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コロナとオンライン(2)

密室で、密な距離で、密な話をする。

カウンセリングは「三密」の代表みたいな行為だ。そして、密であるがゆえの効用や価値が尊ばれてきた。

日常から程よく切り離された場所を訪れ、直に対面するカウンセラーを合わせ鏡として、密に自分と向き合い、省み、語り、新たな意味や物語を紡ぎ出し、次のアクションのきっかけを探る。語られたことは共感され、また秘密の遵守が約束されることで、そのプロセスが促進される。

対面であることの意義も強調されてきた。カウンセラーは、場の空気や雰囲気、表情・姿勢・仕草・声のトーンといった言葉にならない部分の微細な変化にも心を配り、丁寧に応答することが求められる。

カウンセラーとクライアントが直に出会い、言葉を通じて、感情のやりとりを行うことで形作られる信頼関係こそが、カウンセリングが効果ー症状の軽減、悩みの軽減、次のアクション、癒し、成長などーを上げるキモだとされる。

まぁその通りだと思う。

そして、それを理由にオンラインカウンセリングやテキストカウンセリングは、あまり推奨されるものではない、とされてきた。少なくとも傍流的なもの、代替的なものと見なされてきた。

スマホが普及し、SNSやチャットや双方向的な動画配信サービスなどが広まってからも、それは変わらなかった。

そこにコロナがやってきた。

学校の授業、会社の会議、外食、飲み会、ライブ、買物など。ありとあらゆるコミュニケーションややりとりが、「三密を避ける」というスローガンのもと、オンラインに乗せられ、そのフォーマットが整えられていった。

カウンセラー業界も同様だ。日々のカウンセリングは、消毒・マスク・衝立・ディスタンスなどを駆使して可能な限り従来の形式を保つ工夫がなされたが、そもそも外出や直接対面を減らそうという世の流れから、件数や頻度の減少は避けられなかった。多くの人がコロナに伴う窮屈な生活を強いられ、ストレスを高め、カウンセリングのニーズは上昇していったにも関わらず。勉強会、研修、学会なども大半はオンラインに置き換えられた。

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これまでは「リアルかオンラインか」の二択であれば、迷いなくリアルが選択されていた。リアルについてはメリットばかりが強調された。オンラインについてはデメリットばかりが喧伝され、さまざまな難癖がつけられ、望ましくないものと位置づけられた。

どんな物事であれ、メリットとデメリットの両面があるのが普通だ。メリットが大きければその分デメリットも大きくなるだろうし、逆にデメリットなき無害なものには効用もないのではないかと思う。

オンラインのメリットが強調されず、またデメリットを補うためのノウハウが積極的に検討されて来なかったのは、単に従来通りのやり方を変えたくなかった、めんどくさかったからだと思う。「ずっとそうしてきたから」という、ただそれだけの理由で古式ゆかしき伝統が保たれるというのはどんな領域にも普通に見られる。

何度も言うが、ヒトというのはギリギリまで、ありとあらゆる理屈をつけて、現状維持を志向する生き物なのだ。

コロナという災厄により、リアルという選択肢がとりにくくなって初めて、オンラインによるサービスの価値に目が向けられ、その質を高めるための試行錯誤が始まった。手足を縛られ、やるしかなくなった。ガイドラインが作成され、実践を通じて修正が加えられた。その効用やメリットについても語られはじめた。

オンラインの何がいいのか?

まず、手軽だ。わざわざカウンセラーの元に出向かなくても自宅など好きな場所で受けられる。何らかの障害やひきこもりなど元々家から出ることのハードルが高かった人でもオンラインなら受けられるというケースもある。予約や決済などの手続きをオンラインで手軽に済ませられるのもメリットだ。

次に、選択肢の多さだ。たくさんの中から好みのカウンセラーを選べる機会が増えた。これまでは自分が直に通える圏内にある病院やクリニックやカウンセリングルームから選ぶしかなかった。勇気を出して行ってみる。「いまいちだな」と思っても対面だと意外に切るのが難しかったりもする。次を探すエネルギーもなく、他所に良いカウンセラーがいるかどうかも分からんし、とりあえずそこに通い続けるなんてこともあっただろう。

