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大規模プロジェクトにおけるコミュニケーションの考察

一般的に大規模で不確実性が高い場合にプロジェクトは難易度をますものです

これはなぜか。これをうまく制御するにはどうすれば良いのか、分解して考察をしてみます

大きな組織に働く慣性を知る

大きな組織やプロジェクトには、慣性がはたらくものです。
みんなも覚えているでしょう

「車は急にとまれない」

これと同じように大きな組織は急にとまれない。進路変更でさえも慎重さと規律が求められます。

慣性を理解して進路変更は慎重に

一方で物事の不確実性が高い状態では、変更が頻繁に起こります。変更に機敏に柔軟に対応できないと組織は自らにかかる慣性の力に振り回され制御を失ってしまいます

大きなトラックのハンドルを握っていると想像してみてください。
スピードが増すたびに進路変更は難しくなりますし、視界は限定的で車幅感覚、ブレーキ制動能力、ステアリングの癖を把握していないと運転することはできません。

これと同じように組織においてもそのサイズ、動きの仕組み、周辺の状況を把握することが重要になりますし、小さな組織よりも敏捷性がトレードオフになるという原則は抑えておく必要があります

”正解”の調整

さらに、組織は車のようにあなたの操作したとおりに動いてくれるというわけではありません。

ハンドルを握りたいと思っていても、同じようにハンドルに手をかけている人もいますし、ハンドルを握っているつもりでも実はもっと大きな車のタイヤにすぎないということは大きな組織になるほどに増えてきます。

関係者が多く、役割分担が曖昧または複雑であると、その分だけ意思の調整と統合が必要になります

「一枚岩のOne teamとなって臨む」

美しく掲げられた抽象度の高いスローガンに思いを一つにすることはできても、関わる人間全ての行動レベルにおいて、とりうるオプション、スピード、タイミング、その進め方を一致させることは至難です

プロダクトマネージャは”正しい”プロダクトをつくることに責任がありますが、大規模組織であるほどこの”正しい”は人により様々なものになり、ある特定の一人に全権が委ねられることはありません

全権委任されていない限り、このたくさんの”正しい”を真にその時現在のプロダクトにとっての”正しい”に調整し、着地させる必要があります。

だれもが自分のアイディアこそベストであると思いやすい

注意しなければいけないのは、関係者間のコンフリクトを避けるあまりに”正解”を混ぜ合わせたような折衷案を選択することです

玉虫色の決断は、一貫性のないプロダクトを生み出す要因となります。
複雑さがまして、顧客に伝えたいメッセージもぼやけやすくなります。

早すぎる「共有」を避ける


プロジェクトライフサイクルイメージ

プロジェクトの初期段階はリスクが大きく、変更コストが低いものです
よって不確実、不明瞭でリスクが高い状況であるときこそ、そのリスクを抑えようと関係者が増えていくものです。

状況が見えにくい不確実性がある場合こそ、その不安からも多くの人が関ろうという動きが強く働きます

曖昧であるほど増える「不安」と「知っておきたい」欲求

大規模なプロジェクトであるほど、その影響範囲は大きくなります。
そうなると、みな自分の管理する範囲や、関心のあるところにどのような影響があるのか?を早いうちに知っておきたい。と思うのが人情です

早い段階から興味、関心のありそうな関係者をひろく巻き込むというアプローチは知識や経験、スキル不足を補おうという点において一定のメリットが期待できます

ただし、このメリットを享受できるのは次の前提があります

  1. 全員の目的意識が一致している

  2. 全員で同じ背景・情報を共有できる

  3. 必要な前提知識を共有している

  4. 全員が相互に協力的である

  5. 各自から提供される情報が正確である

  6. 齟齬が生まれないような適切な意思疎通ができる

しかし、実際にはこれを満たすことは人数が増えるほど難しくなりますし、
不確定、不確実な状態で情報を部分的に共有されることは余計に不安感や焦りを与えてしまう場合もあります。

こうなると、関係者が不安を解消するために、「ほしい」と求める情報が増え、その提供に忙殺されてしまうと初期段階に行うべき作業が進まなくなってしまいます。

曖昧な段階での共有は関係者をざわざわさせる

また、早すぎる共有はその共有される情報自体も陳腐化、無効化されてしまう可能性も高くなります。

状況の変化の都度、伝達を多く行う必要が出てきますので伝達時の齟齬や漏れというリスクも大きくなります

「はやいうちに」「多くの関係者に」を完全なソリューションとして考えると、多くのチェック工程と多くのチェック担当者をいたずらに増やすということにつながります。

誰にでも認知能力には限界があり、同時に処理できる情報には限界があることを意識して初期段階においては「不確実性を下げる」「検討の範囲を絞る」ということを優先したほうがよいです

「何かを決める」のにも順序が存在します。先に決めるべき内容が定まっていない段階では決まらないことがあることに留意しましょう

誤解・齟齬は起きると意識する

人間の認知の仕組みとして不確実、不明瞭なものを理解する時にはその見えない部分を想像によって補完するようになりますが、これはとても個人差が大きいものになります。したがって、多くの人が集まってきたときには誤解・齟齬は起きるという前提でコミュニケーションを設計する必要があります。

本当に同じものを想像できている?

人が情報をどのように解釈するか、そこからどんな推論を立てるかは知識や経験、性格にも影響を受けます。

そして全員が自分の解釈や想像が正しいと思い込んでしまいがちです。
リスクが大きい状況においては、想像に過ぎないことをファクトだと思い込まないようにすることが肝要になります

コミュニケーションモデルの特性を知る

旧来のヒエラルキー型組織は否定的に論じられ、ティール組織やホラクシー組織などが提唱されるようになってから、”フラット”や”オープン”というものが要求される傾向は高まっているように思います

ただ現実的にフラットやオープンな状態を活かすには、相応の責任が明確に割り当てられ、高いリーダシップ、フォローワーシップそして、コミュニケーション能力が求められます

同時多言語通訳のようなコミュニケーションが必要

ネットワーク型のコミュニケーションは参加者の多くが、背景や立場、専門領域が異なる相手ともコミュニケーションができるようなハブとして機能するのでどうしても難易度の高いものになります

実際の責任、権限経験が伴っていない状態でフラット、オープンにしてしまうのは自体をより複雑化してしまうことにもつながります

まとめ じぶんにも他人にも過信をしないこと

大勢が関与するから複雑なのか?複雑であるから大勢が関与しているのか
もしくはこの両方であるのか?

誰しも自分のコミュニケーション能力には自信過剰バイアスが働きやすいものです

どんな相手であってもその意見や情報をただしく理解し、どんな相手にもただしく伝達し、どんな内容でもただしく判断できているか省みることが重要です

自分自身を含めた関係者全員を過信しすぎないことが重要です

その大きなトラックの運転席に座るのが、初めてなのであればなおのこと。


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