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♯4 会話とオーダーメイドを巡る旅〜short finger 渡部まみさんを訪ねて〜 第三回

変わったこと、変わらなかったこと

寺田:ニット帽を編み始めた頃と、イベントに出るようになってからは、作っているニット帽は少しずつ変わってきましたか?

渡部:変わってきましたね。初めの頃って、もう可愛ければ良いで、糸にこだわってなかったんですよ。とにかく、この色が良いとか、そんな感じで糸を選んでいました。それって、バッグのときの考え方なんですね。バッグの場合は、どんな資材でも形にするだけで良かった。肌に直接触れるものでないから、可愛ければ良い、だけで編んでいても問題がなかったんです。でも、ニット帽だとそうはいかないくて。
ニット帽を作り続けていると、みんなチクチクは苦手なんだってわかってきたんです。それから、チクチクしない素材っていうのを探し始めました。今はもう、全部チクチクしない素材になったので、実際に変わっていますよね。
男性のお客様が増えたのは、大きかったと思います。女性は可愛ければ我慢できるし、チクチクも強い人が多いんですよね。前髪があるから。でも、男性とお子さんは本当にチクチクがダメな人が多いんです。
「チクチクだめなんですよ」っていう声をすごく聞くようになって、それで糸の選び方が変わってきましたね。

寺田:お客様と直接やりとりをして、声を聞いていくなかで使う素材が変わっていったのですね。
素材以外の部分、編み地や柄などは、ニット帽を作り始めてから今ままで、それほど変わってはいないんでしょうか?

渡部:そこは変わっていないですね。基本的に好きなものが固定されちゃってるんです。選ぶ柄も結局、アパレルにいた頃と変わらないんですよね。昔から手元にある資料とかもずっと使い続けているし、新しい編み地集の本を買っても、結局選んでいる柄は「これ、昔も使ったよね」っていうものだったりするんです。
そこは、やっぱり好きなものがあるんだと思います。基本的に野暮ったくはなりたくないっていうのがありますね。
手編みっていうと、素朴で可愛らしい、おばあちゃんの手編みのようなイメージがありませんか?私はアパレル出身だからなのか、手編みであっても普通にお店で買ったように見えるものが良いんですよね。「お店で買ったものと違わないよね」って感じでお客様に被ってもらえるものが好きなんです。
だからきっと、そういうシュッとした顔になるものを探している感じがします。それはきっと昔から変わらなくて。バッグもそうだったんです。結局、手編みのカゴバッグって、クラフト感の強い素朴なイメージのものになっちゃう。でも、できれば丸の内のOLさんに持ってもらえるものが良いなって。そういう人が持ちたいと思えるような、アッシュ・ペー・フランス(※フランスを中心とした世界各地からアクセサリーや衣類を輸入販売する企業およびショップ)に行ったら売っているような。そういうものを目指していたんですよね。
そのあたりはきっと、他の作家さんと違う部分だろうなって思っています。
たまたま、本の編集の方に見つけていただいて、「編み物の本に作品を出してください」って言われたときも、やっぱりそういうところが良かったみたいです。私の作るものが、ちょっと既製品っぽい顔をしている、野暮ったくないみたいなところですよね。「これ、あそこで売っていたよね」みたいな顔をしているもの、普段の洋服に持ちたいと思えるもの。そういうものを作るのが得意。それが私の特徴なんだと思います。
人それぞれ、作り方の特徴ってあるじゃないですか?私の場合は、既製品っぽく仕上がる。そこが手癖というのかな…なにかあるんだと思います。

寺田:既製品っぽく仕上がるというのは、渡部さんが選ぶデザインや編み地だけではなくて、編み方の癖みたいなところもあるのでしょうか?

