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(読書感想)人は本来悪いヤツなのか?「Humankind希望の歴史」

最近読んだ本、面白かったです。
Humankind 希望の歴史 ルトガー・ブレグマン著

タイトルが物々しいけど、要は、人の性(サガ)は善なのか悪なのかを、人類の誕生から現代に至るまでの歴史を考察して答えを探るとともに、それを踏まえてこれからの社会への可能性を示唆したもの。原書はオランダ語で書かれていてタイトルは「De meeste mensen deugen」。Google翻訳すると「Most people are good」。(ちなみにデンマーク語での出版は「Det gode menneske(善良な人間)」)もう最初からこのタイトルに出てるけど、答えは性善説の方。

個人の感覚としては、何となく雰囲気がMalcolm Gladwellの本に似てた(例えば下記の本)。実際に、彼の本に出てきた事例が何個かこのHumankindの方にも出てきてました。どちらの本も色んなエピソードを引き出してくるので、読んでいて本当に飽きなくてpage-turnerです。

私としては、人間は基本良いヤツでよかったなー、というところより、性悪説を裏付けるような歴史的記述や1900年台に行われた心理実験結果が、掘り下げると実は全く違う事実だった、ということがとても興味深かった。ソーシャルメディアに新聞・テレビ等の既存メディア、インターネット、情報が溢れに溢れまくってるとともに、アルゴリズムで偏った情報が押し寄せるこの社会、何がどこまで事実なのかを知るのはとても難しい。だからこそ、事実とは異なる研究結果を防ぐ、偏った報道をしない、といった発信側の責任も重要だと改めて感じた。

以前読んだ記事で「p-hacking」なるものを知った。
(Mikkel Willum Johansen, 'Pizza og p-hacking', Weekendavisen (6.1.2022)
https://www.weekendavisen.dk/2022-1/ideer/pizza-og-p-hacking(デンマーク語/有料記事))
日本語の説明文をとグーグルしてみましたが、専門用語が難しくて何だかよくわからなかったので、とりあえず英語の説明文ものせておきます。

p値ハッキングとは、データの浚渫(しゅんせつ、data dredging)とも言われ、得られたデータから特定の値(p値)が小さく見えるように操作することです。

https://www.enago.jp/academy/nutritionist-resigns-with-retractions/

Data dredging (also known as data snooping or p-hacking) is the misuse of data analysis to find patterns in data that can be presented as statistically significant, thus dramatically increasing and understating the risk of false positives.

https://en.wikipedia.org/wiki/Data_dredging

記事で取り上げられていたのは、Brian Wansinkという消費者行動やマーケティングリサーチ分野のアメリカ人研究者の研究結果。彼は、「人は料理にお金をかける程、その料理が美味しいと感じる」、「男性は、男性同士で食べるより女性と一緒に食べる方がより沢山食べる」といった研究結果を発表したのだが、実際は、元々の研究は全く別の仮説を実証するために行われたが実証できず、その代わりその結果データから関連のあるものを取り出して発表したものだったと判明。つまり、例えば、「より高い料理」と「より美味しいと感じた料理」との関連性は高いとは言い切れず、別の仮説実証のための研究データで現れたのはただの偶然だった可能性が高い、というものらしい。(注:ど素人の解釈なので、きちんとした説明は「https://www.enago.jp/academy/nutritionist-resigns-with-retractions/」(日本語)や「https://en.wikipedia.org/wiki/Brian_Wansink」(英語)などを参考にされることをお勧めします。)

p-hackingや誤った情報は、ほんの一握りだと思うし、数多くの研究や調査やニュース・情報に私たちの生活は大きな恩恵を受けていると思う。だが、その一握りの誤った認識がノセボ効果として深く働くこともある。それがこの本のテーマ:人は人間の性(サガ)は悪だと思い込んでいる。着眼点が面白いなと思った。私の人生の中で、人間の性(サガ)なんて考えたこともなかった。新たな視点に出会えたという意味で、この本を読んで良かった。お勧めです。

デンマーク語版です。良い人の手。この装丁すきです。


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