最近は、オンラインによるカウンセリングを専門で提供するサービスも始まっている。

有名どころだとcotreeとか。登録されているカウンセラーの中から好きな人を選べる。気に入らなければチェンジだ。マッチング診断なんかもある。形式も、対面動画(ZOOM)、電話(Skype)、テキスト(メール)と好みのものが選べる。

私事になるが、昨年4月に病院を退職してフリーランスになって、個人でカウンセリングを受けるサービスを開始しようと考えていた。しかし、コロナに伴う「三密キャンペーン」が広まるなか、カウンセリングをやるどころか、営業活動をすることすら憚られる雰囲気があった。

そんな中で、オンラインによるカウンセリングを考えざるを得なかった。他に選択肢はなかった。

一からサービスをつくるのも大変そうだったし、そもそも営業集客とか苦手だったので既存のサービスに乗っかって、まずは感触を確かめ、ノウハウを身につけようと思った。で、cotreeに登録した。

僕は主にZOOMを使ったサービスをやらせてもらっている。やってみて分かることがいろいろあった。

まず、外国に住む日本人クライアントが多いことに驚いた。コロナによって行動範囲が狭められストレスを抱えている人々が増えているのは世界共通だ。異国の地でストレスを抱える。帰国もできない。誰かに話を聞いてほしいと思った時に、母国語で喋りたいと思うのは当然の欲求だろう。そうしたニーズにオンラインカウンセリングはバッチリはまる。

ZOOMだと顔を隠して話すこともできる。これはカウンセリングを受けることのハードルをずいぶん下げるだろう。

クライアントからカウンセラーへのフィードバックシステムがデフォルトで準備されていることも大きい。面談終了後に、満足度や改善度を問うアンケートがあり、結果は集約されてカウンセラーに伝えられる(オープンにはされない)。評価の高低によって単価を変えられるシステムもある。ただ、この仕組みについては課題も多く、まだまだ改善の余地があると感じている(その点については、またどこかで)

顧客からのフィードバックに応じてサービスの内容や提供の仕方や必要なスキルを調整し、改善を図っていくことはサービス業の基本だ。しかし、カウンセリング業界にはそのための仕組みが整っていない。

カウンセラーの能力を評価するのは誰か?顧客の反応よりも、師匠や教授や先輩やスーパーバイザーなどの判断の方が比重が大きかったりする。臨床上のやりとりよりも、内輪のやりとりが重視されていたりする。そしてその評価がオープンにされることは、まずない。

クライアントの側からすると、どこに自分のニーズにフィットする優れたカウンセラーがいるのかを知るための情報がない。運頼みだ。この点もまた、カウンセリングのハードルを上げている一つの要素だろう。顧客の側からすれば、食べログ的な、顔の見える評価システムがほしいところだろう。

僕がオンラインカウンセリングを始めたのは今年(2021年)2月からなので、まだ正味8ヶ月だけれど、上記以外にもいろいろと学ぶこと、気付かされることが多い。

一つ確かなことは、これから先、オンラインカウンセリングは当たり前の選択肢となるということだ。そして、オンラインでのやりとりには、リアルとは違った工夫やスキルが求められる。オンラインならではの作法もある。

僕は古い人間なので、圧倒的にリアルのやりとりを好む。単なる慣れの問題だ。しかし、若い世代は違うだろう。生まれた時からスマホやタブレットが身近にあり、多様なオンラインでのやりとりを使いこなす世代には、あえてリアルにこだわる理由はない。

要は、カウンセリングというサービスもニーズに応じて細分化されていくのが必然だろうということだ。それは何療法がいいのかというような流派・理論・方法的な話ではない。そこに興味を持つのは専門家だけだ。素人ユーザーからするとどーでもいい話だ。クライアントが欲しいのは良き体験であり、結果だ。どんなメディアで、どんな形式で、どんな体験を求めているか。そんなこんなによってサービスが差別化されていくことになるだろう。

僕としては、やはりリアルに軸足を置きたいが、オンラインにも対応できるようにチューニングし、自分の得意分野を絞り込む作業をしとかないと、食ってける気がしない。

頑張る

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