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『コンビニ人間』村田沙耶香 「現代人を上手に表現してる」と、知識人風に

○はじめに

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『コンビニ人間』 村田沙耶香

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【村田沙耶香の作品を語る上でのポイント】

①「読みやすい」と言う

②リアルさを褒める

の2点です。

①に関して、村田さんの文章はとにかく読みやすいです。日常をテーマにしてる小説が多く、SFとかもあるんですけど、どれも地に足ついた感じでスラスラと読めます。

②に関して、村田さんの特徴は女性ならではのギリギリの心理描写で、その心の動きがめちゃくちゃ共感できます。やはり芥川賞とってるだけあって単純に文章がとても上手です。


○以下会話

■生身の人間を書く作家、村田沙耶香

 「女性の作家さんか。そうだな。村田沙耶香は凄い面白いよ。『コンビニ人間』っていう小説書いて芥川賞受賞した人。この人の小説は生身の人間の、リアルでちょっとグロテスクなところがサラッと書いてあって、読みやすくて面白いよ。

村田さんの作品の中でも、やっぱり『コンビニ人間』が一番面白いと思う。『コンビニ人間』は一言で言うと、30半ばになっても恋人もなくコンビニでバイトをしてる古倉恵子が、一般的な幸せの価値観と格闘する話なんだ。

■「正常な感覚」が分からない主人公

主人公は、小さい頃から「普通」の感覚が分からないちょっと変わった子だったんだ。例えば、幼稚園生の頃、公園で鳥が死んでて友達が可哀想って泣いてるのを横目に、お母さんに駆け寄って「焼き鳥にして食べようね」って言ったり、小学生の頃、取っ組み合いの喧嘩をしてる男の子を止めるために、スコップで頭を殴ったりする子供だったんだ。合理的に物事を考えられると言ったらカッコ良いんだけど、主人公は怒りとか悲しみとか共感とか、普通の感覚が分からない人だったんだよ。どういう時に泣いて、どういう時に笑って、どういう時に怒るのか、人間の「正しい」言動が分からないんだよ。そんな「普通」に振る舞えない主人公に対して、両親は「恵子はどうしたら『治る』んだろう」って心配していたんだ。

そんな風に幼少期を過ごして高校生になると、同調圧力という普通じゃない存在を排除する雰囲気が強くなるんだよね。主人公は自分の振る舞いをしてしまうと、「変わってるよね」「普通じゃないよね」って言われるようになってしまう。そこで、主人公は他人を真似ることで、普通の他人と同調していくことにするんだよ。笑うタイミングとか、怒った時の口調とか、持ち物とか、洋服とか、喋り方とか、全部。そうやって何とか周りから排除されないように普通を演じていくの。

■「マニュアル」という救世主

そんな主人公が大学生になった時に、近所に新しくコンビニがオープンしたから、何となくそのアルバイトに応募するの。面接も受かって、間も無く研修が始まるんだけど、コンビニの店員が主人公の性格にピタッとハマるんだよ。なぜかと言うと、コンビニには手取り足取り真似すべきマニュアルがあるからなんだ。それまで主人公は普通の振る舞い方が分からなくて、人に変な目で見られてたけど、コンビニのマニュアルには、声のトーンから台詞、笑顔、お辞儀の角度まで全て「正しいやり方」が記載してあって、それに倣って行動すればコンビニ店員としての「普通」になれるんだよ。ついに、人に変な目で見られない普通の振る舞いができるようになったんだよね。主人公は、やっと社会の一部となれた、ここが自分の生きる場所だって思ってコンビニ店員の鑑として生活することに決めるんだよ。これまでの生きづらい世の中とはおさらばだって生命力溢れて働いていくんだ。

