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コロナとオンライン(1)

2019年12月。

中国湖北省(武漢市)で初めて検出され、瞬く間に世界中に拡大した新興感染症 COVID-19(新型コロナウイルス)は、僕らの "あたりまえ" を一変させた。

特効薬なき致死性のウイルス。その猛威に対して世界中が臨戦態勢をとった。

会話、食事、買物、出勤、登校、授業、会議、面談、受診、外食、旅行、里帰り、各種イベント... etc.  

 "あたりまえ" の日常をかたちづくるあれこれが、避けるべき、ある意味「命がけ」の行為と位置づけられた。

「三密を避けよう」
「Stay Home」

ニュースでは、感染者数・重症者数・死亡者数が天気予報を上回る頻度でアナウンスされ、「暑いですねぇ」レベルの日常会話のトピックになった。全国各地の感染者数の推移を、僕らはゲームの進捗を確認するかのごとく眺めるのが日常となった。

手指のアルコール消毒、体温計測、そしてマスク着用がデフォルトとなった。ノーブラノーパンはスルーでも、ノーマスクは糾弾され取締まられるようになった。「国民総高地酸欠トレーニング」状態だ。この二年で、肺活量とストレス値の国民全体の平均値は相当に上昇してるのではないか?

マスクのおかげで、日々すれ違ったりやりとりする相手の顔や表情を、常に上半分しか見れなくなった。

「この人、どんな顔だっけ?」

僕は人の名前や顔を覚えるのが苦手だ。「はじめまして」と挨拶したら、実は二度目三度目の出会いだったということがよくある。マスクのおかげで、そうした粗相の頻度が増した。

新型コロナは、日常生活や心身への直接的な影響度、被害・影響範囲の広さ、解決の見通しの不透明さ、どれをとっても今世紀最悪の災厄と言えるだろう。

僕らは、心理的にも物理的にも社会的にも、さまざな制約を被ることになった。

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危機に伴う大きな制約は、個々の人々に、サバイバルのための対処圧を広く強くかけ続ける。誰もが従来の日常生活を可能な限りキープしようと、必死の工夫や再適応を試みる。日本中で、いや世界中で、膨大な量の試行錯誤が繰り返されている。

それらは総体として、世の中にドラスティックな変化を生じさせるトリガーとなる。

これまでの常識やルールが問答無用に通用しない状況にあって、パラダイムシフトやイノベーションが必然的に、加速度的に生み出されることになる。

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1990年代後半にインターネット、2000年代後半にスマホが広く普及したことで、世の中の仕組みは大きく変わった。時間、距離、モノや情報のやりとりにまつわる物理的な制約が取っ払われたことで、コミュニケーションのあり方が、人と人とのつながり方が、様変わりした。

この変化を、認知革命、農業革命、産業革命につづく人類史上類を見ない第四の革命ー情報革命ーと呼ぶ人もいる。

ただ、ヒトという生き物(その大半)には「限界ギリギリまで現状維持を志向する」という傾向が備わっている。口ではあれこれ不満を言いつつも、多くの人はドラスティックな変化を嫌う。さまざまな理由をつけて、これまで通りのやり方を、考え方を、慣習をキープしようとする。

例えば、2007年にスティーブ・ジョブス氏が初代iPhoneを世界にお披露目した時、一部の人は熱狂したが、多くの人は冷ややかな反応を見せた。

「こんな高価なオモチャ、誰が使うんだ?」

ほとんどの人が、手持ちの携帯電話で事足りると感じていた。

あれから10数年が経過した今、もはやスマホのない生活を想像することは難しい。

家はなくともスマホは必須だ。

そして、ほとんどの人は、自分たちが10数年前の初代iPhoneに冷ややかな反応をしたことなどキレイさっぱり忘れている。

結論:ヒトの大半は変化を嫌い、現状維持を志向する。慣れ親しんだ古いものを尊び、新しいものには拒否反応を示す。しかし一度変化を受け入れると、瞬く間にそれを"あたりまえ"のものとして受け入れてしまう。

僕らはそんな節操のない生き物なのだ。

コロナによってもたらされた危機感と問答無用の制約は、情報革命に伴う変化の広がりを一気に加速させた。

在宅ワーク
オンライン会議
オンライン取引
オンライン授業
オンライン研修
オンライン診療
オンラインビジネス
オンラインショッピング
オンラインイベント
オンラインコミュニティ

ありとあらゆるサービスや活動をオンラインに乗せるためのフォーマットやアプリが開発され、広まった。

それらは、日常化し、状態化した。

もちろん、従来通りの活動が妨げられたことで、悩み、苦しみ、不安やストレスを抱え、困窮している人が数え切れないほどいるのは事実だ。死活問題だ。特に、病や障害に苦しむ人、仕事を失った人、足元が整っていない子どもたちや若い人たちの将来に悪影響を及ぼすような事態は避けなければならない。幅広く、長期的な視点に立った、手厚い支援は喫緊の課題だ。

しかし、現在起こっている世の中の仕組みそのものの変化の流れは不可逆だろう。

多くの人が気付き始めている。

「必ずしもリアルでなきゃいけない理由、なくない?」

会社に行く必要、ある?
会議室に集まる必要、ある?
ハンコ押す必要、ある?
学校に行く必要、ある?
対面授業である必要、ある?
病院を受診する必要、ある?
スーパーに行く必要、ある?

どうしてもリアルじゃなきゃいけない・リアルで体験したいことと、オンラインでも全然困らない・むしろ楽だし効率良いものとの選別が始まっている。

多くの人の努力や工夫によってオンライン体験・サービスの利便性や満足度が高まることは、翻って従来のやり方の非効率や根拠のないこだわりを炙り出し、古い慣習や理屈が駆逐され始めた。

大きな意味では、もう後戻りできない。

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そうした急激な変化は、カウンセラーとしての僕の仕事や日常、そして考え方にも、当然のごとく大きく影響を及ぼすことになった。

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