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(読書感想)「古道具 中野商店」

正直、日本の小説には苦手意識が昔からある。何故か分からないけれど、読むと胃が重くなるようなズンとしたものにあてられる。もちろん、読書量が断然少ないので、色々読んでみれば、自分に合ったものもきっと出てくるんだと思う。

たまに、近くの図書館で日本の小説がデンマーク語訳されたものが置いてある時がある。日本語以外で読めば、もしかしてあの独自の重さが取れるかもと、数冊読んだことがある。確かにその通りで、読みやすかった。ただ、日本語をニュアンス・行間等を含め完全には訳せないことからくる読みやすさか、単にデンマーク語翻訳を深く理解できてないからこその読みやすさかは分からないが。

今回は図書館ではなく、本屋さんで見つけた本。川上弘美 著

東京近郊の小さな古道具屋でアルバイトする「わたし」。ダメ男感漂う店主・中野さん。きりっと女っぷりのいい姉マサヨさん。わたしと恋仲であるようなないような、むっつり屋のタケオ。どこかあやしい常連たち……。不器用でスケール小さく、けれど懐の深い人々と、なつかしくもチープな品々。中野商店を舞台に繰り広げられるなんともじれったい恋と世代を超えた友情を描く傑作長編。

アマゾンの内容紹介文より

なんとなく、「コンビニ人間」の主人公の女性と似てる感じがしたのは私だけだろうか。社交的とは反対で、仕事場(古道具屋)以外での主人公の様子、つまり友人との絡みや趣味等の描写が一切ない。仕事場と自宅アパートの往復。仕事場での人間関係が彼女の人間関係の全て。そこがコンビニ人間の主人公と重なったのかも。(と言っても、コンビニの方の主人公はもう少し家族や友人との絡みがあったが)

お店に売られてきた物とその売主にまつわる話、店主と従業員達の程よい関係、彼らが抱える一筋縄ではいかない恋の行方、このテンポが好きな人にはいい話なんだろうな、と思った。色んなエピソードがある分、私にとっては少し深みにかける気がした。例えば、主人公が好きな人への電話をやめた時(相手は出てくれなかったが、毎日電話していた)。後日談的に、「電話するのは随分前にやめた」というような感じに描かれていたが、どういう思いでやめたのか知りたかった。好きな人を追いかける時、その理由なんて世の中にそんなにバリエーションはない気がするけど、諦める時、そのタイミング、その理由、人によって色々なドラマがあると思う。この主人公はどうだったのかな。また、彼女がお店を辞めなかったのも何故なのかな。行間を丁寧に読めば伝わってくるものがあったのだとしたら、私はそれが出来なかったのだろう。

この主人公の行動や心理など、自分の勝手な推測で終わるのも小説の醍醐味なのかな。私にとって本を読む醍醐味の一つは、自分の知っている世界や見聞きしたことある世界とは全く違う世界や、新たな考え方を知ることだ。自分の推測の範囲なんて所詮狭い。だからこそ、推測に任せて終わるのではなく、物語として掘り下げて欲しかったなとも思う。とは言え、テンポがよく、最後の終わり方も良かった。この終わり方、両賛否あるだろうけど、深み無くダラダラ続くより、こういう終わり方でよかったかなと個人的には思う。機会があれば、この著者の他の作品も読んでみたい。

古道具屋感が全くないデンマーク語版。なんと65クローネ(約1,280円)の格安セールで買えた。ネット書店で今見てみたら125クローネだったので、半額。ハードではなくペーパーブックだけど、それでも125クローネはかなり安い方、だと思う。

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