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雨と積乱雲と高速と

めっちゃ綺麗!
…と急いで撮った写真。

あっちゅー間に雲の下に入り込み、真っ暗&土砂降り(笑)

あの映画に出てくる “ 龍の巣 ” みたいだな…と思った雲でした。

てなわけで、ショートショートをどうぞ。


 連日の猛暑に体も心も疲弊気味。
 空調の効いた室内で、体を休めるのも必要。

 でも、貴重な休日。
 日がな一日ダラダラするのもつまらない。

 『一念発起』

 そんな大層なものじゃ無いけど。
 小銭の財布とカードケースとスマホ。家と車のキーを持って玄関の扉を開けた。

 真夏のジリジリと焼け付く日差しの中。
 太陽の日差しで焼けた車のボディは、卵を落としたら目玉焼きでもあっという間に焼けそうなほど熱くて、ドアノブを引くのも躊躇ってしまう。
 それ以上に、直射日光が辛いので、体が溶けてしまう前に、とっとと開けてしまうに限る。

 ドアノブに手を掛け引いた瞬間。車内から、外気よりも熱い熱気がムワッと放たれる。

 外出は失敗?

 そんな後悔が一瞬脳裏を掠めるけども、ここは根性!…と、座席に腰掛ける。おしりと背中が、飛退きたくなるほど暑いけど、ここは我慢。
 急いでエンジンをかけて、窓を全て全開にしたらシートベルトを締めて車をゆっくりと発車。
 住宅街を抜けたら速度を上げて、車内の熱気を全開の窓から追い出す。汗が吹き出るような熱気が抜けて、生ぬるい筈の風が涼しさを運んでくる。
 窓を閉めてガンガンにかけた冷房に、車内の温度が一気に下がると、吹き出ていた汗が止まり心地よさが車内を埋める。
 ちょっと寒さを感じて冷房を緩めたところで、タイミングよく大通りの道へと出ていた。

 流れゆく街並み。
 並走するトラックや乗用車。
 平日とは違うちょっと浮かれた空気がそこにある。

 サンデードライバーだろうか、おぼつかない運転の車もチラホラ。
 そんな車の後ろはちょっと怖いので避けて走ってゆく。

 ETCは入ってる。
 何の躊躇いもなく高速下の国道に出ると、そのまま高架橋の下を走り高速の乗り口を目指した。

 一度速度を落とすと、ETCレーンを抜けて再び早い流れの高速に乗る。速度を上げてその早い流れに合流すると、やっぱり慣れない高速合流に緊張するのか、ふぅ…と、安堵の息が出てしまう。
 別に急いでいるわけじゃ無いし、目的地があるわけでも無い。ただのドライブ。高速を使っているから、“お高めのドライブ”ではあるけど、たまの話。慣れた街中を走るより、いつもは出せない速度と市内を抜けたら広がるであろう自然を考えると、高くても気分が良い。

 市内地仕様のオーディオ音量を上げて、ドライブ用のプレイリストを再生。
 更に気分を上げてみる。

 しばらく走って郊外にでる。街中にはなかなか無い大きめのSAが近づくと、迷わず入って車を停めた。
 SAの建物には行かず、まずは市街を望める見晴らしの丘に行く。ここに来たら必ずと言って良いほど、自分が住む市街を眺める。ここから望む市街はとても小さくて、その中で暮らしてる自分は何てちっぽけなんだろう…と、知らぬ間に鬱々と溜まっていた感情を捨てるための儀式のようなものである。


 トイレに行って。お土産コーナを眺めて。特産品を使ったホットスナックと好きなコーヒーショップのカフェラテを買って車に戻ると、再び高速への合流を果たす。

 お気に入りのプレイリストが終わって、ドライブおすすめのプレイリストが始まる。
 軽快なリズムに合わせて、陽気なメロディが流れる。一瞬、脳裏に綺麗な海が浮かんだ。

 適当に東へ走らせていた車。行き先決定!

 海へ行く事にする。

 大丈夫。ここら辺の地理なら頭に入ってる。
 山間を走る高速。海に行くなら2つトンネルを越えた先。もうそろそろやってくる分岐を経て、一番近い出口で降りたら南へ進路を切ればいい。

 一つ、二つとトンネルを抜けた先。人里離れた山間部から徐々に町へと近くなっている事を示すように、山間の間隔が広がり視界が開けたところで、正面の上空に大きな積乱雲があることに気付く。

 真っ青な空に、ドーンと異彩な存在感を放つ真っ白な積乱雲。

 気圧の境目か、下部はカッターナイフと定規で切り取ったかのように真っすぐ。もこもこと山形に育ったその雲は、雨が燻っているのか日の当たらないところはブルーとグレーが混じった色になっていて、日の当たる上部の白さを際立たせていた。
 有名なアニメ映画に出てきた、あの雲のようだな…と思う。

「すごい…」

 久方ぶりに見た積乱雲。こんなに大きくて綺麗だったかなと、思い返してみるが、心当たりがない。

 ゆっくりと曲線を描き始める高速道路。
 よくよく自分が走るであろう先を見ると、積乱雲の真下を走る形になるもよう。
 ちょっとドキドキする。

 だんだんと近づく積乱雲。
 よく見ると、雲の下は雨が降って紗幕がかかったかのよう、遠目からでもわかる雨のカーテン。道路にもクッキリと雨と晴れの境界線がある。
 車の速度そのままに、雨のカーテンを潜って突入した積乱雲の下。途端に土砂降りの雨が降り注ぎ、雷鳴が響き渡る。
 薄暗い雲の下。雨で視界の悪くなった正面。走り抜けようとする車のライトが自動点灯するとテールランプも点灯して、赤い光の点がワイパーを高速で稼働しても拭い切れない大量の雨で、揺れるフロントガラスの先にぽつぽつと浮かび上がる。
 雲の中心部分に近づいているのだろう。高速使用のオーディオ音量を凌駕する、車のボディを打ち付ける雨音は凄まじく。雷鳴も車体をビリビリと振動させるほど。
 その激しさに、車の中は安全と分かっていてもちょっと怖くなる。

 雷雨の中をしばらく走り、積乱雲の下を抜けると、そこにはまた抜けるような青空が広がっていた。

 バックミラー越しに見た積乱雲の姿は、やっぱり綺麗で壮大な感じ。
 でも、2回目の雷雨はゴメンだとも思う。

 再び聞こえるようになったプレイリスト。

 楽曲に合わせて歌いながら、出口を示す表示板と分岐のために増えた左車線に走行車線から車線変更。分岐を過ぎたら速度を少しずつ落として高速を降りる。

 あの激しい雨と雷に、何かをしたワケではない。
 けど、小さな冒険をしたような高揚感が全身に広がっていた。

 窓を開けて、ほのかな潮風を感じる。
 海まではもうちょっと。

 もうちょっとだけ、このドキドキを抱えて現実逃避といこう。

 海を眺めて冒険を終えるまで…ね?



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