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短編小説 犬

寝ているだけ。働かずにいて羨ましい。楽で良いな。

人々は我々をそう思うだろう。しかしそれは全くの誤解だ。

家族の皆がいないときは一日中家を周り見て、異常が無いか見なければならない。
何かあったときどうする。

家におかしい事があれば徹底的に噛み付いて確認しなければならない。

眠いのはしょうがない。それだけ寝なければ動けないのだ。 私は人々とは違う。

飼い主は仲睦まじい夫婦と息子だ。私は幼少の頃にこの家に連れてこられた。
それ以来家族に会ったとこはないが気にもしない。私にとっては彼らが家族だ。今更何を恨もうか。

毎日が平和だったある日、夫婦の言い合いが日に日に多くなってきた。
最初は深夜に小さい声でだった、私には嫌でも聞こえる。
私は息子が寝ているのを確認して再び寝た。

あれから毎日、夫婦の声は高くなっていく。

息子の前で言い合いが始まりそうになった時は思わず吠えてしまった。息子と散歩に行った帰りに家から言い合いが聞こえる時にはわざと紐を引っ張って別の回り道を選んだ。

私にはそれしかできない。
何も伝えられないし、何も与えられない。

やがて夫婦は離婚した。復縁が良いとは言わない、何が正解かは本人が知っているからだ。

私は自分で息子に付いて行く事を選んだ。
妻は弱い、誰がこの子を守る。

私がこの子を守らねばならない。
父親よ、あとは任せておけ。

引越しの時、息子が私のリードを掴む手はとても力が入っているのを感じた。
私はそれを生涯忘れない。この子は泣かなかった。私の誇りだ。

時は経ち、息子はいつの間にか私が見上げても顔が見えないほど大きくなった。
人が成長するのは遅い。

私は毎日ではないが飼い主を連れずに散歩をする様になった。彼女らも忙しくなったのだろう。別に寂しくはない。責めるでない。
ここは田舎であるし、首輪もついている。近所の人には見知られている。迷う事はない、つまり問題ない。

私は孤独な時は必ず行く場所がある。
住宅街を歩き、突き当たりを曲がる。
昔懐かしい廃れ始めた緑の家。

見慣れている前の家だ。
窓から孤独な男を眺めていると座っていた男はこちらに寄って家に招いてくれる。
そう、私はいつも2人の報告をしているのだ。

お前の前妻は最近は仕事がうまくいって喜んでいるが同じくらい責任も増えて人生を充実してるぞ。

息子は高校に行ってバスケを始めているぞ。
女性に興味が出てきたのか髪型とか、ませてきたぞ。

おい、聞いているのか、これを食えと?良いものをわざわざ用意しやがって。

私は彼の用意した軽食を終えていつもの道を帰る。疲れているのか彼はいつも寂しげな目をしている。
近々どうにかせねば。

帰ったら今度は彼の事を皆に報告せねばならない。

あなたはこの生活を楽と思うか?




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