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コロナとオンライン(3)

2021年10月、現在。僕の主たる職場は学校だ。ウィークデイの大半はスクールカウンセラーとしてあちこち複数の学校を回っている。

コロナ禍に日替わりで学校を巡りながら、いろんなことを考える。とりあえず備忘録的に二つほど書き残しておくことにする。

一つは、オンライン化が進むことでスクールカウンセラーにできる仕事の幅が広がる可能性だ。

僕が勤務している地域では、スクールカウンセラーは小中高含めた全校配置となっている。すべての公立学校に担当のスクールカウンセラーがいる。

ただし予算は潤沢とは言えない。非常勤だし年間の総勤務時間も限られる。さらに、教育委員会の担当者の方は、限られた人数のカウンセラーをパズルのように組み合わせて県内全域すべての学校への配置を達成しなければならない。

正確なところは分からないけれど、予算全体に占める交通費の割合は相当な額に上ると推測される。僕個人で言えば、マイカーを所有しておらず、自宅から100km近く離れた学校にも配置されてるので、新幹線を利用する。1回の通勤に往復で約1万円だ。全体の交通費が削減されれば勤務時間や日数も相当増やせるだろう。

ただ現時点ではどうにもならない話だ。近場のカウンセラーでまかなえるならそうしてるだろう。交通費は出さずに遠方の勤務地を指示すれば、なり手がいなくなるだろう。あれやこれやの帳尻を合わせなきゃいけない担当者の方の作業の大変さは想像を絶する。

そんな現状で、1つの学校につき1日6時間と設定すると、勤務できるのは多くとも月3〜4日(週1程度)だ。なので例えば、保護者の方が相談を希望してくれても「○曜日の○時」とピンポイントで時間帯が合わなければお会いできない。家事に育児に仕事にと多忙を極めるお母さんなんかだと日程調整にかなりの負担をかけてしまう。

また、僕が勤務している地域のスクールカウンセラーは家庭訪問ができないルールになっている。あくまでも校内での対応が原則だ。訪問対応は先生やスクールソーシャルワーカーといった方々の領分となる。なので、学校に来れない生徒さんと話す機会はない。

もしオンライン対応が解禁されたら、上記のような課題は大きく改善できるように思う。少なくともできることの幅が広がり、きめ細かいニーズに柔軟に対応できるようになる。

例えば、学校への直接出勤とオンライン勤務が併用できれば、その分交通費が削減され、浮いた予算で勤務可能時間を増やすことができる。例えば、学校が自由裁量で使えるクーポン制を一部導入することで、現在は勤務時間外で対応できないケースにも関わることができる。授業参加を優先させたい生徒や、仕事が忙しい保護者や先生と時間外で話したりなんかもできる。例えば、タブレットやPCによるオンライン面接が可能になれば、自宅から出れない生徒や保護者との面接もできる。

いいことばっかじゃない? もっとオンラインが活用されてくといいなと思う。まぁ具体的に導入されれば何かしら問題も生じるのかもだけど。

ついでに言えば、オンラインともコロナとも関係ないけど、「ウチはスクールカウンセラーなんて要らん!」って学校もあっていい気がする。その分「要る!」ってとこに回してメリハリつけたらいい。だって配置しても使わないんだったら、いろいろ勿体なくない?統計的に厳密な意味でのスクールカウンセラーの効果も見れてオモシロイと思う。ちゃんと評価もしてもらって個別にスコアリングして、時給の上げ下げとかやったらいい。下位一割は毎年新人との入れ替え戦とかやってもいいんじゃないかな。

もう一つ。コロナ禍で開始されたオンライン授業の様子を見て思ったこと。

授業を準備し実施する先生方がめちゃくちゃ大変になるのはわかっているが、とりあえずココでは脇に置かせてもらう(動画コンテンツとしてストックできれば逆に随分楽になるとは思うけど)。

「おぉ!」と思ったのは、いわゆる「不登校」状態だった生徒さんが授業に参加するというケースが結構見られたことだ。意外とマジメに話を聞き、課題をこなす生徒さんもいた。

これは画期的だなと思った。

現在の公立学校のシステムは、原則として、生徒が「登校」しないと起動しない。決められた場所に決められた時間に集まることが大前提だ。だから登校できないと、学校に行けてれば受けられるはずの大半のサービスを受けることができない。ほぼオール・オア・ナッシング状態だ。

オトナの社会では、コロナ禍という危機下にあって言わば苦肉の策として導入されたオンライン勤務(在宅ワーク)が当たり前になってきた。最近は「これで回るなら会社に行く必要ある?」「社屋っている?」みたいな議論さえ一部では巻き起こっている。

