アイドルオタクヒストリーアーカイヴ - もふこ

──まず自己紹介をお願いします。

 もふこです。……自己紹介?

──どこの現場に行ってるかとか。

 今はヤなことそっとミュートに行ってます。間宮まにさんが好きです。

──今何歳か訊いてもいいですか?

 二三歳です。

──アイドルオタクになるまで、趣味はありましたか?

 無趣味でした。好きな俳優さんとかもいないし。Perfumeの『GAME』は小学生の頃にもらって好きでしたけど、アイドルという認識じゃありませんでした。お父さんが坂本龍一や山下達郎のファンだったので野外フェスに連れていかれたり、日曜は「サンデーソングブック」を聴いてたりしましたね。CDが山積みの家でした。

──簡単に今までのオタク歴を聞いてもいいですか。いつ頃、何から始まった……あなたのオタクはどこから?

 AKB48の時からです。私が中学一年生の時、『ポニーテールとシュシュ』や『ヘビーローテーション』のリリースで、本当に爆発的に売れだした年でした。たぶん当時はAKBを知らなかったんですけど、部活の先輩に「まゆ」という人がいて、「まゆゆ」って呼んでたんです。なんて呼びづらい名前なんだとか思ってたら、当時読んでいた『ニコラ』にAKBの特集が組まれていて、そこでなるほどこの人が「まゆゆ」なんだって知って。
 そのあと、Mステで初めて動いてるまゆゆを観て、「かわいい!」ってなってYouTubeで動画を見たり『AKBINGO』とか録画するようになって。

──めっちゃテレビ番組やってたもんね。

 動画投稿サイトも今よりゆるくて、そこで過去の『マジすか学園』見たりとかしてました。コンテンツがネットの海にたくさんあって、そこからハマってハマって。

──子供の頃ってお金が使えないから多分ありがたかったよね。ずっとまゆゆ推しだったの?

 そうです。挙動とか声とか顔も可愛くてズブズブと。でも、その時は「アイドル」ってよく分かってなかったんです。AKBが出るまでアイドル不毛の時代だったし、だから「アイドル」って概念を知った時に、「キラキラしてかわいい!」みたいになった。中三までまゆゆ大好きで、はじめて買ったCDも渡り廊下走り隊でした。総選挙もお金が使えないので、一票を大切に投じて。
 全握ではじめてまゆゆを見て、「なんてお顔が小さくて目が大きいんだろう」って。「応援してます!」くらいしか言えなかったんですけど、大満足でした。まゆゆが歌ってるのを初めてみたのは、ソロシングルの抽選イベントでした。さっき言った先輩と一緒に行きました。
 そして、その頃スマホに変えたこともあってTwitterをはじめて、趣味アカ作って、当時フォロワー三千人とかいたんですよ。

──めっちゃいた!人気ヲタじゃん。

 母数がエグいので。で、まゆゆはポムポムプリンが好きで、それをつぶやいたりすると、寺嶋由芙さんがいいねくれるんですよ。当時は「誰これ?」と思ってたんですけど。そういうことが他のアイドルからもあって「地下アイドル」を知るんです。それでAKB以外にもアイドルを知りたかった気持ちがあったので、秋葉原でビラを配ってたアイドルからチラシを貰ったんです。その子はいま区議会議員になってるんですけど……仮面女子の桜雪ちゃん。
 当時は仮面女子は専用劇場で完全フリーライブをしていたから、観に行ってみようと。ホームページで見たアリスプロジェクトのMVもすごいかっこよくて、エレクトロなダブステップみたいな? 自分の知ってるアイドルと違っていて衝撃でした。
 でも、当時は販促時期でCDを予約しないといけなかったので、わざわざ予約して行って。会場では「チェキ会はこの下の階でやります」とかアナウンスしていて「チェキって何?」とか思ったけど、適当についていったらお金のやり取りをしていて、当時はお小遣いがないから「ここはいちゃだめだ」と。今思えば、誰かに訊いたらお金くれた気がします(笑)
 また別にTwitterアカウントを作って情報収集し始めました。黒瀬サラちゃんが好きだったので、サラちゃん推しっぽい人をフォローして。一五歳の女の子が何か困ってたら、絶対手を差し伸べてくれるじゃないですか。

──するする。絶対チェキ券あげる。

 当時は普通に自腹でしたけど。それで初チェキ行って、すでにTwitterでリプ飛ばしてたから名前とかも分かってて。でも仮面女子って接触が秒なんですよ。ただ、向こうも若い女オタが来たから嬉しいようなリアクションで。あと当時は動画も毎日更新してて。しかも字幕付きとかちゃんとしてて。

──当時としてはかなり先鋭的な戦略だね。

 だから、「黒瀬サラ」でディグればディグるほど情報が出てきて、あとから自分の知らない生誕祭の映像とか見れたんです。それでも現場は半年開くとかザラで、細く長くオタクしてました。
 生誕委員もしてて、専用劇場がパセラのビルにあったので、そこに泊まり込みで横断幕作ったりとかしてました。あと、劇場は毎日やってるので「毎日界隈」とかいて。

──毎日界隈やばい。

 マジで沼だったんです。対バンもしないし。無銭から来た人を沼に棲息させるのがアリスなんです。いつでも行けば会えるって状態。……でも、地下の入りがアリスってあんまり言いたくないんですよ。

──正直偏見はある……ともかく、アイドルのベースがAKBで作られ、地下アイドルのベースがアリスで作られって感じだよね。

 地下現場でいうと、次は高二の時。また別のTwitterアカウントで、dropの滝口ひかりちゃんのグラビアか何かを見かけて「めっちゃかわいい!」ってなったんです。

──ピンチケ現場を経て来てるんだね。

 この時、ツインテで行くと無料ってイベントがあって。

──私も行った!

