休止から半年。「シンカイ」再始動は大学生たちの復活を望む声だった
丸5年間運営していた長野市の謎のお店「シンカイ」。年間120万円ほどの赤字をきっちり5年間叩き出したんですが、これは長野に移住してきた自分にとっての「旗印(存在の広告)」でした。
お金に換算できない価値がたくさんある。むしろ得してるんじゃないかと思っています。なぜなら、シンカイは短期的なお金の換算ではなく、中長期的な目に見えない関係資本に時間と熱量を投じていたからです。長野における関係資本が当初10だとしたら480ぐらいになってんじゃないかな…基準はわからんが…。
だからこそズルズルと続けていても意味がない。見えない資本は簡単に減ることもありません。当初から「5年はやりきろう」と決めていたので、その半分がコロナ禍であっても続けることができました。
この判断と期間があってこそ、長野市の小さなエリアにおける不思議な役割を果たせたんじゃないかと思う一方で、店長だった長崎航平くんに申し訳無さも感じていたのも事実です。
彼自身も元々やりたいことがあって、出会った流れでシンカイに立ってもらっていただけ。そこで「利益構造の弱いシンカイのビジネスモデルで学べることは少ない。卒業して全国旅してきたらどう?」と提案しました。一年強、彼が同世代に対して向き合い続けてくれたことの貯金もありますし、ちょうど5周年イベント『シンカイラストダンス』の企画も進んでいたタイミング。こりゃ、ちょうどいいなと。
あっという間に半年経ってしまった
お店を休止したのが2023年6月。気づけば半年が経ちました。Huuuuとしてはコミュニティオフィス「MADO」も順調で、新しく立ち上げたスナック「夜風」は一周年をなんとか終えることができて毎夜新たな出会いを生み続けています。
そんな夜風である日、長野県立大学のエネルギーもてあましボーイ・桒原リクくんが「シンカイっていまどうなってるんですか?」と質問が。「家賃は払っているんだけど、今後どうしようか悩んでいて」と素直に打ち返しました。自分自身が信濃町に移り住んで「畑」と「犬」に向き合っていたこともあり、長野市の動きに対してやや距離を置いていたのも事実です。
ただ、夜風のおかげで20代の彼ら彼女たちと話す機会が増えました。たまに顔を出して、カウンターで長く時間を過ごすことでこれまでしっかり喋っていなかった人との会話が生まれるようになったんですよね。オーナー特権ってやつかもしれません。
改めて気づいたのは、みんなシンカイに対する特別な想いを持っていることです。ただの店ではない不思議な関係資本が溜まった場所。こんな嬉しいことはないじゃないですか。前述のエネルギーもてあましボーイ・桒原リクくんの提案もあって「シンカイに人を集めて一回話す会をやろう」となりました。日程は12月11日。私のGoogleカレンダーには「シンカイ未来会議」と命名した予定が入っていました。
久しぶりにシンカイに人が集まる。1階は冷えて寒いため、2階にしっかり暖房機能を揃えて大集合。ぽつりぽつりと人が入ってきて、リクくんがそのために準備した温かい鍋の振る舞いが始まりました。何度か会ったことのある人が多いけれど、詳しくは知らない。そんな距離感がリアルな実情だし、僕の年齢半分ぐらいの若者たちとどんな話をしようかとぐるぐる考えていました。
「とりあえず自己紹介兼ねつつ、シンカイに期待することがあれば教えてください」
集まったのは12人ぐらい。彼ら彼女たちが口にしたシンカイに対する想いはざっくりまとめると…
・シンカイのおかげでいろんな人に出会えた
・とにかくこの建物の外観や雰囲気が好き
・お金を介さなくてもゆるく関われる場所が長野市にない
・コロナの間、シンカイがあったことで人と関わることができた
・シンカイを知らない大学生一年生たちにも体験してほしい
・長野市のアパートに移り住んでもコミュニティがない
・自宅と大学だけの往復生活はつまらない、もっと楽しみたい
などなど、5年間シンカイやってきてよかったなぁ…としみじみ感じることばかりでした。長崎くんから近い話は聞いていたけれど、本人たちの口からそれを聞くのは端的に言ってエモい。いいぞ、シンカイ!となる。
これはクラファン含め、シンカイのやってこ!マーケットや謎のイベントに関わってくれた大人たちにも共有しないともったいなさすぎるので、改めて文章でシンカイに対する想いをもらったので貼り付けておきます。
ええやん……。
再始動!シンカイ2階にリクくんが住みます
シンカイに誰か住めば物語が動く。これはHuuuu時代のシンカイではやれなかったことの重要なピースです。
そもそも長らく空き家だったシンカイをシェアハウスとして借りた初代シンカイボーイ(たかし、ゆうだい、ゴン)は、共同生活を行いながら、1階を「住み開き」と称してあらゆるイベントを行ってきました。ただ人を集めてご飯を食べる。関係性のある人たちにライブをしてもらう。それぐらいシンプルな場だったんです。
あくまで主体は住んでいる自分たち。だから地域との関係性を深められる。実際、当時のシンカイに通っていた現在30代のプレイヤーともよく会います。いつの時代も、お金を主語としない場が必要なのかもしれません。いや、絶対に必要なんでしょうね。場の関わりしろともいえるし、積み上がった徳の空間ともいえるし、実践者の玄関口でもある…。
前のめりのコミュニティでもない。経済を意識しすぎた主語の強いまちづくりでもない。ただ、そこに住みながら、自分たちの周辺に賑やかさを少しずつ取り戻していく。この感覚こそがシンカイだったんだな、と再認識することができました。
一時期、「シンカイは預かってる盆栽みたいなもんなんですよね。何をどうやっても元のシンカイになってしまうぐらいエネルギーが強い。だから僕ができるのはシンカイの手入れをするぐらいです」と言っていたのが、ようやく現実になって一安心というか。辞めることも、バトンタッチすることも簡単なことじゃないですね。
エネルギーをもてあまし、素直でいいやつだけど、現代的な軽口を叩いてしまう桒原リクくんの原動力の源泉は「乾き」だと思っているので、そこは信頼できます。彼が来年シンカイに居を移して、暮らしの実践を取り戻すことができたのなら、きっと自然発生的にシンカイの新たな芽が生まれるでしょう。春が待ち遠しくなる!
「シンカイ」はひっそりと変化をつけるべく「シンカイ`」として再始動します。ロゴもそのまま。インスタグラムやnoteもそのまま活用します。来年春まではHuuuuが責任持って伴走して、みなさんへの報告や引き継ぎなど、しかるべき手順を踏んだらシンカイの賃貸契約自体もリクくんに移行できたらいいなと。シンカイは元々大学生が始めたことなので、元の文脈に吸収されていくのも自然なことなんじゃないかと思います。
そして次世代につなぐために自費で作った『シンカイ STORY BOOK』がここで役立つわけです。理想の出版としての役割を数年後に自分自身で「うわー、いまがこの本の最大ピークやん!」と叫ぶことになるとは思っていませんでした。みんな必死で作ってよかったね。ちなみにリクくんが人生で初めて活字本を完読したのは、このシンカイSTORYBOOKだそうです。
年内はとりあえず24日にM-1鑑賞会、大晦日に帰省した若者たちを迎えるイベントをやる予定。詳しくはインスタをチェックしといてください!
https://www.instagram.com/shinkai_nagano/
1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!