渡部:そういった癖もあると思います。私は型崩れするのが嫌だから、ギチギチに編むんですよね。あとは、アパレル出身ゆえのものなのかな。
アパレルのニットデザインと手芸の手編みって結構かけはなれていて、まるっきり違う分野なんですよ。こっちをやる人はこっちができないって感じで、完全に分かれちゃっているんですけど、私の場合は、そこが良い感じに作用しているんだと思います。
アパレルのときに叩き込まれた、人が身につけるものはこうしないと着やすくないとか、こうあるべきとか。その感覚が染み付いているから、手編みでものを作っても自然とそれを目指すんですよね。工場が上げてきたようなものを目指す感じです。
きっと手編みから始めた人は、編みたいという気持ちが先にあると思うんです。
私の場合は、人に着てもらうのが先という流れのなかで、ずっと勉強して、ものを作ってきたから、そういう風なものができあがる。手芸の編み物との違いはそこなんだろうなって思いますね。

プロダクトを作るように

寺田:「既製品っぽく見える」とは表現の仕方が少し違うのですが、そういった点は僕も直感的に大切にしています。僕の場合は、「ハンドメイドなんだけどプロダクトっぽさを大切にしている」みたいな感じです。そういうところって、実は会話とオーダーメイドの出展者の隠れた共通点なんじゃないかなって、思っているんです。

渡部:確かにそうかもしれないですね。

寺田:みなさんが作られているものって、手作りの温度感を残しながらも、整然とした美しさがある点が共通しているなって。

渡部:甘えがないですよね。

寺田:みなさんの作品は、プロダクトっぽさを必ず持っていると思うんです。逆に言うと、プロダクトの要素が強いsimple wood productの木工品や、1012TERRAのガラス什器は、そのなかに作り手の個性や温度感を必ず含んでいるというか。その二つの要素の綱引きのなかの、絶妙なバランスで成立しているものが多いのかなって思っていたんです。

渡部:実は私、プロダクトが好きなんですよね。工場とかすごい好きだし、工業製品の機能性とかも好きで。うちの主人もそうだけど、プロダクトっぽいものに惹かれるんですよね。ロングライフデザイン、ああいうものに安心感を覚えてしまう。ずっと愛されているんだからそうだよね、みたいなところ。そういうのが、ものの完成形じゃないですか。

寺田:そうですね。ものとしての普遍性みたいなところですよね。

渡部:そういうものが好きだから、私も自然と目指しちゃうんだと思います。不思議ですよね。アヴァンギャルドが好きとか言いながら(笑)。
そう、プロダクトなんですよね。確かに会話とオーダーメイドって、全員の作品がキリッとした顔をしている。ゆるさとか甘さがないですよね。

寺田:それは捉え方とか状況によって、良くもあり悪くもありだと思うんですけど、クラフトっぽさみたいな匂いが比較的うすいかなっていう印象はありますよね。

渡部:だから逆にクラフトを押し出している場所に出ると負けちゃうんですよね。「普通じゃん」って思われてしまって。でも、どっちが長く飽きずに使えるってなると、私はプロダクトっぽい方が長く飽きずに使えると思っちゃうんですよね。

長く使うこと

寺田:さきほどのカバンの話にも出てきましたけれど、長く使ってもらえるものというのは、渡部さんにとって一つの大事なことなんですね。

渡部:それは大事な部分ですね。もともと私って、めったに物を買わないんですよ。必要な材料とか食品とかは買うけど、自分の洋服とかは必要に迫られないと買わないんですね。一回買ったら何年でも着る。だから、気に入ったものはずっと着倒す、破れたら直して着るみたいな感覚が強いのかもしれません。

寺田:それは昔からですか?

