かじ | LayerX | カスタマーサクセスは概念
CSの生産性を定義する - CS1人あたりARRシミュレーション -

CSの生産性を定義する - CS1人あたりARRシミュレーション -

かじ | LayerX | カスタマーサクセスは概念
この記事は、6月から始まっている #LXベッテク月間 37日目の記事です。 前日の記事は ちゃどさん(@chadtokyo)の「フィールドセールスのキャリア。LayerXでFSを選ぶこととは?」でした。

こんにちは。LayerXバクラク事業部でカスタマーサクセスグループのマネージャーを務めているかじ(@kajicrypto)です。

今回は、最近よく考えているCSの生産性指標について書いていきます。これにより精緻な採用計画を立てたり、リソースアロケーションのタイミングを先読みできたり、活動方針を変えることができるようになりました。

どこのSaaS企業でもやっている”読み”とは思いますが、あまり具体的な情報が公開されていないのでみなさんの指標や計画を聞きたく公開いたします!ディスカッションして頂ける方、是非ご連絡ください!

カスタマーサクセスの”生産性指標”とは

採用計画を立てるにあたり、CSの適切な人数って・・?と頭を抱えていました。というのも、THE MODELを採用したビジネス組織のなかでもCSはひとつひとつの活動のROIを計測しにくいという特徴があります。

LayerXが提供する法人支出管理SaaS「バクラク」は1年単位でサービスを提供しているため、契約初期のハイタッチのオンボーディングに加えて、アダプション期の利用状況モニタリングや顧客連絡、カスタマーサポート、コンテンツ配信などの様々な活動を組み合わせた結果、1年後に初めて「継続」または「解約」の答えが出てきます。

(答え合わせに時間がかかると足元の打ち手が正解かどうか本当に分からないし実験するにしてもサイクルが回るのが遅くて・・・むずいです。)

”オンボーディングをどれだけ回せるか”に焦点をあてた1人あたり同時オンボーディング担当可能社数や、”どれだけ多くの顧客を持てるか”に焦点をあてた1人あたり累計担当可能社数など1面を切り取って指標とすることはできますが、顧客担当を持たないカスタマーサポートやCS Opsなどを含めた部門全体の活動生産性を総合的に評価できるものではありません。

CSは人数が少ないとチャーンレートが跳ね上がるか組織が疲弊するし、「お客様のために」を盾にしたファットな労働集約型のCS組織ではいつまでたってもビジネスとして重しになってしまいます。

また基本的にお客様のためにできることを多くしてあげたい顧客志向の方が多いので、ただ「効率化しよう!」という掛け声だとみなの気持ちと相反することもあります。そのためわかりやすい指標を模索しました。

結果として今は「CS1人あたりARR」をCS部門全体の生産性指標として置いています。計算式は文字の通りです。

CS1人あたりARR = ARR / CS従業員数

適切なCS1人あたりARR

目指す基準は会社それぞれと思います。一口にBtoB SaaSのCSといっても以下などの変数があると思います。

・ハイタッチ活動が少ないPLG型かどうか
・ハイタッチやコンサル的関与を重視した平均MRR数十万円のサービスか
・売上に対するARRの割合がほぼ100%か従量課金中心型か
・ARRを押し上げるカスタマーセールスをCS内に持つか
・顧客担当を持たないカスタマーサポートをCS内に持つか

その上で、ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロさんが提示するCS1人あたりARR5,000万円というのはひとつの指標となります。ARR5億円ならCS10名で回そう、ということです。こちらのPodcastの3:35~6:10あたりをお聞きください。

また、ベンチマークしている先輩企業の決算説明資料、採用サイト、インタビュー記事、ブログ発信、採用要項などをたどると、各社の水準も概ね算出できました。

バクラクと同様にバックオフィス業務や業務プロセスに密接に関わり、売上に対してARRの割合が高いサービスを提供するBtoB SaaSを5社以上みてみました。

トップレベルの会社は最終的にCS1人あたりARR1億円以上、そうでなくとも成功企業は5,000万円〜1億円の間と想定できました。

なお、他社分析をする際は以下の2点に注意しました。

① 分析対象とする事業やセグメントのみのARRを見ること
別事業の売上や、ARRでないショット売上が含まれた値で計算しても参考になりません。決算説明資料を複数期横断して見て、より確からしい値を拾っていきました。

② カスタマーサポート、カスタマーセールスなどを含むかどうか
見つけたCS従業員数に、顧客担当を持っていないであろうカスタマーサポートや、Expantionに責任を持つカスタマーセールス組織を含むかどうかを切り分けて人数に勘案していきました。

5,000万円を”いつ”達成するべきか

さて、指標と水準が決まったら、次は”いつ”その水準を達成するかです。

バクラクCSは2021年4月から始動しました。サービス1年目はプロダクトも未熟でしたし、お客様のオンボーディングや利活用がどうなったら正解かわからず、とにかく解約を未然に抑えるためにCS活動に力を入れると決めて投資をしてきました。