■コンビニ店員以外の部分の世間とのズレ

そんな主人公だったんだけど、また世間とのズレが出てきちゃうんだ。毎週コンビニで一生懸命バイトしてるのも大学生のうちはよかったんだけど、大学を卒業しても正社員として就職せずに、そのまま30過ぎても同じコンビニでバイトを続けていたんだ。そうするともう世間一般の「普通」の30代ではないんだよね。周りの友達は就職して結婚して子どもを産んでどんどん人生を進めているのに、主人公はまだコンビニでアルバイトをして、恋人も一度もできたことがない。そうなると、また好奇の目に晒されてしまうんだよ。「なんでまだバイトしてるの」「結婚しないの」「子ども欲しくないの」って、たちまち世間の普通の目から吊し上げられてしまうんだよね。でも主人公は普通がわからないから、何の感情もなく言葉を受け流すんだけど、それでもぐいぐいと声がやってくる。この他人からの「普通」の声のタチが悪いのは、善意の気持ちを装ってるところなんだよ。「良い人紹介してあげるよ」とか「正社員の仕事紹介してあげる」とかは皆アドバイスとして言ってるつもりなんだよね。ただコンビニバイトとして一生懸命働いているだけなのに、善意のお面をかぶって笑顔で近寄ってきて、ああした方がいい、こうした方がいいって、人の人生を強姦していくんだよ。

そんな時に、白羽さんっていう同じく30代半ばの男性がバイトとしてコンビニで働き出したんだ。この人は主人公と似た人生を歩んでるんだ。30半ばで恋人もいなくてバイトを転々としてる。だけど主人公と違うのは、「普通」の感覚は分かるところなんだ。主人公は周りに何を言われようと達観してるけど、一応表面上普通の人の真似をして振る舞ってる。一方白羽さんは、30半ばでバイトをしている自分に向けられる周りからの好奇の目と声に対して、人並みに傷ついて反発する。同時に、自分を棚に上げて主人公に対して、「そんな歳で独身なんて人生負け組ですね」って言うんだ。まあ、もちろん主人公は白羽さんの指摘もピンとこないんだけどね。

■白羽さんとの奇妙な同棲生活

そんな白羽さんがバイトにやってきて、まもなくして主人公はこの白羽さんと同棲を始めるんだよ。別に白羽さんと恋に落ちたわけでも何でもないんだけど、「同僚の男性と同棲を始めた」という字面だけ見たら、いかにも普通の人の行動だから、というその一点の理由だけで同棲を始めるの。これで表面上は普通の人間になれた主人公なんだけど、蓋を開けて二人の生活を見ると、そこに恋愛感情はなく、ご飯はバラバラで、まともな会話はないし、性交渉もない。ただ同じ空間に存在するだけ。これは「普通」の同棲生活では無いよね。マニュアルがない普段の生活は、やっぱり普通の行動はとれなかったんだよね。「同棲を始めた」という言葉を聞いて、喜んで駆けつけた主人公の妹や同僚は、実態は何も変わっていない「治ってない」主人公を見て絶望してしまうんだよ。

そんな中、普通の感覚がわかる白羽さんは世間体を気にして主人公にバイトをやめさせて、まずは派遣社員として働かせ社会復帰させようとするんだ。言われるがままに主人公は就職活動のためにコンビニバイトを辞めるんだ。すると、それまで何年も頼っていたコンビニ店員としてのマニュアル化された振る舞いが急に排除されてしまったから、朝何時に起きるのかも、何を食べるのかも、何もかもが分からなくなるんだよ。それまでの行動指針がいきなり無くなったから、普通の行動が分からない主人公は宙ぶらりんになっちゃったのよ。いわゆる廃人になってしまうの。

