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#9 会話とオーダーメイドを巡る旅〜SOAK IN WATER 角本惣次さんを訪ねて〜第四回


作り続けることの大切さ

小さなパーツを繋ぎ合わせたFUN BELT(ファンベルト)
色の組み合わせを考えるのも楽しい

角本:自分のルーツ、ここまでのことを振り返ってみると、いろんな仕事で出会った人たちに助けられながら今があるなと痛感します。
物作りは、特別誰かについて教わったことはないんですけれど、尊敬している職人さんがいるんです。
私よりもひとまわり年上の方で、「こんな材料あるんやぞ」「こんな機械があるんやぞ」っていうことを教えてもらって、色々と勉強させてもらいました。
会社を辞めたタイミングでご挨拶に伺ったときも、何でも聞きにおいでと、温かく迎え入れてくれました。今も交流があって、何か困ったときには相談させてもらっているんです。
その人はオリジナルブランドはやっていないのですが、物作りへのこだわりやスタンスは、背中を見て教えられたことが多くあります。
僕もどこかでそんな存在になれたらなって思うところもあるんです。

寺田:直接の師弟ではなくとも、とても良い関係性を築かれてきたことが伺えます。何か困ったとき、同じ業界で相談できる先輩がいるというのは心強いですね。

角本:誰かに背中を見せるためには、まずは、物作りを続けていかないといけないですよね。
周りで仕事を辞めざるを得なかった仲間を見てくると、続けるって簡単そうでいて本当に難しいなって思います…嫌でも年は取っていきますし(笑)。
自分が生きている限りは、このベルトが欲しいという声に、ちゃんと応えられる状況でありたいです。

寺田:物作りを続けていく上で、角本さんのこれからのベルト作りはどんなものになっていくのでしょうか?これまでのベルト作りのことも合わせて、お聞きできればと思うのですが。

角本:ベルトという限られたアイテムであっても、これだけ選択肢を持ててきたことは良かったなと思っています。
ブーツに合わせるにはタフな革がいい、普段使いにはこういう革がいいとか、遊び心があるものだったらファンベルトとか…
さらにこの先どういうものを作りたいかとなると、新たな材料との出会いで作りたい形も生まれてくるのかなと思うんです。
少なからずベルトって、ベルトループができてからの歴史しかないものなんですよね。プロダクトとしての正解はほぼ出ているので、その中で遊び心を入れながら形にするっていうのは、限られていることだと思うんです。
作るものはベーシックで、その中にちょっと個性が出てくるくらいが良い。そのちょっとの部分を、自分にも刺激を与えながら探し続けていきたいですね。

OEMから見えてくること

寺田:角本さんはご自身のブランドだけではなく、OEMのお仕事もされていますよね。そういったお仕事は、SOAK IN WATERの物作りとは違う面白さがあったりするのでしょうか?

角本:OEMについては、他社の製品を作るお手伝いをすることで、自分のものづくりを見つめ直すことに繋がっています。
他の作り手さんとの話し合いから、その製品が更に良くなるにはどうしたらいいのかなど、ディスカッションをできることが自分のブランドにはない面白さですね。
自分のブランド以外のものでチャレンジできるとか、刺激を与えてもらえるものに携われることは、職人冥利に尽きます。

寺田:少し話が逸れてしまうかもしれないのですが、角本さんとお話していると「自分がお手伝いできることがあれば、何かやりますよ」といったエピソードがよく出てきますよね?
今のOEMのお仕事の話題でも「他社の製品を作るお手伝い」とおっしゃっていましたし、個人的にはすごく気になるのですが…

角本:たぶん、おせっかいなのと、そんな会話の中で生み出される何かに期待してるのかもしれないです。
会社にいたとき、運送会社のスタッフさんが1人で大変そうに荷物を運んでいるから手伝いに行ったんです。そうしたら、「でもそれ、その人の仕事やろ」みたいなことを周りに言われて。いや、でもな…自分ができることだったら手伝いますよって。そういう生き方はしてるかもしれないですね。

寺田:角本さんのお仕事って、要所要所でその生き方、良い意味でのおせっかいが効いている気がします。

角本:それは僕の人柄なのかな(笑)。自分で言うのも変ですけれど。
どこかで人に好かれたい嫌われたくないというのがあって、そこにプラスして、自分がすることで人を喜ばせたいんだと思います。
以前、駅の階段を大きな荷物持っているご年配の方がいて、足が悪いからというので色々と手伝ったんです。そうしたら「ちょっとお兄ちゃん!これでジュースでも飲んで!」ってお礼を言われて。もちろんお断りしたのですが、ありがたく頂戴して、ジュースって言われたからジュースを買って(笑)。
買ったジュースの写真を撮って、ちょうどストラクトのイベントの帰りだったから、ストラクトの人に今日こういうことありましたっていう報告をした…なんてことがあったんですよね。
自分にできることだったらしてあげたいなというのは、どこかでサービス精神を持ち合わせてるのかもしれないです。それで喜んでくれて、その人がハッピーになってくれたら嬉しいなっていうのはありますね。

