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文系ハート物理学科卒が考える、科学との付き合い方 (1) イメージと式

こんばんは。かきもちです。
私、今年の春に物理学科を卒業したのですが、いわゆる文系の側面を強く持ち合わせております。それがどうして理学院修士まで来たのか、振り返る意味も込めてこちらのnoteを書きます。連載の最後には、苦手な科学とどう折り合いをつけていくか、自分なりの答えを出したいと思います。

そろばん

 学校で2回だけ、居残りをさせられたことがある。1回は家庭科、もう1回は算数だ。家庭科の方は小学校5年生くらいのとき。不器用かつ面倒くさがりゆえに返し縫いができなかった。そもそも一度前進したのになぜ後退するのか。理由がよくわからないじゃないか。反抗心そのままに課題を出したら、やり直しを命じられたのだ。

 もう1回は小学校3年生のとき。足し算の筆算ができなかったためだった。私はそろばんを習っていた。そろばんの形状や手触り、珠を弾くパチパチという音、頭の中が無になる数分間が好きだった。そろばんを習うと、頭の中にそろばんがインストールされた状態になり、頭の中に浮かぶ絵で計算ができるようになる。すると、筆算は必要なくなってしまうのだ。面倒くさがりの性格も影響して、私はどんどん筆算から遠ざかっていった。足し算もできないくらいに。10の繰り上がりもできないくらいに。

 そろばんを習っていたことで、計算には苦手意識を持たずに済んだ。四則演算は大好きだった。なので、算数もそれほど苦ではなかった。ただ定規の目盛りは読めなかったけれども…。不器用さは相変わらずだったので、理科の実験は少し苦手だったように思う。電気の授業で導線と乾電池をつなぐとき、セロテープをうまく使えなかったのをぼんやりと記憶している。スケッチは得意だったので、観察は楽しかった。

正負の数

 中学校1年生で、プラスとマイナスの記号に出会った。ここでも私は足し算につまずく。マイナスの数を足す、というイメージを頭に描こうとした。しかし、うまく描けない。そろばんの珠にはマイナスの数字は乗せられない。あるのはプラスかゼロだけで、マイナスというのは負の数という「存在」ではなくて引き算をするという「操作」である。

 当時、私はスイミングスクールに通っていた。そこには年の違う友達も何人か、いた。「お前そんなとこがわかんねえの?あんなん簡単じゃん!」と一つ上のAは言う。「あんたには簡単でも、うちにはわかんないんだよ!」私は真剣だった。Aには簡単でも、私には深遠な問題だった。

 マイナスの数というのを足すと、引き算と同じ効果が生まれる。冷たい水が温かいお湯に加わって、少しお湯の温度が下がるようなイメージを抱いた。これがマイナスの数を足すということだと、中学1年生の私は思った。これが、お湯の温度をそのまま引くことと同じ。お湯を外側から冷やすイメージが浮かんだ。きっとこれが引き算の意味だ。そう信じることにした。

 正負の数の意味をなんとか噛み砕き、計算を続けていった。マイナスの数を足すということと、プラスの数を引くということが同じ意味だと、いつもイメージをつけるように試みた。黒板やノートの上で淡々と進む式変形は、私の中では天変地異であった。書き方を変えるだけで、心の中の風景は様変わりするのだった。

因数分解

 なんとか正負の数のイメージをつけた私は、数式の展開に出会った。これは非常にエキサイティングなものだった。分配法則によって、()のついた文字式を多項式へと展開していく。()に収まっている文字式を解き放ち、降べきの順にきれいに並べる。ばらばらとした手触りを感じた。数学はお気に入りの授業になった。

 そろばんによって計算に慣れていたので、こうした展開は誰よりも早くできた。その高揚感も伴って、授業では興奮ぎみであった…。先生が黒板に書いた式を声に出して展開してしまうので、「〇〇(私の苗字)はちょっと待ってな。」と先生に止められた。少し反省したが、つまらないとも思った。

 多項式への展開が好きだったために、その逆の因数分解も非常に楽しんだ。法則性を見つけて一つにまとめる。逆の過程ができるということ自体が嬉しかったように思う。

 ここに来て、また少しの違和感が生じた。まとまっていたものをばらばらにすることはできる感じがする。それをならべかえることもできるのもわかる。引き出しの中の教科書やノートを引っ張り出して、教科順にならべかえるようなものだ。それには色々な並べ方があるはずだ。
 ならば、それを元どおりにするにも色々なやり方があるのではないか。教科書ならば、教科順ではなくて厚さ順でもいいではないか。引き出しの中身の仕切りの数を変えてもいいではないか。しかし黒板やノートの上では、()の中身はならべかえられても、()の数や中身は誰でも同じようになる。なぜなのか。

 イメージと式がずれ出した。 


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