見出し画像

編集の会社がスナック「夜風」をオープンして、ローカルの”汽水域”をつくる理由

Huuuu代表の徳谷柿次郎です。

出版告知情報を世に投げ込みすぎて、会社全体の動きが煙に巻かれてるんじゃないかと心配しています。今回は経営者としてのメッセージを残しておこうかな、と。なにか動くたびにnoteに書き残す。これがマジ大事。

私自身は『おまえの俺をおしえてくれ』にどっぷり浸かっていますが、会社全体ではメディア編集の記事制作は月20本以上のペースでやっていますし、雑誌、イベント、Podcast、コミュニティスペース、店舗運営など、たった12人ぐらいのチームの割に手広く深くやりすぎてるぐらいです。

やれること、ぜんぶやる。

この迷惑な精神で、スタッフの「また何かやるの?」の怪訝な表情が生まれて、きっとシワが増えていくのでしょう。

そこで、またひとつ新規事業を立ち上げました。

10月14日、長野市権堂に「スナック 夜風」オープンします。

なぜ「スナック」なのか?長野市の夜に新たな風を吹き込みたい

・シンカイ=店舗とイベント機能
・窓 / MADO=働くを中心としたオフィスコミュニティ

長野市に移住して5年。ウェブ媒体を中心とした地域との関わりは「ジモコロ」「SuuHaa」を中心にコツコツ積み上げてきました。そして上記のリアルな場の運営は、自分のために必要なサードプレイス的な位置づけを拡張し、他者とのつながりを偶発的に生む装置として立ち上げてきました。

コロナ禍を経て、長野市の中心にある「権堂商店街エリア」は世代交代と時代の変化の影響を色濃く受けて、良くも悪くもスクラップ&ビルドの時期を迎えています。高度経済成長と昭和の勢いで一時代を築いた歓楽街の側面もあり、栄枯盛衰の訪れは致し方ないかもしれません。

長野駅前の経済的に見込みが立つテナントは常に入れ替わりがある。善光寺・門前エリアは20年以上、ボトムアップの古民家再生やリノベーションのムーブメントで個人店がたくさん生まれている。この2つのエリアは、長野市が観光地としての底力だと思っています。

夜風の店内写真

その真ん中に位置する「権堂商店街エリア」は、全国で散見されるシャッター商店街の特性(店じまいはしているけれど、二階に住んでいる)を持っていて、一歩路地裏に入れば『bird』『シーシャ場 円 -en-』『GOFUKU』といった馴染みのお店はあるけれども、夜21時以降の選択肢は決して多くはありません。昔ながらのベテランのお店はたくさんあるものの、移住者や地元の大学生が居つくような「夜のお店」があればいいのになぁ……と数年前から考えていました。

一方、地元の事業者や経営者、JCの方々と話すたびに「若者と出会う機会が少ない」「若者の採用も難しくなってきてる」などなど、昼と夜の中間だったり、経営者と若者の中間だったり、いわゆる汽水域となりえるようなお店がなくなってるんじゃないか?という発見がありました。

だったら、つくろう!!

自分の街は、自分でおもしろくすればいい!!

いろんな世代と地元の人たちが出入りして、普段出会えない大人たち、同世代性との交流を偶発的に発生されるのはスナックが最適なんじゃないかと考えました。

昭和リバイバルの流れももちろん汲みつつ、カジュアルにお酒を飲んで常連と一見さんが交差できるスナックの在り方は、人類史における発明なんじゃないかと思っているほどです。

「夜風」をきっかけに権堂商店街エリア自体を盛り上げたい。新たな風を起こしたい。地元のおもしろい飲み屋やスポットを案内所的な役割も果たして、二軒目、三軒目に誘う。そんなこともマジで考えています。

編集の会社なので、時代に合わせたスナックの定義をアップデートします。

国内縛りの「ローカルプロダクト」で全国のウマいお酒と出合える

信濃町の「萬屋酒店」で入手したイチオシの焼酎「河童九千防」(福岡・紅乙女酒造)

私自身がお酒を愛する人間です。ビール、ワイン、日本酒、ウイスキー、ジン、焼酎など、あらゆるお酒を文脈とともに全国行脚の流れで飲んできました。スナック同様にお酒のカルチャーもアップデートが進んでいて、ノンアルコールドリンクの多様性も日々進化しています。

Huuuuが「夜のお店」をやるなら、編集視点でこれまで出合ってきた新しくて面白いお酒を提供したい。自分たちさえよけりゃそれでええの時代はもう苦しくなってくるのは必然なので、たとえ原価が高くても若者に「お酒っておいしいんだな!」と感じてもらわなければ未来はありません。

