山崎怜奈著『山崎怜奈の言葉のおすそわけ』
こんなにも繊細に、心の機微を言葉に乗せられるからこそ、彼女はトップアイドルを卒業してもなお、新しいファンを獲得しながら活躍し続けられているのだと思えた。
乃木坂46の元メンバーで、現在はラジオパーソナリティとしても注目されている山崎怜奈。
そんな彼女の初エッセイ本『山崎怜奈の言葉のおすそわけ』では、これまで歩んできた人生や現在の仕事観、そしてこれからの展望が彼女の赤裸々な気持ちとともに綴られている。
15歳の時に乃木坂46のオーディションに合格し、その2年後に正規メンバーに昇格。しかし、同年に学業に専念するため活動を休止する。翌年に慶大へ進学し、学業と両立しながら芸能活動を再開。
以後、明晰な頭脳を持つトップアイドルとして、長年の趣味でもあったクイズの番組出演や愛好している歴史を語った書籍を出版するなど、アイドル戦国時代と囁かれる中でも自身の特色を伸ばしながら多様な分野に活躍を広げた。
そして、大学を卒業した2020年の秋に初の冠ラジオ番組『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』がスタートすると、瞬く間に好評を博し、人気ラジオパーソナリティとしての地位を確立した。
いつだって包み隠すことなく自分を表現し等身大な姿を見せてきたからこそ、彼女は現在の立ち位置を確固たるものにしたと僕には思える。
これまで彼女は、乃木坂46という巨大グループの一員として、ファンに夢を与えながらも自身の抱える苦悩や不安をラジオを通して語りかけてきた。
特別その界隈に詳しくないのだが、俳優や歌手と違い、ファンが思い描くイメージと違ったりすると、すぐにその客足が遠のいてしまうアイドル業の過酷さは素人目から見ても容易に想像できる。
そんな中でも、彼女はアイドルとして自分自身の軸をぶらすことなく活動を続けてきた。
特に自身のラジオで乃木坂46を卒業することを初めて表明した回では、「1つが単純にあるわけではなくて、15歳で加入してから今25歳になるまでに、いろんなものを経験して、見てきた上で、最終的に辞めることを選びました。(中略)グループを卒業した後も楽しみだなって思えるようになった今、ここ数年で生きるのが楽しみになってきたこのタイミングで、1歩を踏み出すのが、今の私にできるベストなのかなと思いました」と語りかけた。
「不安はすごくあるけど、それに負けずにいろんなことにチャレンジし続けられる自分でありたいなと思っています」と締めくくり、人生の岐路に立っても偽りのない言葉で今後の展望を語ってくれた彼女に、ファンはきっとこれからも彼女を応援していこうと思ったことだろう。
本書は、そんな彼女の言葉たちが散りばめられたエッセイを思う存分楽しむことができる、ファン必見な1冊だ。
2021年夏から2022年末に起きた彼女の身の回りのことについて、例えば、放送1周年を迎えたラジオのパーソナリティとしての活動、乃木坂46の卒業、コロナウイルスの自宅療養、金沢への一人旅などで起こった出来事が彼女の瑞々しい感性で言語化されている。
また、人に頼ることが苦手、心の拠り所、多くの情報番組の出演等から知らないことばかりに直面する日々について想うことなどの内省的な部分に至るまで、当時の彼女の心情についても余すことなく綴られているのだから、エッセイ一つ一つに込められた彼女の生き方や考え方は心に残り続けるだろう。
また、本書では、彼女が愛聴しているというラジオ番組『むかいの喋り方』のパーソナリティとして、最近では“令和のラジオスター”とまで称されるお笑い芸人・パンサーの向井慧や、過去行われた対談企画を機に今なお交流が続いている脚本家・三谷幸喜との対談も収められている。
まるで彼女のラジオを聴いているかのような心地よい言葉のキャッチボールは、諸先輩方に対する尊敬とともに、なんとかして心の深い場所にある言葉を引き出そうとする彼女の真摯な姿勢が読み取れた。
最近ではことに傾聴力が持て囃されているが、彼女を見ていると、それプラス質問力や自身の想いを相手がキャッチしやすい言葉で表現する力が必要なのだと思えた。
それに、彼女の言葉には内省を重ねに重ね、慎重に言葉を選んでいる反面、対話によって学びを深めたり新しい視点を発見しようとする強い意志を感じ取れる。
その対話の相手は、ラジオや対談の場合はゲストであったり、本書のエッセイでいうと彼女自身といえるだろう。そんな言葉たちを読み味わうことで、彼女の言葉をおすそわけしてもらえる気分になれる本書は、ある意味貴重な代物だ。
そして僕には、アイドルを卒業した彼女がこれからどこへ向かおうとしているのか、そんな未来の羅針盤のようなエッセイ集だとも感じたのである。
なによりも言葉を大切にし、その言葉たちによって世界を大きく広げていく。そんな風に自身の道を切り拓く彼女を、これからもかげながら応援していきたい。
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