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すべて真夜中の恋人たち

なんだろうこの読後感、自分はいま、少しやさしい気持ちの人間である気がするこの感じ。 軽い気持ちで読んだけど、思ったよりもたくさんのお土産をもらって帰る時のような、そしてそのお土産はどれもきらきらしているような、そんな感じだった。 感想を書くとすればふたつある。 ひとつは、甘露飴のような透明な、でも無色ではないやさしくてやさしい恋。自分の主張をほとんどしない主人公が少しずつ自分の気持ちを見つめ、言葉にして最後には伝えて、そして前に進むこと。傷つきたくないはずなのに言葉にすること。そうしないといられない状態になってしまった出会い。タイミング。たぶん落ち込んだけどそれを養分に前に足を動かして前と同じような、でも少し違う日常を生きていくそのたくましさ、まるで主人公と日常を共にしていたような親近感を持って、新しい感情を知って帰ってきた彼女をあたたかく迎えるような自分の眼差し。ここまでの人間の揺れを小説の言葉は表現できるんだなという驚き。 ふたつめは、友達。 フリーの校正者である主人公を担当する、出版社の校正者、同い年。彼女は主人公とは真逆のような言いたいことを遠慮せずに言える、むしろ言わないと気が済まないタイプの女性。主人公との関係性では見えなかったが、周囲からの担当者に対する悪い評判が入る。そしてついに主人公に対しても、担当者の負の一面が漏れる。担当者はひどいことを言って主人公は心が乱れ泣く。担当者は我にかえり自分の過ちを反省する。そこに人間の憎めなさをみる。そして数年後、ふたりは主人公の誕生日を祝っている。手に負えないドロドロした毒のようなもの、だけどほんとうのもの、その一歩先に、さらにほんとうがあるんだなと思った。 だいたい、そこまでは辿り着けないで、あぁ、やな奴だったな、で終わる。 人生には、あいつはやな奴だったな、の先にちゃんと物語がある。それをこの物語は見事に見せてくれた。 #川上未映子 #すべて真夜中の恋人たち #読書感想 #エッセイ

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