最近ツイートでご紹介したような活動の結果として、桁違いに低いチャーンレートと、事業計画を大幅に上回るクロスセルによるExpansion MRRを創出できました。

オンボーディングを卒業して安定稼働しているお客様に対するCS工数は相対的に減ってくるため、低いチャーンレートを担保できているのであれば、1人あたりARRは顧客数の積み上げに比例して自然と上がっていきます。

例えばCS1人が1ヶ月あたり新規で10社のオンボーディングを担当するとします。1社あたり平均ARRが100万円、オンボーディングを卒業したお客様には工数がかからないとします。

この場合、1ヶ月あたりARR1,000万円分の顧客を持つので、メンバーがひとり立ちしてから5ヶ月経過後にはARR5,000万円分の顧客を持つことになります。(いろいろと割愛しています)

一方、”担当顧客の積み上げ(≒勤続期間)に応じて自然と増える”と楽観的に考えていると、より高い水準に引き上げる構造変化が起こせません。

また達するまでの間は余裕がある状態が続き、組織全体の達成はその分遅れていきます。意図的に達成期限を早めることで構造を変える必要があるかなぁなどと考えながら上述の情報収集をしていました。

そんな中、この2ヶ月でSaaSの成長を支える資本市場において大きな変化が起こってきました。起こってきたというよりも、昨年終盤あたりから想定されていたことが顕在化してきました。

私はこの分野に明るくないため引用中心としますが、以下記事にあるようなスタートアップに対する投資環境と評価基準の変化が訪れました。

ここ数年間、SaaSは大きな赤字を掘ってでも先行投資し、素早く多くの顧客を獲得し、カスタマーサクセス活動を通じてLTVを伸ばすことで数年後に大きな黒字を生むという戦い方をしていたように思います。

一方、投資環境の悪化により、今まで評価されていた「トップライン(ARR)の伸び」よりも、調達した資金をいかに効率的に使えるかという「生産性」が相対的に重要な指標になったのです。

勤続期間に比例して自然とCS1人あたりARRはあがります、なんて悠長なことを言っている場合ではなくなりました。資本市場の力を借りながら成長を目指す我々はゲームのルール変更には従うしかありません。

CS1人あたりARRシミュレーション

そこで、事業計画ならびにCS1人あたりARRの目標を満たす活動形態をシミュレーションするシートを作りました。ここから先はその具体についてお伝えします。

ご覧頂くだけではわかりにくい部分もありますので、流し読みをして頂きながら結論に飛び、具体的に興味をお持ちの方は別途ご連絡いただければと思います。

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■ 前提
本シミュレーションは以下を前提とします。

・売上に対してARRの割合が高い、従量課金がないSaaS
・契約直後のオンボーディングが重要かつ活動比重が大きいモデル
・3ヶ年事業計画をベースとする
・チャーンレートは事業計画の段階で勘案されているため本シミュレーションでは対象外
・Expansionに対して必要な活動も勘案しているがシート上には出ない
・カスタマーサポートやCS Opsなど担当を持たないチームは含む

■ シミュレーション概要
事業計画ならびにCS1人あたりARRの目標を満たす活動形態をシミュレーションするシートです。

事業計画をベースとして、ある時点でのCS1人あたりARRを1億円にすると目標設定したときに、いつどのくらいのリソースが不足して、どういった活動形態にすれば達成できるかをシミュレーションできます。

特徴として、事業部長の『シン ザ・モデル』で紹介されているコホートと同様の時間軸の概念を入れてモデルを作っています。

■ シミュレーションする変数
※ すべて本note用に適当な数値を入れたスクリーンショットです

5つの項目を活動形態の変数としています。後の具体例をご覧いただければスッと入るかと思います。読み飛ばして頂いても構いません。

1. 同時オンボーディング担当可能社数/人
1人あたり何社オンボーディング中の顧客を担当できるかは、事業計画上流入してくる「毎月の新規契約社数」に対するキャパシティ変数となります。

2. 役割別人数比率
顧客担当をメインで持ついわゆるCSM(フル担当)、顧客担当が少ない兼務者やマネージャー(ハーフ担当)、担当を持たないカスタマーサポートやCS Opsの人数比率です。

仮にCSが10人として、10人がフルで顧客を担当できるわけではありません。同時オンボ可能社数が20社のメンバーが何人、10社のメンバーが何人、というのも「毎月の新規契約社数」に対するキャパシティ変数となります。

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3. 累計担当可能社数
1人あたり何社まで顧客担当を持てるかは、事業計画の「累計社数」に対するキャパシティ変数となります。

これもメンバー役割別に定義、また1年目の顧客はオンボーディング対応工数が大きいため、1年目の顧客の上限数とそれ以降の累計を分けています。
※ 数値は適当です

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4. 平均顧客オンボーディング期間
お客様のオンボーディングが何ヶ月で終わるかも重要です。

