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第一回野菜皿選手権~野菜をお皿にしたい~

唐突だが、私は食材を器にしている料理に憧れている。なんのこっちゃと思われるかもしれないが、くり抜いたカボチャに冷製スープを注いでみたり、トマトの中に小エビを入れたりする、おしゃれなレストランでありそうなヤツだ。

ただ正直な話、そこまで洒落てなくていい。というか、食材を器にしている料理を普段使いしたいのだ。なるべく日常にまで落とし込みたい。

そういうことならもっとも普段使いしやすくて美味しい野菜皿を決める必要が出てくるな。
よし!第一回野菜皿選手権を開催しよう!

第一回野菜皿選手権概要

選手権を開催するにあたり、以下のレギュレーションを決めた。

  1. 野菜は手に入りやすいもの

  2. 中に入れる具は同じもの

  3. 野菜皿自体に味付けしない

中の具は、豚ひき肉に醤油、酒、砂糖、味醂で甘辛く味付けをしたものにした。シンプルで大体のものに合うだろうと思ったからだ。

400gの豚ひき肉

結構な量の豚ひき肉を焼くと、ワイルドな匂いがプンとにおった。なんらかの儀式をしている気分だ。
いやまあ、ある種の儀式ではあるんだが…

甘辛炒め完成、ここまでくればいい匂い

甘辛い匂いがふわっと香ってきた。ヒーッこのままご飯にかけて食べたい!
具も準備できたのでいよいよ選手権の開催だ。ワクワクするね。

第一試合、トマト選手

最初は定番から攻めたいと思う。そう、野菜皿の定番といえばトマトだ。
トマトの中身をくり抜いて具を詰める。それだけでおしゃれな料理に思えるが、私のようなセンスのない人間がやってもおしゃれになるのか試してみよう。

まずはトマトの上を切り落とす。後で上の部分は蓋にしたいので少し薄めに切る。

シンプルに写真が下手

そしてスプーンで中身をえぐり出す。中々に大きめのトマトを用意したので、すこし骨が折れる作業になった。どこまでくり抜くのが正解なのだろうか、と自問自答しながらくり抜く。段々と意識は無になっていった。色即是空、空即是色。
宇宙の真理を垣間見かけたが、5分ほどかけてトマトをくり抜き終えた。
しかし、くり抜いた中身はあまり見た目がよろしくない。そっと中身を出した皿を冷蔵庫に入れた。

くり抜かれ野菜皿となったトマトと蓋

いよいよ具を入れる。これが1番やりたかったことだ。帝国ホテルのシェフになったかのような気持ちでひき肉を入れる。ひき肉を入れれば入れるほどトマトは野菜皿の顔になっていく。

野菜皿になったトマト、完全に見栄えが良くない

完成した。念願の野菜皿だ。少し気持ちがウキウキする。ただ思ってたよりおしゃれ感がない。中身が茶色だからか弁当箱に見えてきた。
そうだ、せっかくだから近くの公園でこれを食べちゃおう。しかもちょうどお昼どき。プチハイキングだ。

トマトにしっかり蓋をして、ラップで包む。トマトとスプーンを片手に玄関を出た。
やや曇天、トマトを手のひらに置いて2分歩く。むんわりとした湿気の多い空気、まとわりつく汗、ハイキング的には最悪だ。公園についた。しめしめ、誰もいない。トマトと私だけの空間だ。

ベンチに置かれたトマト 
現代アートともいう

ベンチに腰掛けて、ゆっくりラップを剥がした。鮮やかな赤、蓋を取る。茶色。映えねえな。あと蓋が邪魔だな。

いよいよ実食。スプーンをポケットから取り出して、早速ひき肉を食べる。旨い。我ながら味付けは上手くいったと思う。甘辛い豚ひき肉にトマトから出る酸味が合う。蓋が邪魔だ。

