々贈り物に訪れる男性と燕のやりとり。
徐々に見えてくる燕と律子それぞれが抱える心の澱が、ゆっくりと、でも確実に溶かされていく。

3.感想

文章から伝わる色彩表現が印象的だったのと、予想以上に飯テロ小説でした。
画家というものの生態が一様にしてこの小説にあるようなものなのかは分かりませんが、表現を仕事にする人は感受性が豊かなんだろうなぁと思いました。
日常生活に溢れる物事や感情の機微でさえ、主人公や竹林律子は料理や絵を通して表現してしまう。
ストーリー自体やラストに向けての過去がどんどん解明されていく部分ももちろん面白かったのです。でもそれ以上に、主人公がドロドロとした感情をそのまま色彩豊かに料理に仕上げたり、律子のこれまでの激しい悲しみや迷い、これからの活路を絵具と筆でぶちまけているシーンが、すごく印象的でした。
色んな小説で登場人物の感情変化が表現されると思いますが、この作品は読むだけでは見えないはずの色を、リアルに目の前に想像してしまう。そんな感覚になりました。

出てくる料理の食材も瑞々しくて、旬の食材や、季節のイベントに合わせた料理が毎章出てきます。新鮮な食材を料理上手な人が色彩感豊かに仕上げていくのって、作中の律子のセリフをがっちり引用になりますが、"絵"なんだと思います。色とりどりの食材から新たな色を生み出す。
そう思うと、毎日の食事が少し華やいだものに感じるし、読んでて本当にお腹が空きました。笑

調理物の本は好きで読むのですが、この極彩色の食卓もまた、五感に訴えってくる良い本でした。


4.オススメ料理

作品中に登場する料理の数々で、特に美味しそうだった(もはや我慢できずに作った笑)ものを紹介します。

甘くないフレンチトースト
桜とフレンチトーストの回に登場。燕が空腹の律子を家まで送り、そのままありあわせの食材で最初に作ったもの。
からからになったバゲットと乾いたチーズを、最終的にはバゲットの中までフィリングしみしみ、かつ表面はカリッと焦げ色のついた状態に持っていかれます。電子レンジを活用し、短時間で浸み込ませる小技を使ってくる燕も憎いと思いました。
一般的にフレンチトーストってバターで焼くことが多いと思うのですが、このフレンチトーストは甘くないしょっぱいタイプなので、オリーブオイルで焼いていく。
お腹が空いたときって、やっぱり甘いものよりはしょっぱいものが食べたくなるのが人間の性かなぁと私は勝手に思っているので、甘くないフレンチトーストをぱっと律子に提供した燕はすごいと思いました。
チーズ最高。

限界まで柔らかく茹で上げたナポリタン
夕焼けナポリタンの章に登場。夕暮れ時に目覚めた燕が、律子にあたたかくて夕日の色の食べ物とリクエストを受けて作ったもの。

西洋料理と日本の食文化の融合したナポリタン。通常の少しパスタを短めに茹でるアルデンテとは違い、ナポリタンの場合は所定時間より長めに茹でるそうです。その方が麺自体がむっちりとした触感になり、濃厚なケチャップソースとしっかり絡んで一体化する。
燕が使った食材は玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームにソーセージ。たっぷりのバターで炒めることで食材に一気に火が通り食感もよくなる。ケチャップと塩コショウとシンプルな味付けですが、彼は最後少量の砂糖と牛乳を加えます。ケチャップ大好きで色んなものにかけてしまうのですが、やっぱり使用量が多くなると塩味がきつくなると思います。
砂糖って凄いですよね。塩も同じくですが、ひとつまみ入れるだけで一気口当たりがまろやかに。
パスタをしっかり茹でると、水分をたくさん含んでむっちむちな上、沢山食べられるので好きです。笑




読んでる最中も読み終わった後も美味しい小説でした。笑
家の中でも色んな感覚を味わえる一冊を、美味しい物好きな方には特におすすめです。絵具セットが懐かしくなりました。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
拙い文章ですが、ご容赦頂けると幸いです。

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