同時オンボーディング担当可能社数が仮に30社としたときに、オンボが1ヶ月で終わるなら毎月新規で30社を担当できます。オンボが2ヶ月かかるとしたら、毎月新規で担当できるのは15社となります。

5. メンバーオンボーディング期間
メンバーが入社してからひとり立ちするまでの期間です。顧客担当を1人称で持ち始めるのはひとり立ち後なので、入社してからその期間は担当数を割り当てることができません。

シミュレーション全体像

※ すべて本note用に適当な数値を入れたスクリーンショットです

① 事業計画

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まず、前提となる事業計画をシート上部に配置します。重要なのは累計社数・新規契約社数・ARRです。

② 人員計画

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次に、CS1人あたりARRを1億円とする目標年月を決め、そうなるようなCS人数を計算します。そして、いったん雑にそれまでの人数増加を均等に埋めていきます。

16, 17行目が埋まり、役割別人数比率に応じて18, 19, 20行目も埋まります。事業計画ならびにCS1人あたりARRの目標値をベースとした人員計画ができました。

③ 1人あたり顧客担当モデル

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入社したメンバーがいつから何社の顧客をオンボーディングし、合計担当者数が何社になるかを時間軸を入れてモデリングしたものです。

同時オンボーディング担当可能社数/人、累計担当可能社数、平均顧客オンボーディング期間、メンバーオンボーディング期間の4つの変数が影響します。

変数を変えるとこのモデルが変わり、入社したメンバーがどの程度顧客活動を行うかを調整できます。

④ メンバー別のオンボ/累計社数

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詳細割愛しますが、入社時期に応じた人員それぞれの同時オンボ担当可能社数、累計担当者数積み上げを並べます。

③のモデルを、採用計画に合わせて1人ずつ並べることで、チーム内で長い人短い人がどのような状態になっているかが見える化されます。ここが単純な割り算では見落とす部分です。

⑤ 事業計画とのリソース対比

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事業計画上必要な同時オンボーディング社数と累計顧客数に対して、④のデータを月ごとに合計した値を比べることで、リソースの過不足率を月ごとにシミュレーションできます。

結局、何がどうなるのか

最終的に⑤ 事業計画とのリソース対比の過不足率がプラスになるように変数を変え、それを達成するためにはどうしたら良いかを考えていきます。

現在の活動形態だと足元は全顧客に対してハイタッチミーティングで労働集約型でも良いが、事業計画の伸びが強いので、このままだと6ヶ月後にはリソース不足になる。同時オンボ可能社数を30%向上かつ累計担当可能社数を20%向上しないといけない!といったことが精緻に見えてきます。

そのためには初期設定を一斉ウェビナーで案内しようとか、このMRRが低いセグメントのお客様にはハイタッチなしで運用開始して頂けるようこういうコンテンツを作ったら良いのではないか、プロダクトでこの部分をカバーするチュートリアルを出したらどうか、などアイデアが出てきます。

例えば「平均顧客オンボ期間」が2ヶ月から1.5ヶ月になったらどれくらい余裕が出るのか。インパクトが大きいのであればそれを達成するためにどんな工夫ができるか。

例えば「メンバーオンボ期間」が2ヶ月から1ヶ月になったらより早くCS1人あたりARR目標を達成できる。そのためにメンバーオンボーディングコンテンツを組み替えよう。そんなディスカッションが生まれてきます。

基本的にCSはお客様のためにできることを多くしてあげたい顧客志向の方が多いと思います。ただ「効率化しよう!」という掛け声だとみなの気持ちと相反することもあります。未来の状況を正確に伝えるツールとしてシミュレーションが活きてきました。

実際、7月からCS1人あたりARR達成目標とシミュレーションをチームに共有し、いつまでにこの数値の活動形態にしないと、いつから人が何%足りなくなるという説明をし、一部セグメントのセルフサクセスに向けた活動や、そのためのコンテンツやチュートリアルの企画が走り始めています。

仲間を探しています

引き続きCSではバクラクのビジョンである「圧倒的に使いやすいプロダクトを届け、ワクワクする働き方を」提供し続けるするために仲間を募集しています!

SaaSとして非常に高い水準の継続率とエクスパンションの成果を維持しながら、より筋肉質な活動を推進していくフェーズです。チームの拡大に伴い、マネージャー、CS企画も積極募集中です。

応募はちょっとまだ、という方は是非Meetyでカジュアルにおしゃべりさせてください!また採用関係なくディスカッションお付き合い頂ける方もMeetyからご連絡ください!

最後までお読みくださりありがとうございました!




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技術と心でスタートアップの事業を立ち上げるマン/教育企業営業MGR→エンジニア転向→スタートアップ役員→複数社の事業開発→LayerX CS Lead, ex-QA Lead / Installer CEO