 ステラボールですよね!既にまたdrop用のアカウント作ってdropのオタクをフォローしてたりしたから、現場で滝口ひかりちゃんも私をTwitter認知してました。もう先にTwitter作ると勝てるのは学習してたので。そして、今までの数倍はある接触時間の長さに驚きました。それ以降は地上アイドルは応援して楽しんで、地下は接触で楽しむという棲み分けのオタクになりました。

──ヤナミューとの出会いは?

 コンカフェでバイトをしてたのですが、アイドル好きな子がいて、そこでヤなことそっとミュートを知ります。その子とお泊まりの時、BGMで「最近このアイドルがいいんだよ」って「Lily」を流してくれてMVも見せてくれて、とにかく曲がいいと。二〇一七年頃ですね。メンバー皆黒髪で、すごくナチュラルな女の子たちだなって。

──今までわりとデコラティヴなアイドルを見てきたもんね。

 そうですね。そしてサブスクでヤナミューの1stアルバム『Bubble』を聴きまくって、ライヴも行きたくなって、すでにヤナミューが好きになっていたオタ友達に「ライヴ連れてってください」って連絡して、月見ル君想フに行きました。今まで一番早い速度で現場デビューしました。フッ軽のほうが楽しいですよね。

──ヤナミューはTwitterによって近くに感じるよね

 特にまにちゃんは発信が得意だし、オタクを掴んで離さない感じ。そして元々宝塚を目指して頑張ってたから、裏付けのある表現力が素晴らしいです。ステージ上のまにちゃんと特典会のまにちゃんにギャップがあって、それもすごいです。オタクとの距離感の取り方もうまいし……たくさん読書したり、いろんな表現に触れてるから返し方もうまいし……とにかく賢い!センスと育ちがいい。めちゃくちゃバランスのいいアイドルが生まれたと思う。

──間宮は危うい部分も人間味があって魅力になってると思う……ところで、もふこちゃんはAKBカフェでもバイトしてたんですよね。

 そうですね。大学一年生の秋にAKBカフェのバイトに応募して、採用されました。中学生の頃に行ったことがあって、当時の日記にカフェのペーパータオルのロゴの部分をちぎって貼り付けたこととか、「カフェで働いてる女の子がかわいかった!私も働いてみたい」って書いてあって……

──かわいい……! 中学生の頃からあこがれたお店。

 高校生の時も調べたんですけど、高校生は働けなかったんです。あと、大学にはライトなAKBファンはいたんですけど、「あっちゃんかわいいよね」みたいな。でも、カフェっ娘はガチオタばっかりで……パウダールームとかCD山積みなんですよ。同世代の女の子でこんなにアイドル好きな子がいるんだって感動もありました。そして普通のバイト先ならありえない「推しメン誰ですか?」から会話がスタートするんです。お客さんにも誰が誰の推しか話も広まってるから「〇〇ちゃんも〇〇推しだから話すといいよ」とか言われたりして。
 同世代の間でAKBだけじゃなく、他のアイドルやK-POPまで共通の話題で盛り上がれる地上アイドルのコミュニティがあるんだっていう経験にもなったし、学校みたいでした。就職とかで退職する時「〇〇卒業公演!」とかシフト表に書いてあったりして(笑)寄せ書きに推しの切り抜き張りまくって贈ったり。皆ほんとうに仲良くて、超平和でした。人間関係で悩んだことは一回もなかったです。

──最高。

 みんな「あの頃に戻りたい」って定期的に言ってます。今までで一番楽しかったバイトです。

二〇二一年七月十一日収録
聞き手 かいじんちゃん

【インタビュイーによる追記】
取材から10ヶ月ほど経ちましたが、ヤなことそっとミュート、間宮まにへの熱は今も冷めていません。
そんな中、ヤなことそっとミュートは今年の6/26のライブを以って現メンバーが全員脱退、という形で現体制を終了することが発表されました。
これまで“推しメン”の卒業を見送ったことは何度もありますが、それまでは卒業のタイミングで並行して推している別グループのアイドルが1人は存在していました。
今回は他に推しているアイドルがいない、所謂“単推し”の、高い熱量を保っている状態での発表。未だに信じ難い気持ちがあります。“細く長く”ではなく“太く長く”推してきたアイドルが脱退する、初めての経験です。
最早自分にとって不可欠の存在となっていたヤなことそっとミュートが、現体制でなくなることはすごくショックでなりません。しかしながら、その気持ちはグッと抑え込み、最後まで楽しもうと前を向いています。
これを読んでいて初めて「ヤなことそっとミュート」というアイドルを知った方、もし良かったら6/26(日) 川崎CLUB CITTA'に足を運んでいただけたらと思います。
彼女たちは終わりが決まった今、さらに輝きを増すばかりです。是非1人でも多くの方に目に焼き付けてほしい、目撃してほしい、そう願っています。


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