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コロナウイルスはパレスチナにもやって来たーヨルダン川西岸篇①ー

前回の記事で、封鎖状態にあるガザがコロナ感染の危機にあるとお話ししました。ガザから道があれば車でたった一時間半のヨルダン川西岸地区。イスラエルの領土とパレスチナ自治政府の領土が複雑に入り組み、今も不確定なこの地域に、コロナは等しくやってきました。

感染症の拡大は医療体制が十分でない(日本も実はそうかと思いますが)パレスチナにとって致命傷になるため、早いうちから町ごとに封鎖されている状況です。学校も無ければ仕事も在宅あるいは失業状態。イスラエルに出稼ぎに出ていてその日暮らしをしている人なんかは、今どうやってしのいでいるのか・・・。ボーダーを越えることも命取りですが、仕事が無ければ家族のごはんが無いのです。また、イスラエルに住むアラブの人たちは二級市民として、日常的に法律で不当な扱いを受けていますが、コロナを受けさらにその締め付けが厳しくなっているようです。

日本で少し報道があったのが、そんななかでパレスチナで起きた日本人へのヘイトスピーチでした。私の体験的感覚では、そもそもアジア人で中東にいると目立ちますし、珍しがられて平時でも声をかけられたり、長々と人が付いてきたりします。とくに女性だと、確かに歩きづらい時はありますね笑 頭髪を覆うスカーフをしたらしたで近所のキッズたちに絡まれたし、しなくても目立つし・・・と笑

外国人が少ないということと、コロナが広まればとても対処できる環境ではないという危機感がヘイトスピーチに影響しているのかな、とは思います。

ただ!どんな事情があれだめなことはだめだ!と喝破しているのが日本でも東大や京大で客員教授を務められたアリ・クゥルエイボ教授。今回は教授の記事をそのまま訳してみようと思います。

ヘノフォビア(異種嫌悪)にNOを!

    #人権と尊厳のために立ち上がろう

私(教授)とエレナはもう30年もここジェリコの町で冬を過ごしている。だから私たちの存在は町の皆が知っている。知らないのはその女性だけだった。八百屋でその彼女は指をさし、大きな声で「外国人はジェリコから出ていけ!」とエレナに言った。町の皆は礼儀正しく、その声を無視していた。エレナは耳が聞こえない。フランスとコスタリカの血を引く顔立ちをしているが、皮肉なことに我々の方が地元民であり、その女性はよそから野菜を買いに来たのであった。通りすがりの人が彼女に耳打ちすると、彼女はぶつぶつ言いながらその場を去り、何もなかったような平穏が訪れた。

こうしたスケープゴーティングや犯人探しは、歴史の中で繰り返されてきた。誰かをつまみあげることで、人間は大厄災の理由を見つけようとしてきた。

コロナの流行開始から世界では中国の人、東南アジアの人やその血を引く人たちに対する暴力やヘイト、偏見や人種差別が起こっている。パレスチナに留まらず欧州や北アメリカ、他の中東地域でも同じだ。当初とりわけ中国の人が攻撃対象になったのにはメディアの報道姿勢ー中国は後進的で、不衛生な食事をしていたからコロナが蔓延したのだーも大いに関係しているだろう。こうしたきわめて選別的で正しくもない情報によって、受け取り手は思い違いをし、もっと言えばコロナウイルスの感染経路や出元を見誤ったのである。集団パニックとヒステリー、恐怖が人々をヘイトに走らせたといえる。このまま世界的な状況が悪化すれば、ますますヘイトの土壌が出来、科学者がいくらウイルスは人種を選ばないといってもその声は届かない。

パレスチナで最初の事例が報告されたのは3月1日、ラマッラーでのことだ。娘を連れた母親が2人の日本人女性NGO職員に向かってコロナと言い放って攻撃し、録画しようとした方の髪の毛を引っ張った。女性はその日のうちに逮捕され、市長が被害者たちに日頃の礼を述べ、警察署長がオフィスに花を持って謝罪に来たが、事件はその後もやまなかった。