それこそ取材で気づいたこととして、大学生のタイミングで悪酔いして吐いてしまうようなお酒のがぶ飲み体験が根付いていること。私もそうでした。いわゆる大量生産の安酒の役割は歴史的にあったとしても、無理やり飲まされて嫌いになるのはギルティです。良いお酒を飲む。合間でちゃんと水を飲む。また今度ジモコロで記事化もしますが、「酔い心地」を追求したようなお酒の存在を可視化していきたいと思っています。

オープン時のラインナップとしては…


ボトルキープがスナックの生命線!
ノンアルドリンクは車社会を意識して超力入れています

などなど、今後入れ替わっていくとは思いますが、私が全国で買い集めてきた新しいお酒もどんどん出していく予定です。

滋賀のナチュールワイン「ヒトミワイナリー」、同じく滋賀のクラフトミード酒「ANTELOPE」は私が大ファンなのでボトル限定で提供します。めっちゃおいしいから飲んでほしい。そして「夜風」を通して関係性をつくり、そこから取材に発展するような動きも目指しています。

いいお酒って、いいよな〜。

さらにスナックの可能性を広げるべく、「レコードでBGMを鳴らす」「配慮しながら喫煙可能」「オリジナルの選書棚から本を読める」としました。ゆっくりお酒を飲みながら、読書できる環境も貴重だから。

ほとんど私の私物です

クリエイティブは編集の会社らしく本気でやる

夜風のメインビジュアル

今回、お店のコンセプトは速攻で決まりました。築40年のスナックビルの3階のテナントで、いかに元々の文脈を理解しながら、本気で飲食店に取り組む覚悟を示すことができるのか?を考えた結果、ロゴデザインはシンカイ常連のやってこ!おじさんのデザイナー・大金貫(通称:ガネさん)に依頼。夜といえばガネさん。夜の色が時間帯によって変わるようなコンセプトデザインを出してくれて、「めっちゃいい〜〜」となりました。最高。

そして同時進行で私なりの編集を入れたのが、夜風を象徴するイラストビジュアルの制作です。Twitterやinstagramでずっとファンだったnoa1008さんにラブレターを送って、「夜風のイメージイラストを書いてください!」と依頼させていただきました。

街を切り取る視点と色彩、絵本的に想像力をかきたてるようなギミックの描写など、もうどの作品を見ても「すっき…」となります。noa1008さんのイラストの世界観を先に提示してもらいながら、そのイラストに合わせてガネさんのロゴデザインが生まれた経緯もあって、このメインビジュアルはもう完全にジャズなんです。プロとプロのかましあい。

お二人に依頼して本当に良かったと思っていますし、普段から思想つええこと言いがちな私のスタンスの中に「かわいくて、かっこいいものを愛でる」視点があるのをスパイス的に取り入れたかったのもあります。

さらに、「MADOの会員メンバーをいかに巻き込んでいくのか?」も編集の視点としてありました。

テナントを借りた直後のMADOメンバーとの視察。一番左=ティモちゃん、一番右=小松さん


飯綱出身でUターン的に戻ってきた一級建築士の小松剛之さんに設計を依頼し、同じく今年長野市に移住してきて、MADOで固定デスクを借りてくれている3Dデザイナーのパッシュ・ティモテ・アダムさん(スイス出身)を巻き込んで店舗設計がスタート。現場施工はMADOと僕の自宅をやってくれた天才大工・大木脩くん(26)、建築士見習いの伊藤一生くんが担当してくれました。原状復帰が前提で300万以上をぶっこんで、妥協なき店作りに挑めたのは顔が見える人たちに”対価をちゃんと支払った仕事にしたい”から。借金こさえてなんぼのローカル事業!

チームビルディング次第でアウトプットは変わる。これは編集の肝でもあります。いかに現場との関わりを作り続けて、「他人事とさせないか」はローカルであればあるほど重要だと思っていて。みんなでひとつの神輿を担ぐような共有体験と時間の積み上げをどれだけ渡せるか。これはシンカイ運営の経験で得られることができた視点です。

リビセンの古材&ガラスの看板は、チョークボーイさん率いる手書き結社「W H W!」に依頼

店主・河野晴紀を正社員雇用してまで取り組む飲食事業の覚悟

夜風の店主・ハルキくん(25)。このために東京から移住してきた鉄砲玉です。風の入社式の映像15分ぐらいの余興ですが、暇な人いたらぜひ。

スナック事業を始めるにあたって、お店の顔(=ママ)の存在が不可欠だなと考えていました。私自身は全国行脚のフーテン気質なので、ずっと同じ場所にいることができません。それこそ若者を主体としてスナックを目指すのであれば、人間性とキャラクターがしっかりしている人物が適任。スナックでありながら、バーテンダーのような振る舞いや空気の読み方ができる人材はなかなかいません。