寺田:ここまでお話してきたなかで、角本さんの仕事の核みたいなところに「自分がお手伝いできることがあれば、やりますよ」がある気がしたので。それで思わず聞いてしまいました(笑)。

角本:ちょっと寄り添うとか、むげに断れないっていうのはあると思います。
それが荷に負えないようなことだったら断るかもしれないですけど、別にやれないことはないかと思うと、やってしまうんですよね。
こういう流れで仕事になると、値段が付けづらかったりすることもあって、なかなか難しいところもあるんですけれど…とはいえ、こういうのも1回やった上で、次に基準が生まれると思うんですよね。
まずやってみるっていうのは、こういう意味もあるんじゃないかと。

寺田:先ほどもお話しましたが、やっぱり値付けって難しいですよね。

角本:本当、物の値段付けるのは難しいなと思います。
靴だって何十万って額だけ聞いたら高いけれど、それにまつわる工程を考えたら決して高くはないじゃないですか。一つ一つの工程を追っていけば、妥当だなっていう世界なんですけれどね。
高額であっても手間暇をかけたものをきっかけに、その人がどう大切に使えるかとか、そういうことにかかってるのかなと思うんです。
SDGsとかいろいろ言われる中でも買う人は買うし、買わない人は買わない。でも最低限消費はしてもらわないと、食いっぱぐれちゃうところでもありますよね。靴だったら二足目三足目を買ってもらえるように、シャツなら着古したら次の一着にってなってくれないと。
こういう話をしていると、やっぱり靴やシャツは主役になれるんですけど、ベルトは本当に脇役だなと思いますね(笑)。僕が目指すのは最高の脇役で、最優秀助演賞もらえるような、そういう心意気で物作りを続けてます

寺田:ベルトを専業にしている角本さんならではの視点ですね。

角本:本当に主役にはならないですよ(笑)。なくてもなんとかなりますし、シャツの裾出してたらベルトは隠れるわけですから。
でも、本当に見えていないからこそ、その人のこだわりが反映されるのがベルトだと思うんです。ベルトは革製品のなかでは頻繁にお手入れする必要もないものなので、とにかく使ってもらいたいですね。
僕の場合は、それである程度稼いだお金で好きな服を買って、靴を買って。そうやって生きていけたらいいなと思っています。服とか靴が好きすぎるのは困ったもんだなと思いますけど、こういう気持ち、買いたい欲求があるから、この仕事も励みになるんだと思うんです。
これから先も、ベルトだけに、細く長くこの仕事を続けていきたいです(笑)。

編集後記

「自分がお手伝いできることがあれば、やりますよ」
角本さんが誰かにこうしたお声かけをしている場面は、本当によく目にします。僕自身も、何度もそんな風に声をかけていただいたことがあります。
角本さんがベルトというアイテムを選んでここまで歩んでこられたのは、「お手伝いしますよ」の精神があったからこそなんじゃないかと、このインタビューを通じて思いました。
主役にはなれないけれど、その人のファッションを脇役として支える。
その人の暮らしを、腰に巻く道具として支える。
ベルトの存在そのものが、この角本さんの精神と重なるように、僕には見えたのです。
もちろん、角本さんの経験、技術、素材を見極める目は確かなものです。
その職人としての実力に、この精神から生まれた機能やサービスが合わさっていることが、SOAK IN WATERのベルトの魅力なのではないでしょうか?

余談ではありますが、この記事を書き上げたとき、ベルトループのないイージーパンツばかりが増えている自分をちょっと後ろめたく思いました…
「角本さんのベルトをするために、ベルトループのあるパンツを買おう」となったら、もはや主役はベルトですね。
角本さんとの会話、角本さんが作るベルトには、こんな逆転さえ起こる力があると思います。
「最近ベルトは使っていないんだよね」という方も、次回の会話とオーダーメイドでは、ぜひ角本さんとお話してみてくださいね。こんな逆転劇が起こることを、楽しみにしています。

心温まるサポート、もしいただけたらイベントでご来場者に配布する印刷物の充実や、出展者に美味しいものを差し入れしたいと思います。