■主人公の覚悟

もう物語のラストなんだけどね、そんな生活が数日経ったある日、面接のために履歴書を持って会社に向かう途中、久しぶりにふらっとコンビニに入るんだよ。そうすると、主人公にはコンビニの「声」が一斉に聞こえてくるんだよ。今日は水曜日だからチョコの新作が出てるのにまだ店頭に並んでないとか、お昼から暑くなるから棒アイスを補充しなきゃとか、商品棚が埃っぽいから掃除しなきゃとか、パスタが30円引きだから目立つ様に蕎麦と場所入れ替えなきゃとか。コンビニがどうして欲しいのか、声が聞こえてくるの。ゾーンに入った感覚だよね。そして体が勝手に動きだして、ただの客なのに、商品を入れ替えたり実際にバイトの人に指示をだしちゃうんだよ。その主人公の生き生きとした描写がものすごく生々しくて少しグロテスクで凄いんだよ。その姿を白羽さんに見つけられて、「狂ってる」って言われ見放される。それで主人公は覚悟を決めるのよ。私はコンビニ店員として生きていくわ。「コンビニ人間」として生きていくわ。となってお話は終わり。

すごい話でしょ。最後の追い込みは読んでて、うわーーーって没頭しちゃうよ。

■「普通」を強要する社会

面白い小説って、大抵その小説の主人公に共感して気持ち分かるわ〜みたいな感じで心を寄せていくんだけど、この小説に関してはあまり主人公には共感できないんだよね。あくまで僕の感覚だから、「私は主人公と全く同じ感覚だよ」って人はいるかもしれないけどごく少数だと思うんだよ。じゃあどこに皆共感してるのかって言うと、「普通」を強制してしまう主人公の周りの人たちなんだよね。もっと踏み込んで言うと、この小説が描いている「現在の日本人の感覚」なんだよ。読者は主人公の周りの登場人物のように、心の中で30過ぎて恋人もなくコンビニバイトする主人公を普通じゃないなって思って、興味ないフリして好奇な目で見て、片や自分は何とか社会の階層の中で生きようとしているんだよね。でも、時には主人公のように周りと違うことをして、周りから強制力を受ける時もある。そして時には、友人が誰かを強制してて、第三者として傍観してる時もある。読者のみんなが、日常で被害者も加害者も第三者も体験してると思うんだ。だから「普通」がはびこる日本社会を描くこの小説の世界観に共感して、物語に没頭するんだよね。

身近な例だと、飲み会の席でサラダを取り分けた方が良いって言われて、女子力とか色々諭されて嫌な気持ちになって、でも奢らない男性に対して男気がないって怒って、そして友達の結婚とか出世とかの噂話にあまり興味が持てなくて、でも自分は子供を作って一軒家に住んで年一回海外旅行をしたいと思ってる。皆それぞれが、社会一般が作り出した「普通」に対して賛成だったり反対だったり無関心だったり、無意識的に意見を持って関わってるんだよね。『コンビニ人間』の主人公みたいに、社会の階層を全く気にしない人もいて、白羽さんみたいにもがき苦しむ人もいて、それ以上にがんじがらめになってる人もいて、そこを這い上がる楽しさを味わってる人もいて、色々だよね。

■『コンビニ人間』 ≒ 『人間失格』 ?

『コンビニ人間』って少しだけ太宰治の『人間失格』に似てるよね。周りの人の感覚が分からない主人公が悩まされるというストーリーがそっくりだよね。どっちもタイトルに「人間」って入ってるし。でも、本職で研究してる人に言わせれば全く違うのかな。まあ、『コンビニ人間』の主人公よりも『人間失格』の主人公の方が、自分が今置かれてる境遇について人間らしくもがき苦しんでるけどね。こういう「自分と社会一般との差異」って人気になりやすいテーマなのかもね。

■異質なものは排除され正常を保たれる

僕がこの小説で一番感動したのは、コンビニの中にちょっと怪しいおじさんが入店してきたシーンなんだ。店員でも何でも無いただのお客さん何だけど、他のお客さんに対して色々声かけたり、大きな声で独り言を言ったりするの。いわゆる迷惑なお客さんだよね。店内には気まずい空気が流れて、「誰かどうにかしてくれ」ってお客さんが目で訴えてる感じ。異変に気づいた店長は、レジを代わってもらって、おじさんの所に行き、外に出るように促してお店から出すの。こうして異物は排除されると、さっきまで店を満たしていた不穏な空気は払拭されて、お客さんは何事もなかったようにいつものパンやコーヒーを買うことに集中し始めるんだよ。

