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ラーメンの日は…

Y君が転校する、今日でお別れだという。
誰もその事を知らなかった。
寝耳に水、青天の霹靂とはこういうことか。
Y君はちょっと、というかだいぶ困った人だった。
とにかく勉強が嫌いで、テストの点は毎回悲惨、
この間の漢字検定だって合格できるかかなりあやしい。

誰にだって嫌いなこと、苦手なことはある。
だけど、人に迷惑をかけてはいけない。
勉強嫌いなY君、授業を聞かないのは勝手だけど、わからない!わからないと騒ぐせいで授業はちっとも進まない。
授業中に廊下に出されることはしょっちゅう。
出された挙げ句にカードゲームをしていた時もあった。
持ってきちゃいけないのに、鬼滅の刃のシャープペンを持ってきて没収されていた。
Y君のせいで先生のお説教が始まり、図工と体育がなくなった時もあった。

ついにはY君担当の先生がつくことになった。
そんなY君だけど、お兄ちゃんは歯学部に合格、お姉ちゃんも成績優秀らしい、なぜY君だけが…

Y君がどこの学校に行くかはわからない。
家を引っ越すわけではないみたいだ。

Y君と親友だったM君はずっと泣いていた。
男子はけっこう泣いてたな。
女子は怒ってた。
どういうことなの?!って。
最強であり最恐女子のRちゃんは蹴りを入れてた。
最後に蹴りをお見舞いだ!って。
空手を習っているRちゃん、さすがだ。

席替えでY君の隣の席になった時はこの世の終わりかと思った。
先生に訴えたが、同仕様もなく困ったら考えると言われた。
ある時、わからないと連発するので、教えてあげた。わかったかどうかわからなかったけど、次のテストはいい点がとれたみたいだったから、私も少しは貢献できたのかもしれない。
結局なんだかんだと次の席替えまで隣の席だった。

なんだかんだ色々あったけど、いなくなってしまうのは寂しい。

Y君の唯一いいところは、嘘をつかないところだ。
というか、嘘をつけない。
正直者とも言う。
バカがつくくらい正直者。
バカ正直とはY君のことだ。

一緒に食べる最後の給食はラーメンだった。
好き嫌いが多いY君だけど、ラーメンは大好き。
大盛りてんこ盛りで食べていた。
牛乳もちゃんと飲め!って怒られていたけど。

ふと思い出した。
つい数ヶ月前のことだ。
担任だった I 先生が辞めることになった時、
その日の給食もラーメンだった。

先生が辞めることになった時、もちろん誰も知らなくてみんな大泣きした。

ラーメンの日は悲しい事が起こる。
なぜだろう。
ラーメンの日は嬉しいのに喜べない。
注意しなければならない。
ラーメンの日は要注意だ。


先生は学校の方針と先生のやりたいことが合わなくて辞めることになったらしい。
寺子屋みたいな学校を作るのが夢だと言っていた。
その夢を叶えるために学校を辞めて、フリースクールを立ち上げたみたいだ。
もしかしたらY君はそこへ行くのかもしれない。
先生が辞めるとき、誰よりもY君のことを心配していた。みんなにY君のことを頼むなって言ってた。
先生はY君のために学校を辞めたのかな…
もし先生のフリースクールにY君が行くのだとしたら、安心だ。せめてもの救いだ。

帰り際、私は折り紙で作った炭治郎と禰豆子をあげた。
ひな祭りが近いからひな祭りの衣装を着せたものだ。
女の子っぽいからどうかなって心配だったけど、喜んで受け取ってくれた。
バイバイまたねと言ったら、
達者でな!
だって。Y君らしい。

Y君も元気で頑張ってね。
泣かないつもりだったけど、やっぱり悲しくてちょっと泣いてしまった。

iPadでY君と友達の写真を撮った。
もうiPadでY君の投稿を見ることはないんだな。
お馬鹿な落書き、保存しておこう。

給食がラーメンの度に思い出すんだろうな。
給食ラーメンは思い出の味。



今日の夕ご飯はラーメンじゃなくてよかった。
ラーメンは好きだけど、
今日はもういいかな。



(補足)
この物語は実話である。10才の娘の話を元に、娘の視点でなるべく忠実に再現したつもりである。
娘は小中高一貫の私立の学校に通っている。それゆえか、先生が突然辞めたり、突然転校生がやってきたりする事情もある。色々ありすぎてもう何も驚かなくなった。次はどんなことが起こるのか…
ちなみに金曜日の給食献立は麺類が多い。
たまたまラーメンだっただけであるが、
麺類は他にもパスタやうどんもある。
たまたまのたまたまがラーメンだったのである。
それがこんなことになろうとは…
しかし、
ラーメンに罪はない。

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