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【読書】百人一首(ストーリーで楽しむ日本の古典)

2023年1月12日(木)、岩崎書店の「ストーリーで楽しむ日本の古典」シリーズを1冊読み終えました。このシリーズは、中高生向けの本なのでしょうが、古典に出て来る人の思いがけないエピソードが散りばめられ、大変面白いと個人的に思っています。

今回は『百人一首』です。
『百人一首』は、藤原定家が選んだ秀歌撰です。今回の本では、名木田恵子さんが、各歌の背景や歌人たちのエピソードをストーリー化し、短編集にアレンジしています。初めて知ったエピソードも多く、以下、記載したいと思います。なお、歌意は、別の本である文英堂の『原色 小倉百人一首』から引用しました。

1.藤原定家

藤原定家について、「鬼の文字」という記載がありましたが、特徴のある筆跡だったようです。

97.来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ(権中納言定家・藤原定家)
<歌意>いくら待っても来ない人を待ち続け、松帆の浦の夕なぎのころに焼く藻塩のように、私の身もずっと恋いこがれていることだ。

83.世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成・藤原俊成・藤原定家の父)
<歌意>この世の中には、逃れる道はないものだ。いちずに思いつめて入った山の奥にも、悲しげに鳴く鹿の声が聞こえる。

2.小野小町(と在原業平)

小野小町と在原業平は恋愛関係にあったことがあるのでしょうか。

9.花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに(小野小町)
<歌意>桜の花はむなしく色あせてしまった。春の長雨が降っていた間に。
ー私の容姿もすっかり衰えてしまった。生きていることのもの思いをしていた間に。

17.ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは(在原業平朝臣)
<歌意>不思議なことの多い神代でも聞いたことがない。竜田川が唐紅色に水をくくり染めにしているとは。

3.陽成院

藤原基経との確執、源益(みなもとのすすむ)の事件、綏氏(すいし)内親王との恋愛など、様々なエピソードがあるようです。

13.筑波嶺の みねより落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる(陽成院・陽成天皇・清和天皇の皇子)
<歌意>筑波の峰から激しく流れ落ちてくる男女川がしだいに水量を増やして深い淵となるように、私の恋心も積もって淵のように深くなってしまった。

4.参議篁(さんぎたかむら)

・『野狂』と呼ぶほど、雄々しく誠実で気骨のあると記載されていました。
・夜間は冥府において閻魔大王のもとで裁判の補佐をしていたという伝説がある。
・「子子子子子子子子子子子子」は、言葉遊び。「猫の子仔猫、獅子の子仔獅子」と読む。この問題を考え出したのは嵯峨天皇、解いたのは小野篁であると伝えられている(Wikipediaより)。
・遣唐使のエピソード

11.わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟(参議篁・小野篁)
<歌意>広い海原をたくさんの島を目ざして漕ぎ出してしまったと、都にいる人に伝えておくれ。漁師の釣舟よ。

5.清少納言と紫式部(と藤原行成)

清少納言に紫式部、そして藤原行成の三人で話が作られていました。
清少納言の歌「夜をこめて~」は、藤原行成に対し、函谷関の故事をふまえて、切り返した歌のようです。
藤原行成は、蔵人頭(くろうどのとう)であり、能書家で三蹟の一人にも数えられています。また、当時の宮廷の様子を『権記』という日記に書いています。

62.夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ(清少納言)
<歌意>夜の明けないうちに、鶏の鳴きまねで人をだまそうとしても、あの函谷関ならばともかく、この逢坂の関はけっして許さないでしょう。ーだまそうとしても、私はけっして逢うことを許さないでしょう。

42.契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波超さじとは(清原元輔・清原深養父の孫・清少納言の父)
<歌意>約束したことだったよ。たがいに涙に濡らした袖をしぼっては、末の松山を波が越さないように二人の心が変わらないということを。(歌意を引用した本には、心変わりした女への恨みと諦めがたさと書かれてありました。)

36.夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ(清原深養父・清原元輔の祖父で、清少納言の曽祖父)
<歌意>夏の夜は、まだ宵のままと思っているうちに明けてしまったので、いったい雲のどのあたりに月は宿をとっているのだろうか。

45.あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな(謙徳公・藤原伊尹(これまさ)・藤原行成の祖父)
<歌意>私のことをかわいそうだといってくれそうな人は思い浮かばす、きっと私はむなしく死んでいくに違いないのだなあ。(歌意を引用した本には、源氏物語の柏木のことが書かれてありました。)

