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節分にちなんだ鬼虎魚(オニオコゼ)で邪気払い 旬の干し子・細魚(サヨリ)を味わう2月

日本料理は節句や催事にちなんだものを材として使うことが多いです。節分を迎える2月は鬼虎魚(オニオコゼ)を味わってください。鬼の金棒のようなかたちのナマコ、その卵巣をつかった高級珍味「干し子」や、この時期に旬を迎える細魚(サヨリ)もおすすめです。

◆ユーモラスな顔立ちの虎魚

虎魚は「夏河豚」と呼ばれて夏に所望される向きがあるものの、寒中でもおいしく、1年じゅう味の落ちることがありません。

鬼のような見た目で、私が何を言うかとおっしゃられそうですが、まことに面白い顔をしていますよね。
上からつぶしたような頭をした鯒(コチ)同様に、スマートというよりユーモラス。なんでこんな造形になったんだろうと不思議に思います。

「あんな姿の魚を食べるなんて昔の人は度胸があったわね」とおっしゃるお客さんもいらっしゃいますが、木の皮だって食べられないかと思案して煮炊きしたぐらい。料理人にとっては石以外はまな板の俎上に乗っています。虎魚は食べるには全く不思議のない魚です。

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◆味と食感がそろった高級魚

ヒレの先だけ毒があって気をつけなければいけませんが、河豚より容易にさばけます。一方で、河豚とは身質が全く違います。虎魚は身がいかっているうちが値打ち。河豚は寝かせた方が味わいが出てきます。

虎魚は日本の広い沿岸部に生息しています。瀬戸内のものは間違いなく美味。東京の市場によく入ってくるのは能登のものが多いでしょうか。

最近はどんな魚でも「高級」と呼びがちですが、鬼虎魚はまさに高級魚と言っていいでしょう。味と食感がそろっている良い魚で、1kg1万円ぐらいになりますね。

生息域が狭い根魚系統は、カサゴなんかもそうですが、胃袋や肝がおいしい魚でもあります。忘れずに召し上がってほしいですね。身が薄くなってしまうので、うちではあまり子どもを持っていないのを選んでいます。

◆お椀やちり蒸しで、きれいな味わいを

鬼虎魚は身に脂がなく、すっきりさっぱりした味わい。旨みがじわっとしみ出します。

2月はお椀で出すことが多いですね。さばいたあと小骨を抜き、食感をふんわりさせるため、骨切りのように身を切っていきます。その身に奈良の吉野の葛粉を打って、昆布だしで煮あげます。

お椀やみそ汁にして、ヒレのコラーゲンを前歯ですすり取るようなかたちで召し上がって頂いてもいいですね。

ほかにもお造りや唐揚げでも喜ばれます。昆布の上に霜降りした身をのせ、葱や茸を添えて酒蒸しにした「ちり蒸し」も、きれいな身質の味わいを楽しめます。

◆ナマコの卵巣でつくる「干し子」

この時期ならではの高級珍味もぜひ味わっていただきたい。ナマコの卵巣(このわた)を使ってつくる「干し子(ばちこ)」です。

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しかし近年では、干し子にしたり、干しナマコ(きんこ)にしたりできるようなナマコが激減してしまっています。

水っぽくなく、身のしまった質の高いナマコでないと、形よく味わいよく仕上がらないそうです。さらに干すと10分の1ぐらいに縮んでしまうので、干しナマコをつくるには数十センチぐらいの大きさがないといけない。

干し子は、質の高いナマコのさらに希少な卵巣を使って干していくわけですから。もしナマコが1トンあったとして、10kgとれる、といったイメージでしょうか。さらにそこから製品として出てくる干し子は数kgぐらいでしょう。たいへん貴重なものだということが量からも分かると思います。

◆船着き場のそばに橙色のハンカチ

干し子は、ナマコの細い卵巣をたくさんより合わせてつくります。12~1月の卵巣はまだ細くて短い。2~3月ぐらいになると太く長くなってきますが、4月になると今度は風がなまぬるくって良い干し子が干せません。気温や風にも左右される珍味です。

ナマコと聞いて皆さんがイメージするのは能登や岡山・備前でしょうか。うちは淡路島の品川水産にお願いしています。質のいいナマコがとれるところなら、どこでもおいしい干し子ができます。ただ、業者によっては内臓をさわらないところもあるようですね。

干し子をつくるところにお邪魔したら、幸せの黄色いハンカチならぬ、橙色のハンカチがはためいていました。船着き場のすぐそばが加工場で、橙色の三角形が何百枚も広がっていて、それは壮観でしたね。

