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ある日の失敗と喜び

ああ、血の気が引くってこういうことか。

そろそろ帰ろうと立ち上がり、座っていた椅子を見た途端、思った。
一気に心拍が上がるのを感じる。
「これはまずい。非常事態だ。」とどこかで警鐘が鳴っている。

赤く染まった椅子をじっと見る。
気のせいじゃなかった。


そのとき私は生理中で、椅子のカバーを汚してしまったのだ。
しかも、夫くんの祖母の家で。
運の悪いことに、今日は夫くんの祖母と叔母、ご両親とのお食事会だった。

貧血のように目の前が暗くなる。
いや、本当に貧血なのかもしれない。
何であれ、これが現実だと理解したくなかった。

恥ずかしさで消えたくなるが、どうにかしなければ、と口を動かす。
「すみません、カバーを汚してしまったので洗面所をお借りしても良いですか。」

こっそりお義母さんと義叔母さんに尋ねると、何の話?という表情をしていたがすぐに察した様子で、汚れたカバーを抱えた私をこっちこっちと洗面所へ誘導してくれた。


カバーを洗っている横で、お義母さんと義叔母さんが何か手伝えることはないかと気にかけてくれている様子が目に入る。

「私も生理が重い方だったから、旅先で同じことやっちゃったことあるよ」
「今日体調悪かったでしょう、長居させてごめんね」
「私たちが引き留めちゃったから」
と、たくさんの言葉をかけてくれた。

ああ、なんて優しい人たちなんだろう…
水で汚れを洗い流しながら、目頭が熱くなるのをグッと堪えた。

終いには「カバーなんて私が洗っとくよ」とまで言ってくれたけど、それは丁重にお断りした。

そして、私の洋服が汚れてしまったこともあり(幸い黒色のボトムを着ていたが)すぐに帰宅することになった。さっきまで楽しく団らんしていたのに、挨拶もそこそこに一目散に支度をして帰ることを申し訳なく感じる。


いっぱいの感謝を伝えて、お義祖母さんの家の戸を閉める。
ドアが閉じた瞬間に涙があふれてきた。
夫くんがそっと私の頭を撫でる。

よりによって、なんで今日なんだ。
なんでもっとこまめに確認していなかったんだろう。

今日はお義祖母さん宅への2度目の訪問だった。
27年間で初めての失態だ、と恥ずかしさと悔しさが胸に充満する。


同時に、夫くんのご家族の優しさを思い返した。

私の気持ちを察して、平気だよ、よくあることよと声をかけてくれた。
人の気持ちに共感して手を差し伸べる優しさは、きっとこの家族みんなが持つ暖かい心によるものだろう。

新しく家族になる人が、こんな優しい方たちでよかった。
そばで心配そうにしていた夫くんの手をギュッと握った。


夫くんのご親戚との食事会は毎月一回開かれている。

今日は失敗してしまったけれど、絶対次回も参加しよう。
だってこれで距離を置いてしまうのは勿体ないくらいのいい人達だから。

恥ずかしさと、とても素敵な方たちと家族になれた喜びを抱えながら、
夫くんと2人、トボトボと帰路についたのであった。


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