分散登校ー半数の生徒は教室で、残り半数はオンラインという特殊な形式ーで行われていた授業を見ながら、僕はフト思った。

「オンラインならシッカリと授業を受けられるけれど学校に来ることは難しく不登校となっている生徒」と「学校には来れるけど授業にはほぼ興味を示さず居眠りばかりしている生徒」がいる。「授業・教科学習」という面に限れば、高い評価を受けるべきは前者だろう。もちろん、学校は勉強するためだけの場所ではないし、授業に興味を示さない子がダメだというつもりはサラサラない。

ただ「フェアじゃないな」とは思う。今みたいなツールや方法がなかった時代なら仕方ないかもしれないけれど、あるのに使えないのは気の毒だ。コロナが収まれば学校は通常運転に戻る。不登校の子たちが授業を受け、学力を伸ばし、評価を受ける機会は大きく減じられる。

「いつでも、どっちの形式でも受けられるようになればいいのに」と思った。そうなれば、多くの不登校の生徒たちが学ぶ機会を確保できる、学力も上がり、生活リズムも今より整うだろう。家族以外の誰かとのコミュニケーションの機会も増えるはずだ。

だけど、間違いなくそうはならない。リアルとオンライン、自由に好きな方を選択できるとなると、オンラインを選択する子がめちゃくちゃ増えるだろう。そうなると現状の学校システムは回らなくなる。「来ても来なくても、どっちでもいいよ」と言われて、これまで通り毎日登校する生徒がどれだけいるだろう?ちょっと予想がつかない。

「自分が中学生だったら?」と想像してみる。それほど遠くなければ、授業は家でいいけど、友達に会いたくなれば登校する。半々くらいかなと思う。いや、友達に会いたければ示し合わせてどっかの家に集まる気もする。部活とか楽しければもう少し行くかも。結局、学校でしかできない楽しいことだったり、やっとかないと後々メンドウな事態になるようなことがなければ、モチベーションは上がらない。それでも学校遠かったら行かない日の方が多くなる気がする。

将来的にはどうなるんだろう。学校とか家以外の場所に通うは通うが、勉強についてはそれぞれ自分に適した別のコミュニティにアクセスする感じだろうか?個別にAIがティーチングアシスタントにつくのだろうか?体育の教科にeスポーツが組み込まれるのだろうか?僕の頭では想像できない。

新しいコンセプトやインターネットをはじめとするテクノロジーを活用し、新しい教育システムを構築する試みがさまざまになされている。例えば「反転授業」とか。通信制の学校も、一般的な学校と遜色のない(場合によってはそれを超えるような新しい)教育サービスを提供すべく進化を続けている。

今はまだ、通常の学校システムに適応できなかった生徒たちが、次善の選択として通信制やその他のシステムに移行するという形が一般的のように思う。フラットで対等な選択肢とはなっていない。他のシステムの移行にあたっては、本人にも家族にも少なからず苦悩が伴う。移行までのインターバルも長くなりがちだ。経済的負担が増すケースもある。将来に向けた不安がなかなか拭えないという面もあるだろう。

文部科学省が2020年度(令和2年)の学校基本調査の速報値を公表している。不登校(年間30日以上の長期欠席)の小中学生は2013年度から8年連続で増え、比較可能な1991年度の統計開始以降最多となっているらしい。小学生は6万3350人(前年度比1万人増)で、全体の約1.0%。中学生は13万2777人(同4855人増)で、全体の4.1%。うち55%が90日以上の長期欠席をしていた。

不登校は、生徒個人が(あるいは家庭環境に)なんかの課題を抱えているが故に陥ってる「不適応状態」と認識されがちだ。そうした課題を解決し、再登校できるようにさまざまな対策が講じられることになる。

しかし、別の視点も同時に持っておく必要があるだろう。不登校を、生徒たちからオトナの社会の側に対する異議申し立て、切実なニーズを含んだメッセージと捉える視点だ。多様なニーズに即した、新たなシステムの導入を求める声として検討する姿勢だ。

もっと気楽に、自分に合った形の教育が受けられるようになればいいと思う。無数のとは言わないけれど、5〜7つくらいの選択肢があって、自分のキャラやニーズに合ったシステムを選べる。どれを選んでも明らかなデメリットは生じないように調整されている。「違ったかな?」と思えば途中でもアッサリ別のシステムに移行できる。

漠然としてるし具体性もないけど、これだけテクノロジーが進んでるだし、多様性を尊重しようって流れもあるわけだから、もっと柔らかでなめらかな仕組みができたらいいのにな、と思う。

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