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三年目、春

2020年4月に、長年勤めた単科精神病院を退職して丸二年が過ぎた。

「フリーランス」と名乗りながらも、非常勤のスクールカウンセラーと業務委託のオンラインカウンセラーという二つの仕事が稼ぎの九割を占めている状況なので、実質は「フリーター」だ。

ただ僕は今後も、大きな仕事をドンッ!と一つ立ち上げてそれで勝負しようという気はない。むしろ、小さくていいからホントにやりたいことだけを仕事にしたい。安全に、安価に、楽しみながらオリジナルなナリワイをつくり、その数を増やしていきたいと思っている。

現状では、そんなナリワイで得られる稼ぎは僅かなものではあるけれど、あまり気にしていない。個人的に相談を依頼される機会も少しずつ増えてきたし、自分の中から生まれたアイデアをタネにイベントやワークショップを開催する機会も増えてきたし、亀の歩みではあるけれど、前進はしている。サラリーマン時代には皆無だった「仕事自給力」は確実に上がっている。

友人の経営する居心地のよいカフェでやっている月一回「カウンセラーカフェ」は、開催二十回を超えた。お茶しながら気軽に専門家に相談できる場として、細々とではあるけれど定着しつつある。

心理職としてこれまでに身につけてきたメンタルヘルスにまつわる知識やスキルを、誰でも理解し日常的に活用できるようなカタチにパッケージングして一般の方にシェアすることができたらいいなという思いから始めた各種ワークショップも毎月開催している。参加者はいつも少人数ではあるけれど、体験してくれた方たちの多くからポジティブな感想をいただけるので、モチベーションが下がることはない。むしろ、もっとイイものにしたいと、飽きることなく資料やプログラムをいじり回している。

人伝のご縁で知り合ったイケてる小さな本屋さんで定期的に開催している「オープンダイアローグ体験会」は、定員十数名の小さなイベントだけど、毎回満席になるのがメチャクチャ嬉しい。ここ数年、個人的に「混じり気のないダイアローグ=対話」のもつ癒しとエンパワー効果を実感しているので、その感覚を多くの人と共有できるのは楽しいし、嬉しい。

つい先月には、同業の友人に誘われて独立開業を志している心理職向けのオンラインワークショップを共同開催した。「独立開業」という漠然と大変そうなイメージのある「言葉」を、具体的なタスクに分解して、疑似体験する。経験を踏まえて参加者の不安や疑問に答える。苦労話と喜びの両方を伝える。そんなやりとりを通じて、参加者の皆さんが自分がやりたいと思っている事業をカタチにできるようエンパワーする。そんな企画だ。

以前の僕なら「独立二年目、しかもほぼフリーター状態の僕みたいなものが、そんなイベントをやるなんておこがましい」みたいな考えがブレーキになって、あっさり断っていたと思う。こういう話に「おもしろそう」と迷いなく飛びつけるようになったことが、この二年で僕の中に生じた最大の変化だろう。

「僕みたいなものが、おこがましい」というのは、ある種の呪いだ。出る杭は打たれる、年功序列の文化のなかで、知らず知らずのうちに埋め込まれたマインドセットだ。

やりたいから、やる。
やってみないと分からない。
とりあえず、やってみる。
やりながら、考える。

そんなシンプルなサイクルを回せるようになってきた。実際、この開業イベントは結構好評で、参加者の皆さんのモチベーションを少なからず上げることに成功したという実感がある。

もちろん、どの仕事もアラやミスを数え上げれば無数にある。けれど他方で、利用者・参加者の方々からポジティブな評価をいただけることも多く、そこで得られる喜びはサラリーマン時代とはずいぶんと質の違ったものに感じる。

自分とお客さま(そのニーズ)が直接つながったという感覚。自分そのものが単品で「価値」になって誰かの役に立ったという感覚。どう表現したらいいのかうまく言葉が見つからないけど、混じり気なしに全身で嬉しいと感じる。

結成間もない無名のバンドが小さなライブハウスで演奏する。誰も自分らのことなんか知らないし、興味もない。まともに聴いてもらえる筈もない。けどライブを重ねるうちに少しずつ聴いてくれる人が増えてくる。アンケートやSNS、あるいは面と向かって「いいね」のコメントをもらえたりする。「次のライブ、いつですか?」なんて訊かれたりすれば、天にも昇る心地だ。メチャクチャ嬉しい。もっと上手くなって、もっとイイ曲作ろうと思う。会場を満員にして、来てくれた人全員を気持ちよくできるような演奏がしたいと思う。

そんな感じに近い気がする。

今年はもっとイイ曲書いて、もっとたくさんライブして、ファンを増やしたいと思う。

ん、なんか違うか。

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