蓋が邪魔の例

しかし、普通の弁当では得られない開放感が野菜皿にはある。日常の中の非日常がそうさせるのか。
ひき肉を食べ終わった。が、やはり成人男性には物足りない量だ。だが目の前にはトマトの皿と蓋がある。もちろん食べれるのだからしっかり完食するつもりだ。なんとサステナブルなことか。

トマトをかじる。一口かじって遠い目になった。虚無だ。なんの調味もしていない、かなりうすーく甘辛い味がするだけの皮だけになったトマトを食べているととても虚しい気持ちになった。ああ、塩でもふってりゃよかった。あれだけ邪魔だった蓋も虚しい味だった。良いところないな、蓋。
冷蔵庫にそっとしまったトマトの中身を思い出す。そうか、お前がトマトの旨味だったのか…

手もトマトの汁でベロベロになってしまった。うーんトマトは改善の余地がありそうだが、今日はここまでにしよう。

第二試合、たまねぎ選手

大量に作ったひき肉が同居しているPさん(彼女)に見つかる。別に正直に言えばよかったのだが、なぜか「いや、昼飯として作っただけだから…」と嘘をこいてしまった。完全に怪しまれているのだが、もはやこうなれば全てが終わってから真実を伝えよう。
というか、この面白さをまだ初期の段階で伝えられる自信がなかった。悔しいぜ。

というわけでお次はたまねぎにする。理由は加工がしやすそう、の一点張りだ。

まずたまねぎは半分に切る。新たまねぎを購入したのだが、しっかり目に染みた。ガスがすごいぞ、この新たまねぎ。

ここまでは順調。半分に切っただけだが。
中身をくり抜こうときて気がつく。上と下でつながってるやん!そもそもくり抜けないのでは?
完全に手が止まってしまった。しかしここまできたら引き返すわけにもいかない。
パワー!私はたまねぎの中身を引きちぎった。もちろん、穴が空いた。

皿としてあるまじき醜態

慌ててはいけない。たまねぎには芯がある。
穴が空いたって、芯を弁にして塞げばいいのだから。
いや、ゆるいな。穴完全に塞がってな…都合の悪いことは無視をする。精神を守る手段の一つだ。

完全なリカバーの例

いよいよたまねぎにひき肉をこんもりと詰める。ここではたと気づく。
このたまねぎを生で…?いくら新たまねぎだって正気の沙汰じゃない。結構目に染みたし、このたまねぎは辛いはずだ。

これを…生で…?

チンしかないな。ラップで包んで3分チン。念入りに加熱する。
漂ってきた匂いはたまねぎの甘い匂いとひき肉のワイルドなものが混ざった…ハンバーグの匂いだな?ひき肉とたまねぎだもんね、やっぱりハンバーグだなこれは。

完成した簡易ハンバーグを見下ろす。外を見るといい天気だった。私は激熱たまねぎを手に公園へと向かった。
真昼、晴天。公園は誰ひとりとしていない。なんでこんなに人がいないんだ?ちょっと不安になりながらベンチに座る。

加熱されたたまねぎはくたびれたサラリーマンのようだ

不安になっても仕方ないので、早速ラップを剥がした。相変わらずハンバーグの匂いだ。加熱されたたまねぎはすっかり柔らかくなって、弁が全く機能していなかった。
すなわち、汁とひき肉がたまねぎからこぼれまくる状態だ。汁が熱すぎる。

蓋を開けて、ひき肉を食べる。相変わらず美味しい。トマトの時と比べるとアツアツのままだ。保温性は間違いなくあると言っていい。 
試しに蓋を食べてみる。おお!虚無じゃない!加熱して調理した感があるからか、もしくはたまねぎの旨味を感じるからか、するする食べることができた。
せっかくなのでたまねぎとひき肉を一緒に食べることにした。なんか食べたことのある味だな。ひき肉とたまねぎ…肉まんの具だこれ!

