ミッドナイトスワン レビュー

観ました。いまさらながら

最近SNSの映像にしか触れていなかったので、美術館に行ったような満足感がありました。

世の中を概念的に切り取った映画という作品に触れると、普段なかなか使わない心の部位を使いますね。良い筋トレだ

※ここからはネタバレを含みます。あと少しお口に合わなかったので、この映画が好きな人は回れ右した方がいいかもしれません。

浅学ど素人の戯言ですが個人的な感想として
物語じゃなく映像を撮りたい人がつくったのかな

撮りたいシーンのイメージが何十枚もあって、それをつぎはぎ縫い合わせた感じ。特に、突拍子もない愛に戸惑った。

この感情を3週間ほど寝かせると愛になります。そして3週間寝かせたものがこちら
みたいな、強引な心情変化。3分クッキングかな

そんな感じなのにどこを切り取っても美しくて頭がバグる。これだけの絵を撮れる人が作ってなんでこうなるんだろう。なんだこの背骨をかけ違えたみたいなもぞもぞ感は。これも含め意図的なのか、私の感受性と周波数が合わなかったのか。

無理矢理深読みをすると、ホルモン注射を打った人の情緒不安定さと救いのない不条理でガタガタな世界を表現したのかな。

映像としては塚本晋也さんのざわざわと岩井俊二さんのさらさらを混ぜたような感じでどこで止めても映像の構図が完璧に美しく、自分にあるはずのない記憶が呼び起こされるような、幸せにも泣きたさにも似た感情が芽生える。

光の当たる角度まで鮮明にイメージが出来上がってて、それを落とし込む力があるんだろうな。

特に最初のバスが走るシーン
ただバスが走っているだけ。演技もなんにもなしでなんでこんないい絵になるんだ?と思うくらい不思議な引力を持っていました。


次に親友が屋上で踊るシーン
同じ曲を聴き始めたときから飛ぶだろう飛ぶだろうとは思いつつ、ああ、ここ撮ってるときイメージばっちりハマって気持ちよかっただろうなーと

その後のカットは血溜まりで四肢バキバキか、グロ少なめで焦点の合わないうすら笑みから段々引いて血が美しく拡がるかなと予想してみたけど飛んで終わり。死が美しい白昼夢のように扱われて、終わり。

とても失礼な表現をすると、この世界の残酷さグロさ、生きづらさを美しく撮りたいけど大衆ウケも狙いにいきたい気持ちが邪魔をした結果、「そうはならんだろ」「そこ踏み込まんのかい」みたいなモヤモヤの連続に。

絶望に沈みきれないから希望の美しさが引き立たないし、やるせなさをやるせなさとしきれない抑え方に苛々してしまった。

これは好みの問題でしょうかね…

ストーリーとして1番わからなかったところ、なぎさの一連の行動はいちかへの愛だったのか、おままごとだったのかということ。

個人的にはいちかの母になりたいというより、手術をしてもなにをしても手に入らない『母体』『母親』という生物に執着してたように見えて。

なのにそれを「命をかけてまで『母』になろうとした愛」みたいに扱うからなんか釈然としない感じでした…

あとは強い映像が欲しかったんだろうけど、性転換までしたのにブラをしてなかったことと、まあこれもコンセプト的には仕方がないけど、トランスジェンダーが終始哀れで品がなく撮れ高の良い化け物みたいに撮られてて腹が立った。

これが救いのない物語として撮られたものであればよかったんだけど、皮肉なく純粋に壁を乗り越えた母娘の愛として撮っているなら、24時間テレビのハンディキャップドキュメンタリーによく似た寒気がする

映像が好みだっただけにガッカリがたくさん出てしまった。でも作品を作り上げるって、こうやってテレビの前でぼーっとみて好き勝手言う10000000000000倍大変なことですもんね。私ごときのガヤなど気にせず是非、ご自身の目で観て、解釈違いや良い楽しみ方があれば教えていただきたいです。

p.s.
水川あさみさんだけはいつどんなドラマや映画でお見かけしてもばっちりはまりすぎて怖い。役ということを忘れるくらい、映画の世界の中を生きてる感じ。カットなんてかからなくて、田舎の狭いコミュニティでずっと生きてきて、多分これからもそうして生きていくんだろうなって錯覚するほどのリアルさ。主役じゃなくても彼女がいるだけで作品がグッとしまる。すごいなあ

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