1週間ほどで干し上がりますが、きれいな三角形に仕上げるには雨に当ててはいけません。1~2度、手直ししますが、ひと雨くってしまうと形が沿って変わってしまう。

干し子もその一つですが、面倒なことをしっかりして美食を作ることにおいて、日本人は本当によくやってきたものだなと思いますね。

ポピュラーな頂き方は、お酒に軽く浸しておいて、軽く炙って。少しずつちぎりながら、日本酒を片手に……というのがとにかくおいしい。干し子酒もいいですね。

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おひたしなどに刻んで入れたり、茶碗蒸しに入れたりもできますが、あまりに刻んでしまうと、もとの味わいが楽しめずにもったいない気がします。老若男女、この味が嫌いな人がいないのも特徴ですね。

◆生ナマコでも乾燥でも、このわたでも

たんにナマコといっても何種類かありますが、だいたい使うのはアオナマコかアカナマコですね。赤い方が少し身がこりこりしているでしょうか。

生のナマコをいただくときは、「茶ぶりなまこ」といって、ほうじ茶にさっとつけて軽く身が締まったのを、お酢につけてお出しする食べ方もあります。

乾燥ナマコの「きんこ」は、ナマコのぼつぼつしたかたちが鬼の金棒のようなので2月の献立に入れたり、「金子(きんこ)」としてお祝い事やお節に使ったりすることもあります。

日本では生のナマコの方が料理に使われますが、「きんこ」は賄賂として使うというほど、中国では非常に重用されています。

ナマコのはらわたを塩辛にした「このわた」は、お造りにかけて召し上がっていただくことが多いですね。

冷蔵技術が上がって交通の便がよくなり、あちこちのおいしいものが食べられるようになりましたが、それが過ぎてくると自然環境が破壊されて天然ものが当たり前に食べられなくなってしまう。数少なくなってきている干し子ですが、いまはおいしく食べられる自然の豊かさを心楽しく味わっていただきたいですね。

◆加減醤油でサッといただく細魚

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細魚や針魚と書く「サヨリ」も、12月ぐらいから身がよく太ってきて肉厚になり、1~3月中旬ぐらいまでがおいしいお魚です。

ひな祭りの頃に使うこともありますが、1~2月のおろしたてをサッと加減醤油で召し上がっていただきたいです。

軽く昆布締めしたり、葉山葵とともに召し上がって頂いても美味ですね。3月以降は焼き物や揚げ物でしょうか。

細い魚なので、切り身2枚を編んで飾り付けする「木の葉作り」で出すところもあるようです。
2月の「初午」にちなんで、細魚とエビと糸三つ葉を入れて三色で「手綱寿司」をつくることもあります。

◆花見魚・かんぬきとも呼ぶ初春の魚

宮城から以南の太平洋側に生息し、身がかちっとしているのが良い細魚です。持ってだらっと垂れてしまうのはダメですね。漁師さんも分かっているので、しっかり氷で冷やし、丁寧に扱ってくれます。

春に旬を迎える細魚を、石川では「花見魚」と呼ぶこともあるようです。また、80~100gより上の細魚を「かんぬき」とも呼びます。寒中をぬきんでてくるという意味と、錠前の「かんぬき」の一部に似ているから、という意味とありますね。初春を代表とする魚です。

細魚ならではの味わいの特徴は、歯切れがいいことでしょうか。この味わいに人気があって、大きいものの値段は高級魚クラスです。100gを超えた細魚は、1kg6000~8000円ぐらいしますね。

中骨やヒレが小さく、骨せんべいもできます。料理の歩留まりはよく、捨てるところがあまりない魚でもあります。

◆寒さの中で味わう甘い白味噌

また、この時期にご紹介したいのが、甘い調味料として古くから使われていた白味噌です。昔から白味噌と干し柿の甘さは重宝がられていました。

信州・仙台味噌のように朝餉に必ず飲むようなものではなく、西の方ですとお雑煮といったハレの日のお椀に使われることが多いでしょうか。

うちでは京都老舗、創業200年の松野醤油の白味噌を使っています。特徴はとにかく「甘み」です。

寒中にいただく雅な味噌は、米のうまみが綺麗に出て、しっかり甘いものがおいしいように感じます。お椀でお出ししたり、木の実や柚子味噌のベースに使ってもいいですね。

お味噌汁にするときは、生の白味噌を使うのがポイントです。ご自宅で白味噌を買ったときは冷凍庫での保存をおすすめします。冷蔵庫だとだんだん酸っぱくなってしまい、冷凍庫の方が味わいが長続きします。

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