渡部:昔からですね。20代の頃から。
気に入ったものは一瞬で買うんです。今日は、これを買いに行くって決める。買うのは本当に早いんですよ。でも、そこから2年とか買わないんです。不思議だけど、自分のなかで何かあるんでしょうね。
いつも物が欲しいって思っている人もいるじゃないですか?いつも違うものを着たいとか。そういう人がいないと、世の中が回らないからいけないんだけど、私はそのタイプじゃなかった。本当に気に入ったものをずっと着たいと思ってしまうんです。
そういう付き合い方をしてきたから、自分の作ったものは責任を持って直しながら、長く使っていたいと自然になったのだと思います。

渡部:毎年5月末にセーターの受注会があるので、去年買ってくださった方にご連絡をするんです。「今年も始まります。見てくださいね」って。そのとき、一番最後に「去年のセーターどうですか?穴とか空いていたら送ってくださいね」と書くと、何人かは送ってくださるんですよ。ひっかけちゃったり虫食いなどで穴が空いているものを直したら、また次の年も着られるでしょう?
5、6年経って送ってくださる方もいるので、「直せます」ということをきちんと伝えながら、自分のところで直して、長く使ってもらえたら良いなっていうのはありますね。

今は、ニット帽だって3,900円くらいで売っている。そんな時代に、私のニット帽はカシミヤで18,000円もするので、それをわざわざ買ってくださる。そう思ったら、ずっと長く被れなかったら、お客様に申し訳ないじゃないですか。
だから、「ずっといつまでも、永久にメンテナンスしますから」とお伝えしているんです。そうするとお客様も大丈夫って安心して被れるし、大事にしてくださる。そうすれば、「あのときは高いと思ったけど、やっぱり良かったかも」っていつか思ってもらえる。安いものじゃないですもんね。

寺田:そうなんですよね。それってすごく大事なところですよね。

渡部:寺田さんの靴も、そうやって直しながら長く履けるようにしていますもんね。

寺田:やっぱり、長く使ってもらいたいですよね。オーダーして良かったってあらためて思ったときに、それが修理できる。また同じような靴が欲しいと思ったときに、それがきちんと手に入るっていうのはすごく大事にしています。

渡部:そうそう。同じものが手に入るっていうのはすごく大事ですよね。

寺田:それって地続きだと思うんですよね。修理して長く使えることと。

渡部:確かにそうですよね。

寺田:気に入って、良いなって思った頃にはそれがダメになってきている。それで直せたら良いけれど、直せないうえに同じものを買おうとしても無い。そこで、また新しいものから探し直す。こういうことが、今の流通の仕方だとどうしても起こっちゃいますよね。

渡部:そうですよね。若いときは、すぐ新しいものに切り替えられたけれど、30歳頃を過ぎると、それが嫌になっちゃって。「いつも同じの置いておいてよ!」って思っちゃうんですよね。人によってはあまり思わないのかもしれないけれど、私は結構そう思っちゃうタイプで(笑)。私の場合は、いつも同じで良いんです。「色違い、素材違いで毎年作って!」って思ってしまう。だけど、レディスアパレルは毎年変わっちゃうんですよね。
私はそれが嫌だったから、ウチのCA&Co.(シーエーアンドコー ※渡部さんが手がけるカシミヤブランド)は全部定番!新しくできたものは次の年には定番になっている。だから、どんどん増えていっちゃうんですよね。
でもやっぱり「以前買ったあれがダメになったから、今年もありますか?」ってなったときに、「ありますよ」って答えたい。そうすればお客様に安心していただけるから。
こういったことは、大きなところだとなかなかできないことなんだろうなと思います。

私のニットは、自分で作っているから直せるんですよね。
自分で作っているんだったら、同じ糸も生地も全部あるんだから、直せなきゃダメだよなって思っちゃうんです。
こうださんのバッグなんて15年くらい使える丈夫さですしね。使い込んで、どんどん自分のものになっていく感じが嬉しいんだろうなって想像できますよね。もう買ってから10数年経ったバッグを「こんな風になりましたよ」って持って来る方もいるみたいで。
それって、とても素敵ですよね。それだけ長く使えるんだから。

手仕事のルーツ

渡部:いろんな人がいるのに、なんで自分がこういう風に考える人間になっているかって、すごく不思議ですよね。誰に言われたわけでもないのに、結局そういう道を選んで、そういうことをしていて。すごい不思議。

