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#7 会話とオーダーメイドを巡る旅〜SOAK IN WATER 角本惣次さんを訪ねて〜第二回


ベルト専業メーカーとしてのスタート

寺田:2012年にご自身で始められたブランドがSOAK IN WATERですよね?

角本:そうですね。ベルト専業ブランドとしてスタートしたのがSOAK IN WATERです。
カバンや財布も作れないことはなかったのですが、知り合いと話していたときに自分の気持ちが再確認できて。作るところから販売まで、一貫して自分でやりたいと思いました。
余計なことを欲張らず、それこそ高校生のときの原点に立ち返って物作りをしてみようと、ベルト専業の道を選んだんです。

寺田:あらゆる皮革製品があるなかで、角本さんがなぜベルトに絞り込んだのかが疑問でした。その理由の一つが、自分のルーツ、高校生のときに作ったブレスレットだったのですね。

角本:靴や服、帽子も好きなものがあるなかで、ベルトだけ特別これっていうブランドやものがなかったんですよね。ベルト以外のものは自分が作るよりも良いものを知っていたんです。
ベルトを選んだのは、このこともすごく大きかったと思います。
それと、自分のブランドをはじめた頃は、ホワイトハウスコックス(※1)とか、本当に数えるくらいしかベルトで有名なブランドってなかったんです。セレクトショップに行っても、ほとんどライセンスのものしかなくて。ライバルが少なかったというのも理由の一つでしたね。

道具でもあるベルトの魅力

SOAK IN WATERの代表アイテムの一つ、NAVEL(ネーブル)ベルト

角本:ベルトって、その人の生き様がそこに詰め込まれてる魅力があると思うんです
自分の周りにいたおしゃれな先輩達って、みんな大切な一本のベルトを持っていて。そうそう買い換えるものでもないし、一回身につけたら長く愛用している人が多かった。おしゃれな人だったら靴は何足も持っているけれど、ベルトはそういうことじゃなかったんです。
その人たちも大切なベルトは買った時期を覚えていて、どういう道を一緒に歩んできたかってことを大切にしていました。
そういうことにも魅力を感じられて、自分が作ったベルトがそんな存在になってくれたら嬉しいなという気持ちがありましたね。

寺田:確かに、ベルトって壊れない限り、そんなに買い足しはしないですよね。
黒と茶色が一本ずつあれば、まずはOKですし、ドレスカジュアル含めて3〜4本持っていれば多い方かなって思います。

角本:ちょっと余談なんですけど、仲の良い友達の子供が中学生になったときに、僕からベルトをプレゼントさせてもらったんです。
ランドセル以外で学生のときに出会う革製品って、最初はベルトだと思うんです。そこで出会ったベルトが良い革で作られていたら、その先で興味を持ってもらえるんじゃないかと思って、プレゼントをしています。
ネーブルベルト(※2)は穴の位置だけを先に調整すれば、身体が成長しても長く使ってもらえる仕様なんです。成長することで穴の位置が変わっていって、その子の成長が見えるのも良いところだと思っています。
そんなことを説明しながらベルトをプレゼントさせてもらったら、ファッションに目覚めて、お父さんと洋服を買いに行くようになったと、あとで教えてもらいました。
他にも、お父さんが還暦になったときに赤のベルトを選んでプレゼントされたんですよね。裏に家族みんなの手書きのメッセージをマジックで書いて渡したら、ジーンズに巻いてずっと使ってくれているみたいで。
ただ単にプレゼントするのではなくて、そこに何か一つ付け加えたりっていうお手伝いをできるのは、ベルトならではなのかなと思います。

寺田:一本のベルトでも長く使える仕様っていうのは、すごく良いですね。靴は成長したら履けなくなってしまうし、デザインの趣味も変わってきてしまうかもしれないけれど、シンプルなベルトだったら長く使えますし。
サイズの問題も穴の位置でクリアしていけるなら、最初に手にする質が良い革製品として、一番向いているのはベルトなのかもしれないですね。

