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15センチのおかきもの

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言われてみると長い様な、読むと短い様な。 そんなおかきものたち。
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油煙に巻かれる。

 窓の外が、白んでいた。

 普通に生きていれば、気付くことのないくらい、薄い白がべったりと。青空を映す窓に張り付いていた。

 それに気付くことが出来たのは、毎日ただただ本を読み、横目で外を眺めていたからだろう。

 僕は紐に本を委ねて。青い座席のシートを立った。

 ボックスシートの間を抜けて、足を掬われぬよう一歩一歩を踏み締める。

 誰一人として目を向けず、手の中で画面の先のダンスを見てば

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花束

胸に抱えた、言葉は花束。
彩を悩んだ。種類を悩んだ。
多くを束ねた大輪は重くなりがちだ。
選りすぐりの一輪では伝わるか不安だ。
だから重ねた。色も、歳月も、この想いも。
枯れることを知らぬまま。

幸せの高台から、降り落ちる淡白な花束。
投げた彼女は純白を身にまとっていた。
きっとそれは、見た目も本質も花束だ。
貴女が作った言葉たち。
その未練を断ち切るために。
だから行く先も見ぬままに、白い花束

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五目並べ。

掴めもしない青に手を伸ばした。
届きもしないなんて考えもしない。
白い雲に手をかざした。
黒い影が顔にさした。
息を吸って顔を逸らした。
それでも手は伸ばし続けた。
こうして手を伸ばしていれば、少なくとも。
死にたがりには見えないはずだから。

死にたい。と言う時の口は笑顔で。
生きるか。と言う時の口は嘆きだ。
生を受けた時の鳴き声に意味を問わないで。
物心ついた時に打った感情の布石を見てくれ。

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晩夏

 夏は何かもが大きく感じる。
 大きく広がる青空、その青を切り抜く白い積乱雲。どこまでも木々が生える山。目に入るものでさえも大きいと言うのに、耳に入る蝉の鳴き声もまた大きいのだから、夏というものは大きく感じて、背の低い僕からも大きなため息が出る。

「久しぶりに、婆ちゃんの家に行くか」

 大きな欠伸しながら、車の鍵をチャリン。と鳴らしたのはオヤジだった。自営業も閉じた遅めのお盆休み。自家用のエブ

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