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(連載小説)「魔女の本~岡部警部補シリーズ~」第1話(全3話)

とある日の事だった。小説家の八重樫恭子は自宅の2階で最新の小説を執筆中だった。
この女性は知名度は物凄い高い小説家で、芥川賞・直木賞を共に受賞している実力者であり、小説ならジャンル問わず何でも浮かんでくる天才肌の人物だ。でもそれは表の顔。裏ではとても負けず嫌いで、週間小説売上ランキングでベスト3に入らなければ、それは駄作であり、一切その本の話はしないし、存在自体無くしたいと、出版社に言いふらすほどだ。
でもここ5年間は短編・長編合わせて20冊の本を出版し、全てがベスト3に入っており、絶好調の時だった。今は丁度今年5作目長編小説「キラリ」という自身初の恋愛小説を執筆中であった。
この作品はとある女子高生が暴力団と恋をするというコメディチックも入った作品。
小説家歴30年目の節目の年に何故恋愛小説か。それに今まで恋愛小説を何故書かなかったのか。
それはとある人物が原因だった。それは・・・

「ただいま!!」

帰ってきた。自分は執筆中のパソコンを閉じて1階に降りた。
玄関にいたのは、夫の八重樫智弘だった。彼は実業家で様々な会社に投資しては成功させている実力者だ。しかし裏ではとても傲慢で頑固な人物であり、自分はこいつが大の苦手だった。
そう、今まで恋愛小説を書かなかった原因はこいつだ。自分はこの男とおよそ30年前に結婚した。そう、その年から小説というのを始めた。しかし、この智弘という男は、小説をやる代わりに「恋愛小説は一切書くな」と言う条件でこの仕事を始めた。
理由はただの嫉妬と束縛だ。そのためジャンルは基本は恋愛とは真逆のサスペンス・ミステリーを主にし、コメディ・シリアスはたまにやるくらいだった。一度10年前に恋愛小説を書こうという話も出たが、この男の圧力が原因で断念した。
でもやっぱり、恋愛小説を書きたい。でもそしたら離婚ということになるかもしれない。それは避けたい。今は娘の八重樫佳世が大事な就職試験を控えている。そんなところで離婚はどうしても避けたい。
そう思い悩みぬいた結果、最終手段しか道はなかった。

殺すしかないと・・・

でもそんな思いを秘めながらも、自分が笑顔で智弘に

「おかえりなさい。遅かったわね」

「あのクソ保険会社。俺が投資してやったのに銀行から融資されてやがった。それも俺に内緒でな」

キレ口調になりながらも寝室に向かった。寝室はいつも自分が執筆作業している部屋の隣にあり、自分はあまりこの男に見てほしくないため、作業部屋の扉は閉めていた。今日もそうだった。
寝室に自分が入ると、そこには先に私服に着替えていた智弘の姿があり

「なぁ恭子」

「はい」

智弘がゆっくりと自分の方を見た。その顔はとても深刻そうな表情だった。

「お前、恋愛小説を書こうとしているらしいな」

「え?」

どこからその情報を手に入れたのか分からなかった。出版社の人たちには一切内緒にしてもらっており、メディアにも漏れていないか毎日ネットニュースで確認しているほどだ。でも今日の昼までは何も漏れていなかった。
自分が寝室にあるこいつの作業机を見たとき、そこには恋愛小説関係の打ち合わせ書類が置いてあり、自分が少し怒りながら

「勝手に作業部屋入ったの」

「そういう問題じゃないよ!!あんだけ恋愛小説を書くなって言ったよな。この30年間、それを条件にしてお前が受け入れたから結婚したんだぞ!!それなのに今になって、破るのか」

智弘が怒鳴りつけた。でも自分はそれに我慢の限界を覚えたのか

「あなたこそおかしいわよ!!私がやりたいって一番言っていることをそうやって束縛して、私はあなたの命令で小説書きたくないの!!」

自分が今まで思っていた不満をぶちまけた。今ので少しスッキリしたことを覚えた。何故今まで早く言わなかったのだろう。自分に後悔しながらもただ智弘を睨みつけるしかなかった。
すると智弘が怒りながら

「分かった。お前がそういう気持ちなら、自分も考えがある。離婚だ」

「お望み通り、そうしてあげるわよ」

自分は思っていた。あんたに待っているのは、一人の女性を束縛しすぎたという代償をね。
その意気込みがあったからこそ、この言葉が出たかもしれない。すると智弘は怒りながらもその場を後にした。

夜・娘の佳世を含めて夕食を1階のリビングでとっていた。すると佳世が笑顔で

「ねぇお母さん。次の小説もう書いてるの?」

自分は先ほどの事はばれてはいけないと思い、笑顔で

「うん。今度は少し変わった小説書くから、楽しみにしててね」

と言うと、智弘が口を挟むみたいに

「次の小説は、駄作になりそうだぞ」

と言ってワインを飲んで、2階に向かって行った。佳世も少し不安げな顔をしながら

「そうなの?お母さん」

自分はあの男に少し怒りを覚えながらも、笑顔を保ちながら

「そんなことないわよ。あなたは就職の面接に気持ちを専念させなさい」

すると佳世は笑顔で

「はーい。それじゃおやすみ~」

佳世は一階にある自分の部屋に向かう。自分はおやすみと佳世に言い、遂に計画を実行に移そうとしていた。
まず第1段階は既に過ぎている。あのワインだ。
あのワインには睡眠薬が入っており、恐らくあと10分ぐらいで効き目が来るだろう・実は智弘は重度の不眠症であり、睡眠薬無しでは完全に眠れない。そのため、その後の実況見分で睡眠薬が検出されても言い訳が効くと言うことだ。その後はいよいよ第2段階・殺人に移す。
自分はいつも通り、明日の2人の弁当作りから皿洗いまで一気にこなし、時間は11時を過ぎたあたり、普段だと2人は寝ており、当然睡眠薬を飲んだ智弘は熟睡中だ。

その後自分は2階の作業部屋に行き、手袋をはめてから密かに入手していた拳銃を取って、寝室へと向かった。
当然智弘は仰向けで寝ていた。自分はそのこめかみに向けて扉付近から一発の銃弾を撃ち込んだ。
音は恐らく家中に響いたため、すぐに佳世が起きてくると思い、自分は拳銃を智弘の右手に握らせ、そのまま自分の作業部屋に入って扉を閉めた。
その直後に佳世が階段から登ってきて、叫び声を上げる。自分はすぐに駆け付けると、佳世が腰を抜かして座っており

「お、お父さん」

自分は慌てた演技をしながら

「佳世。あなたは自分の部屋に居なさい。私が警察呼ぶから」

佳世は慌てて自分の部屋に戻る。そして自分は110番通報をした。

これで八重樫恭子の完全犯罪は完璧なはずだった。あの女が来るまでは・・・

~第1話終わり~

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