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ラビリンスワールド【連続小説】(その26)

第六章:卒業

 ラビリンスワールドに来てから今までの3年間で小さな家なら買えるぐらいのゴールドは溜まっていた。家を買うつもりはなかったので、思い切って広めのガーデニング区画を借りることにした。

花屋に行って店員に花やハーブのことを聞いて、気に入った花やハーブの苗を購入した。購入した苗をガーデニングの区画に植え、水をあげた。気のせいか水をあげた苗は喜んでいるようだった。

「どんな花が咲くのかな。楽しみだ」と思わずひとりごとがもれていた。
ハーブが成長してゴールドに変わるまでしばらく時間がかかるが、インゴットをつくる仕事に戻る気にはなれなかった。収入はなかったが、ラビリンスワールドでは特に問題ではなかった。時間があったので、カフェに寄ってみることにした。
「マコトさん。ガーデニングの区画を借りて、花やハーブを育て始めたんですよ」
「それはよかったですね。楽しいですか」
「はい!」
「楽しそうですね。それは何よりです」
「人数は少ないですが、ガーデニングをしている男性もいます。男性はガーデニングなんかしないというのは私の思い込みだったようです。それと、ガーデニングは土を耕したりする力仕事もあり、男性は重宝されています。私も仲間のために力仕事したりしているんですよ。これまでだったら、一銭もならない仕事は絶対しなかったのですが、今では普通にやってます」
「それはすごい。だいぶ変わりましたね。これならもう私は必要ないでしょう」
「いやいや、まだまだ教えてほしいことはいっぱいありますよ。とっても頼りにしているんです」
「依存を生んでしまう関係はよくないですね。これからはご自分だけでやっていけますよ」
「まだまだ、分からないことがいっぱいあります。マコトさんがいなくなったら、どうしていいか分からなくなってしまいます」
「そんなときにはどのように対応すればよいか教えたじゃあないですか」
「え、なんでしたっけ?」
「困ったときは、内側を探してください」
「あ、それですか。でも、答えが見つからないことがよくあるんです」
「内側に問いかけたあと答えが分からなかったら、次にあった人の言葉や、たまたま見たSNSの文章、カフェの隣の席から聞こえてきた会話の中に答えがあったりします。それを偶然と片づけないでください。偶然と聞き流したり、見過ごしているといつまでたっても答えは見つかりませんよ。それでもどうしてもわからなかった場合には、ラビリンスの廊下で私と会ったり、別の人が相談に乗ってくれたりします。『求めよ、さらば与えられん』ですよ。心配するのはよくないですよ。それではそろそろお別れです」
「そうですか。ありがとうございました。大変お世話になったのでお礼がしたいのですが、よろしいですか」
「はい。喜んで」
「あら、断られるかと思いました。いいことをしている人はお金をもらわないとおもっていました」
「それも思い込みですね。そのような思い込みがあると好きなこと、楽しいことをしていたら、お金が入ってこなくなります。いいことや好きなことをしてお金をもらってもいいんですよ。ショウさんもいいこと好きなことをしてお金をもらってもいいんです」
「そうなんですね。そう考えると気分が良くなりますね。それでは少ないですがほんのお礼の気持ちです」といってスマホから3万ゴールドをマコトに送った。
「ありがとうございました。しあわせにお過ごしください。それではさようなら」と言ってマコトはカフェからでていった。その後マコトの姿を見ることはなかった。

挿入歌 呼びかける歌 


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