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税務調査の話 その3 〜調査の種類②〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。第3回は、調査の種類の整理の続きです。

前回の記事

今回は調査の段階による分類です。

納税者の事業所に臨場して行う調査を実地調査といいます。その前段階として行う調査を準備調査といいます。


準備調査

主に提出された確定申告書とその添付書類である決算書に基づき調査を行います。前回の記事でご説明した内観調査・外観調査も準備調査に含まれます。ここでは、書面による準備調査をご説明します。

申告書審理 申告書に誤りがないかチェックします。提出された申告書は、全て国税総合管理システム(KSKシステム)に入力され、形式的な誤りは自動的に抽出されます。決算書や勘定科目内訳書との整合性については、手作業でチェックします。ここで誤りが発見されることとも少なくなく、実地調査前に修正申告が見込まれ場合は、調査官にとっておいしい事案といえます。

決算書分析 主に勘定科目別に5期間の趨勢分析を行います。金額に凸凹がある場合、売上であれば売上除外、費用であれば水増し・架空計上を想定します。大抵の凸凹には理由があることが多いので、"当たりをつける"程度のものです。

勘定科目内訳書分析 例えば、役員報酬の内訳に社長の親族が記載されている場合、勤務実態がないことも少なくないので、重点的に調査することになります。

資料せん照合 税務調査は全国的に行われており、その際に取引先の情報も収集しています。すなわち、別の納税者の調査で収集した取引情報が資料化され、各納税者の調査参考資料として集約されます。これを資料せんといいますが、資料せんと勘定科目内訳書を照合することにより、脱税が見つかる場合もあります。例えば、今回調査する納税者から見て売上先となる者から入手した振込口座情報と、勘定科目内訳書に記載されている預金一覧を照合し、当該振込口座の記載がなければ、簿外預金ということになります。これは、売上除外を強く示唆していますので、実地調査ではここを重点的に確認することになります。筆者もこういったケースに当たったことがあるので、別の機会に記事にしたいと思います。なお、資料せんの存在を納税者に察知されてはいけないので、納税者に向かっていきなり「○○(株)の売上が計上されていませんが…」と切り出すわけにはいかず、工夫が必要です。

以上の結果を文書にまとめて、統括官の決裁をもらって準備調査は終了となります。

実地調査

日数 臨場する日数は会社の規模によりますが、売上が数億円であれば、調査官1人で2日間が通常かと思います。

概況把握 調査初日の午前は、概況把握として、ビジネスの概要(商流、従業員数等)を聴取したり、業務フロー(誰が何を担当しているか)を確認したりします。工場見学なんかもします。アイスブレイクとして30分程度、社長の人となりを聴くということも行なっています。ベテラン調査官の中には、世間話だけで脱税を見つけた、なんて武勇伝を語る人もいますが、再現性が低く、話を盛っていることも多いので、筆者はあまり世間話を重視していませんでした。午前中から帳簿を見始めるやつは使えない、なんてことも言われますが、ケースバイケースですし、筆者はさっさと帳簿を見ることも少なくなかったです。初回の記事にも書きましたが、筆者の調査事績はこれでもトップクラスでした。

本調査 まずは、準備調査で重点的に確認する事項としたものの確認をします。ここで指摘事項(税務署では非違事項といいます。)の端緒を発見した場合は、さらに証拠集めに進んでいきます。このほか、総勘定元帳等の帳簿と証憑書類を一通り確認します。詳しくは、非違事項別の調査手法の記事としてまとめていきたいと思います。

復命 初日の調査終了後、帰署した調査官は統括官に対して、調査の内容を説明します。その後の調査展開についてアドバイスを受けることになります。なお、復命は初日だけでなく、調査の各段階で行われます。

終了 非違事項があれば最後にまとめて伝えます。基本的には臨場時に調査が終わることは少なく、その後取引先の調査(反面調査といいます。)や銀行調査が実施されることもあります。これらの調査が終わったら、非違事項に係る修正申告の慫慂(しょうよう)を行い、又は、非違事項がなければ申告是認で調査終了となります。

決裁 内部的な手続きですが、調査が終了すると、提出された修正申告書や収集した証拠資料と一緒に調査経過をまとめた決議書を作成し、審理担当のチェックや統括官の決裁を受けます。仮装・隠蔽による不正所得があった場合には、重要事案審議会(重審)において、税務署長に対して事案の説明を行います。重加算税の賦課決定処分は不服申立が可能なため、慎重に手続きを行うこととしているのです。

おわりに

次回は反面調査や銀行調査についてご説明します。

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