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#8 会話とオーダーメイドを巡る旅〜SOAK IN WATER 角本惣次さんを訪ねて〜第三回


職人だからできること、伝えられること

角本:SOAK IN WATERは店舗を持たず、卸やイベント、オンラインでの販売をしています。
この数年は、コロナ禍を経て、お客様の物の買い方が変わってきている実感がありました。
外に販売に出る機会を増やそうと考えていたタイミングで、holo shirts.の窪田さん(会話とオーダーメイドの主催者)と出会いました。

寺田:窪田さんとの出会いは、そのタイミングだったのですね。

角本:窪田さんとの出会いは、私もポップアップでお世話になっている大阪のストラクトさん(※1)でした。holo shirts.さんがイベントをされているときに、シャツをオーダーしに行ったんです。
その出会いをきっかけに、徐々に自分自身をもっと前に出していくことを考えるようなりましたね。
僕から買いたいって思ってもらえるような物作りとか、そういうものを自分から見せていけたらなって思ってるんです。

寺田:職人、作り手だからこそ伝えられることって必ずありますよね。
少し話が変わるのですが、ここ数年、革を中心とした資材が高騰していますよね?
皮革製品の価格設定は難しい局面にあると思っていて、角本さんはその点についてどう考えていらっしゃいますか?

角本:物の価格って、その時代や世の中の相場感があって、それに当てはまるように、素材とか作りとか値段とか、色々設定してやるんですよね。でも、それだけだとどうしても無理が生じてきてしまうところがあって。
それなら単純に、自分がこれを作って売ることで、安定して続けられるにはどうすれば良いんだろう?って今は考えています。
ジワジワ物価が上がっていく、だけど賃金はなかなか上がらない…この状況で、どこが適正なのかって言われたら、これは本当に難しい。
喋ってて迷いもあるんですけど、でもやっぱり、自分が作り続けるためにはどうしたら良いかを一番に考えないといけない。
値付けの考え方に対する答えにはなっていないかもしれないですが、これから先、この世界で仕事をやりたいっていう人のためにも、安い仕事じゃなくて、しっかりと売っていける仕組みを作ることが大事なんじゃないかなって思います。

寺田:そのためにも、外に販売に出る機会を増やしていくということなんでしょうか?

角本:表立って自分で作った物をいいもんですよって売るのは、正直、照れくさいところはあるんです。
でも、営業をしてくれている人からは、「角本さんは服が好きなんだから、そういうのをもっと押し出してみたらどう?どんな人が作っているかに対してお客様が興味を示している時代だし、やっぱり前に出るべきだよ」と言われていて、それにはすごく納得しています。
ここは店舗じゃないので、まずは外でのイベントを定期的にやっていくつもりです。
例えばストラクトさんだったら、オーナーさんが気に入ってくれていて、うちのベルトのファンでもいてくれている。そういう信頼関係があるお店で、お客様に伝えることができたら良いなって思います。
ストラクトさんでは、イベントで行く度にベルトを買ってくださる方がいて、大体の方がリピーターさんなんです。そうすると「以前はこちらを買ってくれたので、今回はこれでどうですか」といったやりとりができて、すごくありがたいです。
これなら、お店も売り上げが入って嬉しいし、お客様も喜べるし、使ってくれているお客様が帰ってきてくれて僕も嬉しい。そんな関係を築いていけるのが一番なんですよね。

寺田:自分で販売していくことで、自分自身の商品も考え方もダイレクトに伝えられる。大切なことですよね。

角本:僕が直接お会いして接客できれば、ベルトのちょっとした使い方とかも伝えられますしね。
「端っこが出てるのを、ちょっとしまってもらった方がかっこいいですよ」なんてことを伝えられるだけでも、お客様にとっては違うはずですから。
お客様に会えれば、その人がどういうスタイルで普段生活しているのかを聞きながら提案もできますし、その日に着ている服のデザインや色味でアドバイスできることもありますし。
この前の会話とオーダーメイドで、隣で出展してたtel you(テルユウ)さんの帽子の接客を、ちょっと手伝わせてもらったことが面白かったんですよね。まだこの感じだったら、僕も売れるなっていうような感触もあって。僕は接客が好きなんだなってことを、再認識できました。
でも、自分のものをおすすめする照れくささは、やっぱりあるんですよね。これはもう性格上、変わらないというか…
寺田さんの靴は村橋さん(※2)に作ってもらっているものなので、そこは村橋さんの技術力を自信を持ってお伝えできるとは思うんですけど。

寺田:確かに、僕はメンバーの中では唯一自分で作っていないんですよね。
角本さんのおっしゃる通りで、自分のブランドの靴は自信を持っておすすめできます。それは、自分で作っていないゆえの気持ちの部分もあるかもしれないですが、今まで履いてきた革靴のなかで、この靴が間違いなく良いプロダクトだと確信していることが大きいと思います。
その良さを、自分の経験を交えながらお客様に伝えることが、僕の接客スタイルであり、やるべきことなんじゃないかと。
角本さんはお客様との接し方、関わり方のスタイルや理想はありますか?

角本:お客様に限らず、色々な人との接し方での話にはなるのですが、自分が知っている、何かいいなと思うものを知ってもらいたいというのはありますね。自分が一回学んだことはオープンにした上で、新たに自分に必要なものを取り入れていくというか…
僕もこの世界に長くいるので、上の人からいただいてきたことを、また新たな世代に受け渡しをしていく年齢に自分もなったんだなと感じているんです。
これからも長く続けていくために、色々な世代の方と交流しながら、新たに成長していきたいなと思っています。

角本さんならではのベルト作り

寺田:ベルトって、財布やカバンに比べるとすごく制限があって、基本形はもう完成されているアイテムですよね。その制限の中で、角本さんならではのベルト作りであったり、大事にしてるポイントはありますか?
純粋にクラフトマンとして作り手として、道具としてのベルトの本質を押さえながら、その中でも出せる個性というのはあるのでしょうか?

角本:まず大事にしてることは、とにかく長く使ってもらえることです。
そのときは感じなくても、何年間か使ったときに「コレはなんかしっくりくる」「何か今までのものとは違う」と思ってもらえるように。
そのためにも、素材選びはすごく吟味しています。
時間が経ったときに、その革がかっこいい育ち方をしていることを想定すると、素材の選定はすごく重要なんです。
新品の状態が一番かっこいいっていうのは、革製品としては物足りないなと思うところがあって。
靴でもそうじゃないですか。履きジワが入って、エイジングされてはじめて、その人の一足になるというか。そういう変化があるのが、良い革だと思いますし、僕が作るベルトにはそういう革を選びたいんです。

寺田:ベルトって、あらゆる皮革製品のなかでも素材の締めるウェイトが大きいですよね。シンプルな構造だけに素材の質感がダイレクトに反映されるというか。

角本:あとは色を選んだり、自分のサイズを知って、ベルトをオーダーする楽しみを知ってもらうことでしょうか。人それぞれの個性も、そういうところで出せるのかなと思っているので。

#9に続きます

※1 ストラクト:大阪のセレクトショップ。スニーカーブランド「blueover」の旗艦店
※2 村橋さん:delightful toolの靴を製作している神戸の職人

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