見た目ですぐに判別できてしまうアジア人はすぐに標的になる。実際には、パレスチナで目にするアジア人ー日本人、韓国人、フィリピン人ーは長年パレスチナに住んでおり、いずれにせよ今回のコロナ騒ぎとは全く関係がないのだが、そんなことは問題にならない。アジア人はコロナの原因なのだ。6年間日本に暮らし、よく関係を築き、中国と韓国にも滞在してそこでの経験が自分のアイデンティティになっている私にとって、一部の同胞のこのような振る舞いは本当に恥ずかしい。「ヘノフォビアで基本的人権が日に日に奪われている」と韓国人の研究者は書いている。多くのアジア人の研究者がコロナの勃発からヘイトを経験したと、そこに名前を連ねている。

病気の流行時には過去にもヘイトが起きていた。2009年の豚インフルエンザ拡大時には、メキシコの人やラテン系の人がターゲットになった。2014年のエボラではアフリカの人。もっと遡れば、80年代のHIVの流行はハイチ人のせいにされた。

観光に大きく経済を依存するパレスチナでは、その産業が病気をもたらすことに気づいてしまった。3月5日、ヨーロッパの観光客4人が陽性と判明。フェイクニュースが横行していたため最初は皆懐疑的だったが、やがて事実とわかると特に一大観光地のベツレヘムでは警戒が一気に高まり、政府も産業界も対策に躍起になった。ホテルが次々に閉鎖され、観光客は隔離された。ホテルの従業員は検査の対象となった。同日、新たな3人の感染が判明し、ベツレヘムには非常事態宣言が発令、イスラエル国防相も加わり町全体の封鎖が決定された。

ウイルスの運び手とされた外国人観光客はすべて去った。しかし、我々ひとりひとりが、我々の近しい人が、友人が、家族が、保菌している可能性があるのだ。敵は外国人ではなく、ウイルスである。世界中がその拡大を防ぐために努力することがコロナへの闘いだ。

今ベツレヘムでの感染者が増える中、我々は共感を深くしている。人々はヘブロンや他の町からベツレヘムに食べ物や生活必需品を届けてくれる。我々は利他主義を深めている。自分から他人を守ることの大切さに気付き、他の地域の人々は家に留まっている。おおむね皆状況に順応しているし、備蓄も買い込んである。イスラエルのボーダーの封鎖なんかに慣れているからと友人は話してくれた。

そうはいっても、生活の為には日々イスラエルに行かなくてはならない家も多い。そういう人たちから見るとイスラエルの対策は生ぬるく映る。自分たちは危機意識を持って行動しているから感染をベツレヘムのみに抑えられているが、甘く見ていたユダヤ人居住区では感染者が増加していると人々は言う。イスラエル政府は一方、パレスチナ人労働者の数を2万人に制限したうえで、2か月間特別な施設に留め置くとしている。

ベツレヘムでは封鎖が続くが、なかには外へ出るものもいてそれを周りが頑張って止めている状況だ。そんななか、市内の中心広場ではイタリアの喪に服す人々の姿があった。エルサレムの病院もそれに呼応し、イタリア国旗の色で建物を包んだ。

昨日(3月下旬?)ドイツ人の友人がエルサレムの通りを歩いていて学校の児童らにコロナとわめかれた。「ほんの小さな子供たちでしょう。怒れなかったんです」彼女は微笑むとドイツなまりのアラビア語で「私は長いことマウントオリーブに住んでいるの」と話しかけた。すると子供らは彼女がアラビア語を話したことに喜んで、安心した表情で去っていったそうだ。

恐怖のなか警戒心が高まるのは理解できる。しかしどんなこともヘイトを正当化しない。皆で手を取って共通の敵に立ち向かおうではないか。


架け箸はこれからも継続的にパレスチナを訪れ、日本に出回らない生の情報を発信したいと思っています。いただいたサポートは渡航費用や現地経費に当てさせていただきます。