もはや肉まんに見えてくるトリック

と、調子良く食べていたのだがたまねぎから勢いよく汁が飛び出した。ズボンの股間部がビショビショになった。たまねぎと肉の匂いがズボンから臭ってくる。完全にテンションが下がった。

たまねぎは味は良いが、携帯性に優れない。トマトもそうだが、特に水気が気になる。次は汁気の少ない野菜にしてみよう。

第三試合、人参選手

というわけで人参を皿にしていきます。
手のひらサイズくらいに切ったら、さらに半分に切ってスプーンでくり抜く。

トマトと違って硬いので地道で大変な重労働だった。このひとときだけ彫刻刀が欲しくてたまらなくなってAmazonで彫刻刀をポチりそうになったが、我に返って止めた。 
15分かかってくり抜き終える。なんだか石棺みたいなビジュアルになったぞ。

皿の部分は深く、蓋は浅く 
決して蓋をくり抜くのが面倒くさくなったとかではない

人参にひき肉を詰める。生でも食べれなくはなさそうだが、歯茎から血が出かねないのでチンすることにした。ホカホカになった人参は多少柔らかくなっていたが、安定感が抜群だ。弁当箱そのものと言っても過言ではない。

外はあいにくのどしゃ降りだった。残念だが、雨の中人参を食べる根性もないので、大人しく家で食べることにした。

本当はベンチの手すりに乗っけて撮りたかった

人参はひき肉と一緒に食べると甘さが引き立って美味しかった。この感じだったら人参全部使って皿にしたほうが面白かったかもな〜などと反省。
蓋だけかじってみたら虚無気味だったのでマヨネーズをかけた。美味しい。ただ人参にマヨネーズかけて食べただけだけれども。トマトのときもマヨネーズを持ち歩くべきだったな。

結果として成功に近いと思うが、もう少し調理が楽な方がいい。毎週やってたら腱鞘炎になるかもしれないし。

第四試合、ピーマン選手

食材探しにスーパーをうろつく。うろついた途端に運命の出会いを果たす。
ピーマン、手に入りやすい上に中は空洞。肉との相性も抜群だ。言うことのないぶっちぎりの優勝候補だ。私はピーマンを抱えて家まで走った。

帰宅即調理。ピーマンを真っ二つに割る。種を取り除くだけで皿にお誂え向きの形になる。偉い。ピーマンは偉大だ。 
肉を詰める。書くことが少なすぎるくらいシンプルで苦労のない作業量だ。

なんかこの料理見たことあるな

ラップに包んで3分チン。ピーマンの苦味のある匂いだ。ピーマンはクタクタに柔らかくなっている。それでも形は保っているから、持ち運び可だろう。

早速、激アツピーマンを片手にいつもの公園に繰り出す。いつものように人気のない公園。いつものようにベンチに座って、ラップを剥がす。

恒例の現代アート

今回はスプーンは持ち出さなかった。サイズがあまりにも小さかったからだ。
寿司のように持って一口頬張る。あ!これピーマンの肉詰めだ!食感が全然違うけど、6割はピーマンの肉詰めの味がする。シンプルに美味しい!

そして汁気がないので一切手は汚れない。携帯性にも優れているのかピーマンは。これには江戸っ子も満足だろう。

寿司を食うかのようにピーマンの肉詰めを食す

はい、ピーマン優勝です。ただいまの時刻をもちまきて、第一回野菜皿選手権閉会です。

選手権の終わりに

なんだか最終的に野菜弁当箱選手権になっていたような気がするが、優勝はピーマンに決定した。おめでとうピーマン。君が初代チャンピオンだ。

それにしても楽しかった、またやりたい。次回はカボチャやズッキーニといった強豪たちも招聘したいし、ひき肉以外の具材も用意すべきだろう。

余談だが、全てが終わってからPさんに選手権の存在を伝えたところ、

大会の名称はあやふや

めっちゃ面白がってた。今度は誘わなきゃいけませんな。



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