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花山椒の香りと、脂を包み込む爽やかなしびれ 大人の味覚を味わう4月

植物が一斉に芽吹き出す春。山椒や山菜、筍……。辛みやしびれ、苦みといった「大人の味覚」をぜひ味わっていただきたいですね。特にこの時季ならではの「花山椒」は、口にしたあとに軽く息を吸い込むと、風薫る季節はすぐそこか、と思わせてくれます。

◆緑のつぼみの花山椒

山椒の木の花である「花山椒」。芽吹いたあと、葉が出そろったあたりに小さな緑色の花芽が出てくる、これが花山椒です。

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ブロッコリーと同様、花山椒は緑のつぼみであることが大事なこと。黄色くなって花が咲いてしまうと値打ちがなくなってしまいます。

花山椒を口に入れて、歯触りとともに山椒の香りを楽しんでしばらくすると、口の中に軽いしびれを覚えます。とても爽やかな気持ちになりますね。

山椒が合う素材はだいたい相性がよく、鰻や牛肉、熊でもイノシシでも、脂身とあわせると非常に塩梅がいいですね。

◆鼻をくすぐる香り、軽いしびれを味わう

お店を持った頃、麻布のお店で牛のしゃぶ肉に生の花山椒を使って評判のお店があり、「面白そうだな」と思って、うちでは筍と牛肉と花山椒の鍋をお出しするようになりました。

あらかじめ軽く炊いた筍のところに、霜降りの牛肉を入れて、たっぷりの花山椒を加えて火が入ったところでいただく。爽やかな花山椒の香りが鼻をくすぐり、筍の歯触りと牛肉の脂の甘みを楽しんでいると、軽いしびれがふんわりと包み込みます。

肉の赤と、筍の黄色みと、花山椒の美しい緑色。色のバランスもきれいで、目でも味わえるお鍋ですね。

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鶏肉とゼンマイと花山椒、牛肉とコシアブラと花山椒といった組み合わせもありましたね。良い猪肉ともよく合います。コクのある脂との相性が抜群なんです。

◆花山椒の佃煮や当座煮も

もともと花山椒は、鞍馬にあったお公家さんの別荘でふるまわれた料理でよく使われていたようですね。
山開きの頃になると下働きの者が山に入って、かしわ(鶏)をひねって、山菜類を集めていく。鍋でことことと鶏肉を炊いておりますと、いい出汁が出てくる。

かしわがほとびた頃に、山菜を順番に鍋に入れ、調味をして、最後に花山椒を散らしていただく……。そんな鍋があったんですね。

冷蔵庫がない頃の習いとして、しっとりと炊いて花山椒の佃煮や当座煮を作ったこともあったようです。

この花山椒を炊いたものは、ひなびた見かけは地味ですが、滋味のある存在です。修業先では常備菜のように、焼き物のあしらいに使っていましたが、親方が「わしが若い頃も高かったけど、今もだなあ」と言っていたのを覚えています。

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◆高級品 熱を持たないように収穫

しかしこの花山椒、採るのが手間で。木の芽が100~200枚の中で、花山椒が一つ咲いているようなかたちです。実のつかない雄の花を採るので、花山椒を採るところは、雄をたくさん植えています。

トゲのある山椒に「いてっ」と言いながら、籠いっぱいに採るのは容易なことではありません。1kgあたり30万円ほどの高級品ですが、その値もまんざらではないと感じます。

産地としては奈良や高知など、近畿圏が多いでしょうか。つぶさないように摘み取りながら、熱を持たないように収穫しないといけません。あったまってしまうと一気に黒ずみ、無残なことになってしまう。

花山椒の香りを嗅ぐと、「ようやく春がきたな」という思いになります。鮮烈な香りに、気持ちも引き締まりますね。

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◆えぐみのない白子筍を味わう

花山椒とともに味わってもおいしい、京都・塚原産の筍ががぜんおいしくなってくるのもこの時季ならではですね。

京都の南部で生産されている筍を「白子筍」といいますが、1本1kg前後のものが多いでしょうか。藁の敷いてあるふかふかした地面の下で育ち、えぐみは少なく、甘みと柔らかさが特徴です。

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「雨後の竹の子」といいますが、水があって湿度が高くなると、筍はにょきにょきと出てきます。小雨が降っても、地面がしっとりしていると地割れがないので空気に触れず、えぐみが出にくいんですね。

長年のおつきあいのある筍屋さんにお願いしていて、おいしい筍をいつも用意してくれます。

鍋や土鍋ごはんもいいですし、盛りの時は、茹で上がったばかりのあったかいのを、ただざくざく切って器に盛りつけ、召し上がっていただいたり。ほっこりとした甘みに、ただただおいしいと喜んで頂けます。

◆桜色の鯛 浅瀬に上がって赤みを増す

春は、桜色をした鯛も、またおいしくなってくる季節です。春は「桜鯛」、秋は「もみじ鯛」なんて呼ばれますが、なにしろ「めでたい」お魚ということで、1年じゅう使われますね。
本来は、押しつぶしたような形から、「平らな魚」で「鯛」と名付けられたそうですが。

本州から九州まで、最近は北海道でも獲れる魚。赤くておめでたい様子で、見栄えがいいので人気があるのでしょう。

春は産卵前に、浅瀬に上がってきて甲殻類をよく食べてピンク色が増します。しかしずっと浅瀬にいると日に焼けて黒ずんでしまう。深みにいながら、サッと上がってきて甲殻類をぱくぱく食べたものは、深みのある良い桜色になりますね。

◆海の魚の代表、使い方に無理がない

焼いて姿で使うことは当然のことながら、活け盛りにしてもきれいで、「海の魚の代表」といった印象でしょうか。
鯛しゃぶにしたって揚げたって、炊いたって、土鍋ごはんにしたっておいしい。いろんな使い方に無理がないというところが値打ちのあるところですね。

平目もおいしい魚ですが、総じて比較すると鯛の方が味が強いでしょうか。良い鯛は、たいていどんな調理法でもおいしく、潮汁にしてもうまいですね。


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