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雛の節句に貝合わせ 貝寄風の季節、二枚貝の違いを味わう

冬の季節風のなごりとして吹く貝寄風(かいよせ)という言葉もありますように、3月は二枚貝のおいしい季節です。ひな祭り のお吸い物としても使われる蛤(はまぐり)のほか、タイラガイや帆立(ほたて)や赤貝(あかがい)、ミル貝、ホッキ貝……。さまざまな貝の食感や味わいの違いを楽しんでください。

◆蛤、ひな祭りのお吸い物

雛の節句といえば、蛤のお吸い物を楽しむご家庭も多いでしょう。蛤は「日本書紀」にも書かれているほど昔から食されており、貝塚からも出土しています。

対になっている貝殻が「つがい」としてぴったり合うことから、ひとりの相手と末永く連れ添う、夫婦の象徴であるわけですね。
平安時代には、対になる貝を探し当てる「貝合わせ」なんていう雅な遊びもありました。

市場で「地蛤(じはま)」として売られているものは、千葉の九十九里や茨城の鹿島でとれるもののことです。
これはチョウセンハマグリといいますが、外来種ではなく昔から生息していた古来種だそうですね。外洋に面したところに生息していたため、そんな名前になったようです。

ほかに三重・桑名や熊本あたりでとれる、内湾性の「本蛤(ほんはま)」と呼ばれる蛤があります。こちらは少し丸っこいのが特徴ですね。

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どちらもおいしいのですが、柔らかさは本蛤でしょうか。きわめて数が少なくなってきて、常に市場に入荷するものでもなくなってきています。

◆祝儀の席では「祝い粉」を

韓国では生で食べる文化もあるそうですが、火が入ると生臭みが全くなくなるので、日本では火を入れることが多いですね。握りでも加熱処理したものを使い、おいしく調理しています。

小室では前菜の一品として「酒蒸し」をお出ししたり、黄身酢和えや、辛子酢味噌、おろし和えなどで楽しんでいただいたりすることが多いですね。

蛤は、私たちになんとも慣れ親しんだ味です。

結婚式などの祝儀の席で出す蛤吸い(はますい)には、香りが合うので「祝い粉」をふります。椀ものの縁に、胡椒をあしらいます。春の訪れを告げる海藻・神馬草(じんばそう)も添えるのがお約束ですね。

◆大きな三角形のタイラガイ

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貝殻が三角形のタイラガイ(タイラギ)は、生でよし、焼いてよし、揚げてよしの貝ですね。

30cmになることもある、たいへん大きな貝で、とがった方を半分以上も砂に突き刺したようなかたちで生息しているそうです。

サクッとした食感は、まるで貝がほぐれて分かれるようです。この歯触りが独特で、貝の繊維を感じられます。

◆可食部ばかりの帆立、卵・白子も

帆立は天然物が2~3月に出回ります。9割ほどが可食部となっていて、柱は当然のこと、ひもなんかもおいしい貝ですね。

何より子持ちがおすすめで、橙色をしている雌の卵や、真っ白にふくらんだ雄の白子も、生雲丹(ウニ)に匹敵するほどの旨みと甘みですね。
深い緑色をしている肝も、小石のようなものを洗い流して霜降りすると、おつな味わいです。

帆立は刺身でも、火を入れても、何でもおいしい。とても使いやすい貝といえます。

食べられる部位が多い帆立と違って、タイラガイは貝柱のみを食べます。
生でもおいしいですが、軽く炭火であぶってもいいですね。天ぷらも悪くありませんが、帆立と比べると硬くなってしまいがちなので、サッと揚げることが大事です。

◆希少な赤貝は生食で

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内湾の浅いところにいる赤貝は、言うに及ばず生食が最も味わいを感じられる貝ですね。

「本玉」「地玉」「バチ」という言葉がありまして、本玉というのは江戸前のこと。地玉は地方のおいしい産地のこと、バチは「場違い」ということで、あんまり言わなくなりましたが、海外産のことを指しています。

宮城・閖上の赤貝は「本玉」と呼ばれていましたが、今は久しくとれなくなっています。そうなると国内産は「地玉」となりますが、瀬戸内あたりの産地が多いでしょうか。

赤貝が希少となって、赤貝とよく似た種類のサルボウ貝が「赤貝缶詰」として売られていることもあるようです。

古くは庶民的な赤貝でしたが、今では高級品になってしまいました。貝が全国的にとれなくなってきていて、温暖化の影響ももちろんですが、食べ過ぎという面もあるのでしょう。

◆ミル貝も「本ミル」と「白ミル」

貝からはみ出した姿が特徴的なミル貝。こちらも身が太ってきておいしい時期です。

希少な「本ミル」は「ミルクイ」を指し、なかなかお目にかかれません。
「白ミル」は「ナミガイ」といって、これまでは大衆的とされてきましたが、ないがしろにできない召し上がる価値のある貝です。

弾力のある歯触りが「しぎしぎ」と表現したらいいのでしょうか。ミル貝ならではの食感と味わいは、春先に食べたい貝のひとつですね。

国産の赤貝は1kgあたり4000~6000円。ミル貝は、なかなかとれないときは6000円~1万円と異常に高くなり、市場にある時は3000~4000円と幅があります。

栄螺(サザエ)や鮑(アワビ)などの巻き貝は太っていくと、入り口から身を押しても、入っていく速度が遅く、身の太り具合が分かります。

二枚貝も、さわって簡単に縮まないものが身が詰まっていて良いですが、これはさわっただけでは分かりづらいですね。

◆味わいの強いホッキ貝で土鍋ごはん

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北海道や東北でとれるホッキ貝は、冬に入って太り、味わいの強い貝です。卵をもつ春先ごろになるとやせてくるので、今が食べ頃です。

生でもいいのですが、サッと霜降りすると、まとっていた貝くささが旨みに変わります。焼いたり炊き込みごはんにしたりすると、より深い味わいを得られます。

貝ごはんの具として、ホッキ貝の淡いピンク色や青柳のオレンジ色は、目にもいいですね。
蕗などを湯がいて小口切りにして混ぜ込めば、シャリシャリ感と貝類の歯ごたえのマッチングを楽しめます。木の芽を散らすと色合いの大変美しい土鍋ご飯が出来上がります。

二枚貝は一律どれも好きですが、ホッキ貝の炊き込みごはんはぜひ味わっていただきたいですね。ホッキ貝を「しんじょう」にしてもひたすらに美味で、かめばかむほど甘みが広がります。

脂っ気がないので、バターで炒めてもおいしいですし、出汁がしっかり出るので、シーフードカレーにしても負けません。赤貝とは違った風味があって、帆立よりも深みがあるように感じます。

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