角本:使っていくうちにボロボロになるかもしれないけれど、それに耐えうる素材も選んでやっていますしね。何かあったときは、それに応じた修理もご提案していますので。

寺田:ベルトが良いのはバックルが生きてさえいれば、本体を作り直して、また使えるってことですよね。これはベルトならではの魅力じゃないかと思います。

角本:そんなことで言えば、これなんですけどね。元々はこんな風にちぎれてしまっていたんですよ。

使い込まれ、ちぎれてしまったベルト

角本:僕が以前のアトリエにいたとき、お客様から突然電話がかかってきたんです。広島から来たという方で、ベルトの修理をお願いしたくて電話かけたんですと言われて。
アトリエは店舗としてお客様をお迎えする場所ではなかったのですが、切羽詰まった感じがしたので、お話を伺うだけでも良ければとお招きしたんです。
そのとき見せていただいたのが、バックルが付いた状態のこの革でした。
親の形見のベルトを、ご自身で使っていたそうなんです。でも、ベルト本体が劣化して、ちぎれてしまった。そこでバックルを生かして、革だけ作り替えてもらえないかという依頼だったんです。
その話を聞いて、これを見せられたらね…
「僕でよかったら作らせてもらいます」って数日お時間をいただいて、また出張で神戸に来られた際に修理したものをお渡ししました。
そのときに、「古い革は処分してください」って言われたんですけど、そう簡単に捨てられないなって思って。ここまで使ってもらえた革ってすごいじゃないですか。それで、その方にお願いして譲ってもらったんです。
ベルトってファッションアイテムでもあり、自分の道具でもある、独特なものなんだって実感できた、とても印象的な出来事でしたね。
今、僕が作っているベルトはすごく丈夫な革を使っているけれど、でも、こういう風になるくらいまで使ってもらえるような物作りをやっていきたいとあらためて思いました。

寺田:それは良い話ですね。その方が、角本さんを見つけて、こうして依頼ができたのはすごい幸運だったんじゃないかと思います。
バックルに合わせてベルトを作るって、構造上はできることですけれど、やっぱり角本さんのようにベルト専業でないとできない提案があるはずですから。

角本:実際、お客様はどこに持っていけば良いかわからないですよね。たとえばこれがエルメスのものだったら、エルメスに行ってくださいってなるんですけど(笑)。
どんなことでも対応できるわけではないですけれど、お互いが納得できる方法が見つかるなら、こういった依頼はこれからも受けていきたいですね。
その窓口に会話とオーダーメイドがなれば、他の人にはできない接客や提案ができるんじゃないかと思うんです。

角本:この話は自分が作ったベルトの修理ではなかったんですけれど、修理でベルトが帰ってくるって、実はすごく大切なことで。
ベルトの使い方って人によってこんなに違うんだと気づかせてくれますし、修理で帰ってくることで自分の物作りを見直せるんです。

寺田:修理で帰ってきてくれることは、作り手として嬉しいのはもちろんですが、次の物作りにつなげる大切なプロセスですよね。

角本:ちょっと前のイベントで、僕が10年前に作ったベルトをボロボロになるまで使ってくれたお客様が、新しいものを買ってくれたんです。
そのときは、お客様の「買い換えたい」の声に応えることができて、本当に良かったなと思いました。
これって、一度作ったベルトを修理で長く使えるようにするのと同じくらい大切にしていることなんです。
僕のベルトを買ってくれた方が、同じものが欲しいってなったとき、また買えるような状況を作っていたい。それに、ただ単に同じものを提供するんじゃなくて、10年前より自分の技術をアップしておきたい。
そのためにも、まずは作り続けることが何よりも大切だと思っています。

#8に続きます

※1 ホワイトハウスコックス…イギリスの皮革製品メーカー
※2 ネーブルベルト…バックルとベルト本体が独立した、角本さんが手がけるベルト

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