都市と傘

5月になりました。もうすぐ梅雨が来ますね。僕は天然パーマなので、梅雨はあまり好きではない。雨そのものは嫌いではないけど。

傘の出番はだいたいよくない日。男性のビジネスマンにとって、傘ほど似たり寄ったりの世界は無い。大人の男性が赤や黄色の傘をさす人は珍しく、濃紺か黒。あとはいわゆるビニール傘の透明か白。

それでも成り立つくらい成人男性にとっての傘は、あまり興味をそそらない無味無臭の世界。その中で無難にビニール傘を選ぶも、問題は空から否応なしに降ってくる。

ビニール傘はコストを重視して生産されているためそれ以外の少し高いかさに比べてすぐに壊れる。聞くところによると年間8000万本のビニール傘が廃棄されているらしい。SDGsもおどろきの数字。

時には人と同じものでかぶってしまい(厳密には少し違ったりもする)が誰のか分からないから、適当に持って帰られてしまう。量産されたものとは言え、ひとつずつ風合いはあるはずなのに、自分のだと思って手に取るとどこか違う感じがして気持ち悪い。いい歳して名前を書くのもなんだかね。

いろんなデザインがあるので前に買ったものが手に馴染んでいても同じものに巡り会えることは少ないかも知れないし。

興味をそそられないが故にビニール傘で済ませていた時期があった。しかし壊れる、盗られるなどいいところが無かった。短寿命はもちろん環境にも悪い。でもちゃんと長く使えるいい物をそれなりに高いお金を出して買うには、情報も売り場も無さすぎる。

そんな時ある傘に目が止まる。セブンイレブンのプライベートブランドの紳士傘だ。

しっとりとしたガスインジェクション成形で生産されたハンドル。撥水加工を施された生地。カバーもついている。

何よりジャンプ傘(ボタンを押すと開く傘)でありながら、ボタンがない。つるっとしたハンドル。無駄なものがなく、色は黒のマット。大振りの傘で、ビジネスバッグごと入るであろう広い傘はもちろん小を兼ねる。

デザインの目で見ると、暗黙知として傘のアイコンらしい姿をしている。車のアイコンがタクシー(トヨタ クラウンコンフォート)であったりするように暗黙知としてのデザインは、大衆の軸になり得るのではないかと僕は考える。そうした意味からもこの傘は優れているし、さっき言った付き合いやすさが表現されていると思う。

いい意味で匂いがないのだ。

これは主観的なイメージだけど、成人男性にとって傘とはファッションアイテムにおそらくなり得ない。だからこそいつでも「気楽に付き合える物」が今のところ最適解だと思う。その中でこのセブンイレブンの紳士傘は自己ベストだ。

そしてここで都市にいることのメリットが発揮されるのだが、突然の雨でも売っている場所(セブンイレブン)がわかれば、いつでも手に馴染んだあの傘を買うことができる。増えたってそんなに気にならないし、みすぼらしいボロボロのビニール傘よりも少なくとも使用者がちゃんとした人に見える、スーツでも耐えられる十分なデザインのクオリティである。

先日突然雨が降ってきたことがあり、小雨なら無視するところが結構大粒だったのでセブンイレブンを探して入店した。その店にはなぜか売っていなくて、濡れながらもう一件わざわざ探して買った。本来の意味性は少しだけ雨によって流されてしまったが、いつものしっとりとしたガスインジェクションのハンドルに触れることができた。

長く付き合える、いい意味で個性がない、普遍的な商品を気楽に買うことができる。という極めて道具に徹したこの傘は、税込み1485円。

僕はこの傘を3本持っている。


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