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絆創膏とHEROと

帰宅すると兄妹の全身を無意識ではありますが、ざっと目視でチェックする習慣のようなものがあります。

その日の夕方、娘の小指には小さな絆創膏が巻かれていました。訊けば少し赤くなっているだけなのだと云うのですが、その効力を信じて止まない娘にせがまれ、どうやら家のだれかが貼ってくれたようです。とくに痛がることもない娘の姿に少しほっとします。

今年3歳になる娘にとって絆創膏とは魔法を宿した特別な代物であるのでしょう。しかし、その無味乾燥なテープでは些か不満なのか、僕の顔を見るなり娘はこう言います。

「パパ、アンパンマン、まって!」

満面の笑みを浮かべています。アンパンマンの絆創膏を更に上から貼って欲しいのです。

「わかったよ」

僕は薬箱の中をがさごそと引っ掻き回しましたが、生憎アンパンマンは不在です。代わりにと云っては彼らに申し訳ないのですが、2シーズン前の仮面ライダーを彼女の小指に慎重に巻いてあげました。

「おおー!かっくいいねぇ!」

よし、と僕は心のなかで叫びます。

「いい子だ」などと声に出しては言いませんが、兄の影響も多少はあるのでしょう。娘が仮面ライダーという、どちらかと云えば男の子向けの絆創膏を気に入ってくれて本当によかったとそのとき感じました。正直、ここで泣かれてしまっては後が面倒ではあるのです。ですが、そう思ってしまうのです。やるべきこともままあるわけでして……。

絆創膏とキャラクターというヒーローたちの存在を少なからず実感した瞬間であり、また彼女に嫌われるその日が来るまでは、僕もヒーローであり続けたいものだ、と心にかたく誓うの夏の夕暮れでありました。

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