寺田:今、お話していると、長く使えた方が良いよねとか、直せた方が良いよねとか。共感するポイントが同じようにあるんですけど、僕と渡部さんでは、自分の仕事として選んでいるアイテムが違いますよね。そうことを紐解いていくと、子供の頃の体験とか、親の職業だったりとか、いろんなものが繋がって、ご自身なりの一つの世界観になっていくのかなって思います。面白いですよね。

渡部:そう考えると、うちの家系ってサラリーマンが父しかいなくて。その父も早めに会社を辞めて、庭師になったんですよね。だから、皆、自分で仕事をしている人ばっかりで。
父の家は元々左官職人の家系で、今も父の実家では左官職人をやっているんです。母方のおじいちゃんは、木工の作家さんをしていて、子供のおもちゃを作ったりしています。
手仕事をする人が多い家系だったんですね。そういうのできっと、なんだかんだで、私にもその血が入っているのかもしれない。
ウチの弟は、「たまにじいちゃんが降りてくる」って言ってた(笑)。父方のおじいちゃんが、左官職人で鏝絵(こてえ)っていう針金を土台にした作品で、龍とかを描くんですよ。結構すごいものが残っていて。その血があるからか、たまに無心になっているときに、「おじいちゃんが降りてきているときがあるんだよね」って弟は言うんです。
ウチは代々、そういう「手の家系」なんだと思う。母もすごく縫うのが速いしね(笑)。
元々サラリーマン家庭で母親も父親も外で働いている人だったりすると、親の仕事も見えないし、そういうことを自然に学ぶ場がないけれど、私は自分の母親が服を作るのを見ていて。そういうことが、なんだか当たり前だったのかもしれないですね。
父は父で、サラリーマン時代から趣味で庭を作っていたんですよ。
実家の庭には池があったんだけど、それがすごく浅くて。庭師に作ってもらったはずなのに、鯉が大きくなったら、お腹がついて背中が出てきちゃう(笑)。それで弟と二人で池を掘って、1メートルくらいの深さにしたんです。
色々と調べて、全部セメントを貼って、水もいつも循環するようにして、ずっと綺麗な透き通った水になるようにしちゃった。
トライアル&エラーをしながら取り組む父の姿にも、影響を受けていると思いますね。何かあったら自分で調べて直すみたいな。

寺田:元々、ご家庭のなかに、自分の手を動かすということが自然とあったんですね。

渡部:子供の頃から日曜日の遊びは、川に石を拾いに行くのと、庭に置く大きい石を見に行くこと。それから、植木屋さんに行って、ホームセンターとラーメン屋。これが日曜日の過ごし方のセットだったんですよ。だからきっと、そういうものに興味がいく素地みたいなものはあったのかもしれない。プロダクトが好きなのも、そういうことが影響しているのかなって思うし。
ネジ売場とか、最高に上がりますよね(笑)。よくわかんないけど、何このネジって。

ところで、寺田さんはどういうご家庭でした?

寺田:母親は専業主婦で、父親は臨床医です。でも、勤務医なので言ってみれば会社員ですよね。

渡部:まだ現役で、お仕事をされているんですか?

寺田:現役ですね。職場自体は変わっても、ずっと患者さんを診続けています。
趣味だったと思うのですが、昔から何か描いたり、物を作ったりはしていましたね。
家にある道具やおもちゃのなかには、父親が作ったものもありました。

渡部:それじゃあ、寺田さんへの影響もありそうですね。

寺田:少なからずあると思います。

渡部:子供がいたら、そういう風に、日頃から親の何か作っている姿は見せた方が良いなって思いますよね。子供は勝手に見ているし、覚えていくものだから。
なんでファッションの方に進んだのか、本当に不思議に思っているんだけど、結局は母の影響なんだろうな。

寺田:こうやってお話を聞いてみると、子供の頃から積み重なってきたものが、渡部さんの今のお仕事につながっているんだなって思います。

#5に続きます

心温まるサポート、もしいただけたらイベントでご来場者に配布する印刷物の充実や、出展者に美味しいものを差し入れしたいと思います。