ここの描写がめちゃくちゃ上手で、『コンビニ人間』のテーマも端的に表してて素晴らしいんだよ。「コンビニは強制的に正常化される場所なのだ」って表現してあって、まさに主人公という「異物」と「普通」の世の中の関係と一緒だよね。正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除されるんだよ。真っ当で無い人は処理されていくから、だから主人公は「治らなく」てはいけないし、このまま治らなかったら正常な人たちに削除されちゃうんだよね。「強制的に正常化される」って凄い言葉だよね。

これは僕らも同じような経験したことあるよね。例えば、電車に乗ってると同じ車両にいた酔っ払いおじさんがいきなり誰かに激怒し始めるんだ。一気に車内に不穏な空気が流れて、隣に座ってた人は別の席に移動して、周りにいた人も離れて、一定の距離をとる。一気におじさんの半径2mくらいの空間が空いて、皆飛び火が来ないようにスマホをいじったり寝たふりしたり、だけど意識はおじさんに集中してる。早く降りないかな。違う車両に行こうかな。って思う。電車が停車して、念が通じたのかおじさんが怒鳴りながら降りていくと、こっそりその後ろ姿を目で追って、完全に電車から降りたらほっと安心する。おじさんの代わりに乗り込んできたお客さんは、電車で何があったのか知る由も無いから普段の様子でおじさんが座ってた席にも座る。扉が閉まると、もう空気は普段の電車に戻ってる。あの感覚って不思議だよね。強制的に異物が排除されてクリーンな環境にリセットされる感じ。

■日本人は役割を演じるのが得意

この小説のテーマとは少しずれると思うけど、役割って面白いなって思うよね。例えば僕は昔テーマパークでアルバイトしてたんだけど、バイトの日に最寄駅で降りると、テーマパークに向かうお客さんが沢山いるんだよ。でもそこでは何も話しかけずに黙々と職場に向かうの。そしてコスチュームに着替えてタイムカード切ってテーマパークの中に入ると、めちゃくちゃ笑顔で話しかけてシェアハピしていくんだよ。そして数時間経ってバイトが終わってタイムカード切ったら、帰り道にお客さんとすれ違っても、全く目を見ずに知らんぷりで帰るんだよね。「テーマパークのお兄さん」という役割、仮面を被ったらそれらしく振る舞って、脱いだ途端別人になる。あの感覚って面白いよね。さっきまであんなにフレンドリーに接してたのに、今めっちゃ無表情じゃんって自分でも笑っちゃうんだよ。

あと、テーマパークはテーマパークの、カフェはカフェの、コンビニはコンビニの、それぞれの仮面に沿った振る舞い方ってあるよね。そのマニュアルに染まっていく、足並みをそろえていく感じ。時々田舎のコンビニでおばちゃん店員が、コンビニ店員っぽくないおばちゃんならではの振る舞い方で接客してきて、なんかちょっと感動しちゃうんだよね。

■意見しやすい小説

あと村田さんの小説の凄いところは、こうやって僕みたいな素人が、識者ぶって何か知ってるように論じられるところなんだ。大抵の小説って読んでも正直何の感想も浮かばないのがほとんどなんだよ。でも『コンビニ人間』だけでなく、村田さんの他の作品を読むと、登場人物に対してとか環境とか現代社会について、何か言いたくなるんだよね。それだけ物語に力があるってことなんだよね。やっぱり芥川賞とか有名な賞を受賞してる人の小説は面白いよ。村田さんの小説は特に女の子の方が共感しやすいと思う。是非読んで感想聞かせて。」


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