「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―19.想いの対価
❅19.想いの対価
「ごめん、サマエル。
ごめん。…でも僕はサマエルを失いたくないよ。」
サマエルの瞳が懇願するように色を帯び僕を射抜く。
それでも譲ることなんて出来なくて。
必死に見つめ返して何が伝わるというのか。
強く底光りするサマエルの瞳が譲らないと物語っている。
「…嫌われたっていい僕はサマエルを失うわけにはいかないんだ。」
「失うっていうならおまえじゃなくて俺だろ。お前を失わないために言ってる。ミハイルは俺を置いていくのか。それに、一緒に逃げるなら俺だっておまえだってその可能性はある。」
いつもと変わらないはずの淡々とした抑揚のないはずの声の裏に滲む途方もない色。
サマエル…信じたい、信じたいよ。
「おいてかないし、そうだけど!」
反論すればするほどじりじりと追い詰められて逃げ場をなくした。
手駒をなくしたように意味のなさない拒否を連ねては水面に波を立てるように落とされる。
「…僕は、ただサマエルが生きていてくれればそれでいい。
それでいいんだ。だから。」
言わないでと願ったところで逃げられはしない。
「じゃあ、一緒に逃げればいい。」
にらみ合うようにして逸らせない視線のまま沈黙だけが横たわった。
お互いのどんな機微すら見逃さない緊迫。
「サマエルを失うくらいなら、僕はこのまま死んでいった方がいい。」
ぽつりと隠しきれなかった本音が零れた。
「勝手に死ぬ前提にするな。“失うくらいなら”、っていうんなら俺を守ってくれ。そうすればいいだろ。俺もおまえを守りたい。」
サマエルはずるい。こんなふうに大事な時に限って真っ直ぐなんだから。
僕だって望むことは同じ。それをわかっててこんなこと言うんだ。
それなのに、譲る気なんかまるでない。
「本当は、サマエルと一緒に逃げたい。でも!」
でも、蘇るあの声。
「俺は死なない。約束する。」
「ああ…もう…。」零したのは悟った負け。
必死で真剣な瞳だった。突き付けられたのは宣言だった。
「…わかった。…分かったよ。」
僕がなんとしてでも…。
僕は、何を差し出してでもサマエルを守るよ。
だから。
―――――――「…サマエル、…あんただけは死ぬな。」
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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