50.君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな(藤原義孝・謙徳公伊尹の三男・藤原行成の父・痘瘡のため21歳の若さで死去。)
<歌意>あなたのためにはたとえ捨てても惜しくないと思っていた命までも、逢瀬を遂げた今となっては、長くありたいと思うようになったのだった。

57.めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな(紫式部)
<歌意>久しぶりにめぐりあって、その人かどうか見分けがつかないうちに、雲間に隠れてしまった夜半の月のように、あの人はあわただしく姿を隠してしまったことですよ。(幼なじみの女友達とのつかのまの再会)

6.壬生忠見(と平兼盛)

平兼盛と壬生忠見が、村上天皇が催した『天徳内裏歌合せ』で、「忍ぶ恋」という題で優劣を競わせられた。壬生忠見の父である壬生忠岑のことや、平兼盛の血を引くとも言われる(娘?)赤染衛門についても少し触れられていました。赤染衛門は『栄花物語』正編の作者です。

40.しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで(平兼盛)
<歌意>心のうちにこらえてきたけれど、顔色や表情に出てしまっていたのだった。私の恋は、恋のもの思いをしているのかと、人が問うほどまでになって。

41.恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
(壬生忠見・壬生忠岑の子)
<歌意>恋しているという私の噂が早くもたってしまったのだった。誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめていたのに。

30.有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし(壬生忠岑)
<歌意>有明の月がそっけなく見えた、そのそっけなく思われた別れから、暁ほどわが身の運命をいとわしく思うときはない。有明の月(16日以降の、夜明け方になっても空に残っている月)、暁(夜明けのまだ暗いうち)

59.やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな(赤染衛門)
<歌意>あなたがおいでにならないことをはじめから知っていたら、ためらわずに寝てしまいましたでしょうに。今か今かとお待ちするうちに夜がふけて、西に傾くまでの月を見たことですよ。

7.和泉式部(と小式部、そして藤原定頼)

恋多き女性・和泉式部は、藤原道長から「浮かれ女(め)」と呼ばれたようです。また、その娘の小式部内侍の歌は母が代作しているという噂があり、藤原定頼がからかった際、小式部内侍が即興で詠んだ歌のようです。

56.あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな(和泉式部、小式部の母)
<歌意>まもなく私は死んでしまうでしょう。あの世への思い出として、死ぬ前にもう一度あなたにお逢いしたいものです。

60.大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立(小式部内侍)
<歌意>大江山を越え、生野を通って行く丹後への道のりは遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともなく、また、母からの手紙も見ていません。

64.朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれわたる 瀬々の網代木(権中納言定頼・藤原定頼)
<歌意>明け方、あたりがほのぼのと明るくなるころ、宇治川の川面に立ちこめていた霧がとぎれとぎれになって、その絶え間のあちらこちらから点々と現れてきた川瀬川瀬の網代木(氷魚・鮎の稚魚をとるために川に瀬に打ち並べられた杭)よ。

8.式子内親王

藤原定家と恋愛関係にあったとも言われています。法然とも?
斎院として過ごすことも記載されていました。

89.玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする(式子内親王・後白河天皇の第三皇女)
<歌意>わが命よ、絶えてしまうのならば絶えてしまえ。このまま生きながらえているならば、堪えしのぶ心が弱まると困るから。

9.後鳥羽院と順徳院

6.かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける(中納言家持・大伴家持)
<歌意>かささぎが翼をつらねて渡したという橋-宮中の御階(みはし)におりている霜が白いのを見ると、もう夜もふけてしまったのだった。
「天の川にかかる橋」とする説もある。

99.人も惜し 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに もの思ふ身は(後鳥羽院、承久の乱で隠岐に配流される)
<歌意>人がいとおしくも、また人が恨めしくも思われる。おもしろくないものとこの世を思うところから、あれこれともの思いをするこの私には。

100.ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり(順徳院・後鳥羽天皇の第三皇子、承久の乱で佐渡に配流される)
<歌意>宮中の古びた軒端の忍ぶ草を見るにつけても、しのんでもしのびつくせないほど慕わしいものは、昔のよき御代なのだった。

説明文が長くなってしまいましたが、以上です。

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