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記述情報が熱い? これからの有価証券報告書開示実務と公認会計士の活躍の広がり

この記事は、ある程度会計周りやIRの知識がある方を対象にしていますが、できるだけ平易に書いています。公認会計士を目指している方にも読んで欲しいと思います。ある程度知識のある方は、「公認会計士に求められる役割」からご覧ください。

有価証券報告書とは

上場会社は、毎年1回、貸借対照表や損益計算書等の財務諸表を含む企業活動の結果等をまとめた有価証券報告書を作成して、投資家に対して開示を行うことになっています。

そして、この財務諸表は公認会計士や監査法人の監査を受けることになっています。

従前、監査対象となっている財務情報が最も重要であるとの考えが支配的(?)だったように思いますが、近年は非財務情報(記述情報)が注目を集めています。

記述情報とは

有価証券報告書の項目立ての概要は以下のとおりです(一部抜粋)。

第1 企業の概況
主要な経営指標等の推移(ハイライト情報)、事業の内容、関係会社の状況、従業員の状況
第2 事業の状況
業績等の概要、生産、受注及び販売の状況、経営方針、経営環境及び対処すべき課題等事業等のリスク、経営上の重要な契約等、研究開発活動、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
第3 設備の状況
設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設、除却等の計画
第4 提出会社の状況
株式等の状況、役員の状況、自己株式の取得等の状況、配当政策、役員の状況、コーポレート・ガバナンスの状況
第5 経理の状況
連結財務諸表等、財務諸表等、主な資産及び負債の内容、その他

このうち、監査対象となるのは「経理の状況」だけです。そして、それ以外の部分(ハイライト情報除く。)が記述情報と呼ばれています。

記述情報が重視されるようになった理由

財務諸表は数値でもって会社の財政状態や経営成績を表しているので、正確に作成されている限り、かなり信頼性の高い情報です。そのため、従前、投資家の意思決定に最も重要だと考えられてきました。

しかし、財務諸表に表れている数値はあくまで過去の結果に過ぎません。投資家が知りたいのは、この会社はこの先も成長するのか、利益を出せるのか、です。

そこで、過去、現在、未来の橋渡しをする情報として、会社はこれまでどのように価値を生み出してきたのか、将来どのように価値を生み出してしていくのか、それに係るリスクは何か、そのためのガバナンスはどうなっているのか(役員報酬は役員を適切に動機付けているか)、といった点を定性的に、あるいは非財務数値を用いて詳細に開示すべしという流れになっています。これらの情報を記載する箇所が、前記項目立ての太字のところになります。

金融庁は、提出された有価証券報告書の審査を行っていますが、これらの記述情報を重点的に審査するとしています。

これは、「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)の流れを受けたものです。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf

すなわち、資本効率を高めて企業が持続的に価値を生み出すためには企業と投資家が適切に対話する必要があるが、そのツールとなるように記述情報を充実させよ、ということです。

公認会計士に求められる役割

以上の説明は、聞き飽きたという方もいるかもしれません。いよいよここからが本記事のメインです。

日本公認会計士協会より以下の中間報告が出ています。

この中で監査対象ではない非財務情報についても、監査ほどの保証水準ではないにせよ、信頼性の向上のために公認会計士による何らかの保証を提供することが検討されています。

現在も財務諸表以外の箇所についても、財務諸表との矛盾がないか通読することが求められていますが、一歩進んで保証業務を行うということです。

なるほど、これなら監査報酬UPでウハウハだという見方もあるかもしれませんが、筆者は別の意味で公認会計士の活躍の場が広がるのではないかと思っています。

非財務数値の中には、財務数値を分解したKPIがあります。伝統的な大規模企業では詳細なKPIがないことが少なくありませんが(連結子会社が数百社あるなど技術的に算定不可能で、単純に売上高とかROEとしている)、ベンチャー企業の場合、何重にも分解したKPIを設定することが多いです。今後、こういった数値を有価証券報告書ないし有価証券届出書に記載する実務が増えてくると思われます。一部ではKPIの目標数値を開示している実務も広がっています。

現状、これらの非財務数値が開示されていたとしても、監査人は基礎資料をもらって単純な突合をしているだけという場合もあるかもしれませんが、保証を提供するとなったらどうでしょうか。KPIの策定方法の合理性をチェックする必要があると思います。

するとどうでしょう。ともすれば監査法人にいる公認会計士の多くは、監査一辺倒だったかもしれません。ベンチャーのCFOになっても利益計画の作り方が分からないなんてことも少なくなかったかもしれません。それが、今後は監査法人の会計士なら誰でもKPI策定のベストプラクティスが分かるなんて未来が来るかもしれません。

つまり、ベンチャーをとりまくエコシステムのプレイヤーたる公認会計士の全体的な底上げにつながるのではないでしょうか。

これから公認会計士を目指す若い方は、是非頑張って試験に受かってもらって、ベンチャーを支える役割を担って欲しいと思います。

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