「切ない」について考える

※aikoさんの「キラキラ」を聴かれてから読むと、より面白いかも。

私が小学生だった頃、偶に、従姉妹のお姉さんを交えて、家族で出かけることがありました。

遊園地に行った記憶が1番強くて、
そして何回か、カラオケに行った事も憶えています。

当時の私は、暗い部屋に閉じ込められて、時には暗い歌詞も聴かされるカラオケが、どうにも悲しい気持ちになって、落ち着かない気分になる事が多かった様な気がします。
(その割に、マイクは離したがりませんでした。笑)

従姉妹のお姉さんが歌う曲の1つに、aikoさんの「キラキラ」という曲がありました。
恐れ多くも、その頃はaikoさんの曲を全く知らず、従姉妹が歌う「キラキラ」だけが、私の知るaikoさんの全てでした。

「その前にこの世がなくなっちゃってたら」
という歌詞を聞いて、そんな前提、悲しすぎるじゃん。。。と感じた、まだ純粋だった私。

今冷静に聴いてみると、「遠距離恋愛だか何だか分からないけど、健気に彼と会える日を待ち望んでいる曲かな?」と何となく想像がつきますが、当時は、遠距離恋愛どころか恋愛が何なのかさえ、まだ分からない年齢だったので笑、意味が理解出来る歌詞だけが、異常にクローズアップされて、より想像力を掻き立てられたものでした。

「友達と喧嘩して悲しい」「好きなテレビ番組を見逃してしまって悲しい」という様な、実体験から来る悲しみだけではなく、「こういう事が起きたら悲しいな」という様に、想像力を働かせて悲しい気持ちになる事もあるのだと知った、今思えば、精神的に一つ、成長した瞬間だったかもしれません。

何年か後に、ある音楽番組で、aikoさんのLiveのモットーが「切ない」だと知りました。
「夏祭りって、金魚すくいをしているその瞬間から終わりに向かっていってる感じで。終わったら『また行こうね』って言い合っている。そんな感じのライブにしたい」と語っておられました。

「切ない」をネットの辞書で検索してみると、こんな風に出てきます。
「悲しさや恋しさで、胸がしめつけられるようである。やりきれない。やるせない。」

でも私の中で「切ない」は、aikoさんの感性と、とても近い感じのニュアンスで捉えています。

「切ない」とは、嬉しさ、楽しさと表裏一体にある感情。

友達数人と、ちょっと遠くまでドライブに行って、帰りの道中、無言になる瞬間。
旅行で散々騒いで、地元に戻って来て、それぞれの帰路につく瞬間。
これまた飲み会で散々騒いで、駅で別れてそれぞれの帰路につく瞬間。

これらは、嬉しい瞬間も楽しい瞬間も永遠では無い事を噛みしめる時間であり、
少し寂しいけれど、幸せな気持ちで満たされている時間であり、
「明日も頑張ろう」とささやかな希望を抱けるあの時間でもある。

寂しさと心穏やかな感情が共存する「切ない」という感情を、人はいつから分かるようになるのでしょうか。

それは分からないけれど、
楽しさと切なさ。
喜びと悲しみ。
強さと優しさ。
ずるさと正直さ。 
残酷さと慈悲深さ。

正反対に位置するこれらが、1人の生命の中で共存
し合い、それによって感情が育まれていくのが人間であると、
人は皆、誰から教えてもらう事なく、知っていくような気がします。

今夜は、有名な漢詩「勧酒」の原文と書き下し文、それに井伏鱒二の訳を添えて、お別れです。

勧 君 金 屈 卮
満 酌 不 須 辞
花 発 多 風 雨
人 生 足 別 離 

君に勧む金屈卮
(きみにすすむきんくつし)
満酌辞するを須いず
(まんしゃくじするをもちいず)
花発けば風雨多し
(はなひらけばふううおおし)
人生別離足る
(じんせいべつりたる) 

この杯を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
「さよなら」だけが人生だ

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