グランドキャニオンの茶色について
グランドキャニオンに行ったとき。ぼくはおそらく人生ではじめて、茶色が美しいと思った。
茶色を綺麗に見せるのは難しいような気がする。ゴキブリよりもコガネムシのほうが綺麗だし、濁流よりも清流のほうが綺麗。こどもに茶色の色鉛筆を渡せば、もれなくうんちを書いてくるし、そこらじゅうに生えている木々だって、よくよく見れば茶色じゃない。大人になるにつれて、もれなく自然界で茶色を見かければ、それはすこし汚れたものであるかのようなイメージまでもが出来上がっていた。
だけど、グランドキャニオンは綺麗だった。
正直に言えば、あれはただの茶色じゃなくて、いろいろな茶色がコントラストに映えたからこそ生まれた光景ではあったのだけれど、あんなにも雄大な茶色の景色は、ぼくのなかにある茶色へのイメージをぶちこわした。
それは思わず触りたくなるような色だった。触れることで、なにかをもらえるような気もしたし、触れることでしか味わうことのできない体験があるようにも思わせた。
あんな茶色、ぼくは見たことがなかった。
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