と思ったら、いました。半分冗談、半分本気で一年ぐらい口説いていたハルキくんです。

友人の磯川大地くんが営むシーシャカフェ『いわしくらぶ』の店長をしていて、シンカイやLAMPのイベント出店で何度か会っていた経緯もあり、僕の大好きなラッパー・田我流の雰囲気があるなぁ…と恋焦がれていました。現場のまわしかたや気配りの深さとクイックな判断能力なども「めちゃいいな」と常々思っていたんですが、ハルキくんがいわしくらぶを卒業するタイミングで大地くんにもスジを通しつつ、Huuuuの新入社員として迎え入れることができました。

いわゆる編集の仕事はあるんですけど、編集未経験のハルキくんをそれまでのHuuuuに迎え入れるための器がなかったんですよね。「スナック事業を思い切って動かすか!」と決意したタイミングとハルキくんが「自然豊かな長野で暮らしてみたい(=でも仕事がない)」のタイミングが重なりました。すべてはタイミングだと思っているので、ハルキくんの存在がいなければスナック事業には踏み込まなかった。

同時に東京から長野に移住したいけれども、スキルとキャラクターを生かせる役割と仕事がないのであれば、いっそ作ってあげたい。そんな気持ちも芽生えていました。ハルキくんの「自然豊かな環境で役割を得ながら、暮らしていきたい」と願う衝動は、Huuuuがこれまで取材してきた価値観の根っこにあるからです。その衝動を汲み取って、サポートする。大人の役割でもあるし、Huuuuという会社がこれまで存続できてきたことへの恩返しでもあるんですよね。

会社初の手作り入社式と入社証書

私の経営スタンスに欠かせない考えがあります。

ローカルで人生を積み重ねてきた人たちの言葉によって仕事が成り立っている。東京のクライアントから信頼を得るためには、泥臭くも地域に根ざして活動してきた人たちの時間にお邪魔して、一本のインタビュー記事をつくることで循環しています。だからこそ、自分が好き好んで移り住んだ「長野」に新たな価値と環境を還元したい。シンカイ、MADO、夜風もぜんぶ同じ理屈で動いています。

冒頭の会社規模の割に「やりすぎ」な側面は理解しつつも、新たな旗印を掲げて必要とされる場を営む。場のスペースには役割の空洞が生まれて、地元の若者に機会をつくることができます。あらゆる大人とさまざまな価値観に触れてきたHuuuuだからこそ、仕事の役割の中から口酸っぱく言ってきた「ナナメの関係性」が生まれる。フィードバックの機会に恵まれにくい環境を生きる若者たちにポジティブな葛藤と逡巡の時間を持ち帰ってもらうことは、教育の一環でもあると考えています。

「夜風」がいい感じにまわっていけば、千原せいじが若手芸人のために経営していた居酒屋「せじけん」のように、長野の若者にとっておもしろいアルバイトになるかもしれません。生活の一助として機能するのはもちろん、そこでおもしろい大人たちと出会えて、腰を据えて話すことができる。都心にはそのようなお店はたくさんあると思うんですが、長野市にはあまりなかった。だから、つくる。そこで生まれた人間関係のエネルギーは、Huuuuの編集業務にも必ず生かせると信じているので。

はるきくんのアツい想いに関しては、同時公開のインタビュー記事をお読みください。

さいごに

第一レジャーアイランドビルの3階奥

いま権堂商店街エリアに新しい流れがきています。「夜風」から徒歩2分の場所に天然温泉&激熱サウナの『権堂温泉』がリニューアルオープンしたので、スナックの前後にひとっ風呂浴びることができます。

さらに徒歩2分の場所に海賊シェフ・鳥羽さんの下で修行していた金垣くんが11月にワイン&ビストロ『Hanten』をオープン予定。ここの連動は個人的には楽しみです。同じ通りのカルチャースポット『poolside』が仕掛ける週末イベントはいつも大盛況で人を巻き込んでるし、さらに近所のスパイスカレーと喫茶『椒(じゃお)』も最高だし、権堂商店街には12月にナチュールワインとカフェの新店舗もオープン予定です。

駅前のビジネスホテルの選択肢は多様。ゲストハウスホステルは『1166バックパッカーズ』『Pise(ピセ)』『DOT HOSTEL NAGANO』など、観光と長期滞在でも街の機能がしっかりしているので安心して来てください。

全国の飲食店や個人店主を誘ったポップアップイベントもやっていきたいので、みなさんお気軽にご連絡ください。

Instagramの公式アカウントのフォローをぜひ!最新情報はこちらで。

1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!